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No.15




 No.15




 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。


 切り刻まれた渡界者の体をつまみ上げ、口の中に入れ喰らう赤黒い巨体な鬼。


 「……モンスターが人を喰らう、だとッ……!?」


 その様にアスラが驚愕の声を上げる。


 「生きている以上他の生物を食べることは当たり前の事では? 生理的にはどうかと思いますが」


 生物的には何ら問題ない行為だとシンは言う


 「モンスターはな、他の生物を襲うことはしても。その襲った相手を食うなんてことはこれまで一度も確認されたことはないんだよ!」

 「一度もですか?」

 「ああ。モンスターが襲った相手を咬み千切った拍子に飲み込んだ何てことはあるが。()()()()()食うと言う行為は今までしたことがない」


 赤黒い鬼が食べきる前に食われていたモノは光となって消えていく。その様子に不満げな声を上げる赤黒い鬼。


 「それにだ。安定した結界が張られているって言うのに、その結界を突き抜けて外に出てくるモンスターも居やしなかった」


 アスラ達にとってはそちらの方が何よりも重要である。

 『聖地』を真似て『はぐれ異界の門』よりモンスターを出さない為の処置。その処置が何の意味もなかったと言うのであれば、それは『聖地』でも同様にモンスターが出てくる可能性があると言う他ならないからだ。


 「ではあれは突然変異(レアモンスター)と考えるべきですかね?」

 「言ってくれるねえ。前例が出てくるってことは、今後も出てくる可能性があるんだぞ」

 「その辺は今は考え出したら切りがありませんよ。それよりモンスター(あちらの方)は、私達を目標としたようですよ」


 赤黒い鬼はシン達を、取り分けシンを睨むように見つめ。


 「GAAAAAAAAAAA!!」


 咆哮を上げ、その巨体からは信じられないほどの速さでシン達に向かって突進してくる。


 「散開しろ!!」


 アスラが固まっていた騎士団員に大きな声で呼び掛ける。驚いていた者達はアスラの声で正気に戻り。赤黒い鬼の進路上から慌てて逃げる。

 赤黒い鬼は逃げていく騎士団員達に目もくれずにシン達の方へと真っ直ぐに向かっていく。


 「ッチ! 狙いはこっちか! カムイッ!」

 「おう!」


 突進してくる赤黒い鬼はアスラは槍を。カムイはその拳で応戦する。


 「らあッ!」

 「シャアッ!」


 アスラが鋭き突きを。カムイが剛拳を打ち放つ。

 しかし互いの攻撃など効かぬと言うように赤黒い鬼はそのまま二人を吹き飛ばし。突き破ってシンへと肉薄する。


 「ぐぅッ! 避けろッ!」


 先程のゴブリンの時に持っていたスコップはゲオルグに返却してしまい、現在は無手のシン。戦う術を持たぬシンに逃げろと叫ぶアスラ。


 「ふむ。先程のゴブリンとは違い。スピード。パワー。タフネスは有りそうですね」

 「GAAAAAAAAAAA!」


 シンは向かってくる赤黒い鬼を観察しながら呟く。

 その巨体にあった腕を振り上げ。ここまで葬ってきた渡界者同様に、その爪でシンを引き裂こうとする。


 「ですがやはりーーー」


 振り下ろされた腕をシンは紙一重で躱しながら、その腕に手を添え、自らも半回転をしながら、赤黒い鬼の軸足を蹴り、その重心を少しだけずらす。そして突進してきた勢いを利用して、大人と子供ほどの背丈差がある赤黒い鬼をーーー。


 「まだまだです」


 一本背負いの要領で投げ飛ばした。

 ズドンッ! と大きな音を立て地面に投げ飛ばされた赤黒い鬼。その様子に誰もが唖然とし、そして叫んだ。


 「「「「何でその体格差で投げれるんだあああ!?」」」

 「いえいえ。私一人の力だは無理ですよ。ほら在るじゃないですか『柔よく剛を制す』です。ええ、よい言葉ですね」


 周りからの疑問の声に、その投げ飛ばした本人は謙遜(意味不明)な言葉で説明していた。


 「Gu……GAAAAAAAAAAAッ!」


 投げ飛ばされた赤黒い鬼は最初何が起こったのか理解が出来ず呆けていたが、自分が投げ飛ばされたと理解すると立ち上がり。咆哮を上げ、再びシンに襲い掛かった。


 「力任せですね。せっかくの肉体が泣いてますよ」


 シンは慌てる事なく。赤黒い鬼の攻撃を避けながら自らも前に出て、空気投げの様にして赤黒い鬼を投げ飛ばした。

 赤黒い鬼は投げ飛ばされては怒りを燃やし、シンに何度も襲い掛かる。

 しかしシンもその都度投げ飛ばした要るが、決定打になら無いと理解していた。

 そしてカムイやアスラ達騎士達が、そんなシンの戦いにどう割り込んで言いか考えている時に、赤黒い鬼は同じように何度も投げ飛ばされ。再び立ち上がってはシンに襲い掛かるではなく。その場で何かを呟く様に喋ると。赤黒い鬼の周囲に炎の槍が出現した。


 「モンスターが火の術式を使うだと!?」

 「避けろシン! それの術式は単発式だが貫通力と速度があるやつだ!」


 カムイ。アスラが忠告するも赤黒い鬼の方が行動が早く。その炎の槍を投げるような仕草をしてシンへと放った。

 さしものシンも炎の槍を投げ飛ばすと言うことは出来ないが。


 「これなら避けるのは問題ありません」


 シンはそれだけ言うと炎の槍に向かって走り。躱し、更に赤黒い鬼に肉薄し。深く息を吐き。大地を踏み割る勢いで足を踏み込み。そのエネルギーを足から腰。背中。肩。腕。その掌に全て伝達していき。赤黒い鬼の脇腹に打ち込んだ。

 ズドンッ!! と言う爆発系の術式を放ったかのような音が響くと、赤黒い鬼は数歩よろめきを見せた。


 「……やはり()()()()のダメージしか与えられませんか」


 直ぐ様赤黒い鬼から距離を取る。

 分かっていたことだが、技の威力が現実(リアル)の時より極端に落ちている。そのせいで赤黒い鬼を倒しきるほどのモノがないと改めて自覚したシンである。


 「さて、どう致しましょうか?」


 困っていると言うわりには、それほど困ったと言う感じには聞こえてこない。


 「すみません。騎士団の方の中で、このモンスターにダメージを与えられる方はいらっしゃいますか?」


 シンは炎の槍を再度投げつけてくる赤黒い鬼の攻撃を避けながら騎士団に問う。

 そんなシンに呆れるやら驚くやらの騎士団達。その中でカムイがシンの質問に答えた。


 「無理だ! 攻撃力だけで言えば私やアスラが一番高い。それが通らないと言うことは誰の攻撃でもそのモンスターに与えられないと言うことだ」

 「それは弱りましたね。私の攻撃もそれほどではありませんし。町にいる攻撃力の高い渡界者の方を呼びますーーーッ!?」


 赤黒い鬼の攻撃を避けている最中に、その攻撃の仕方が変化してきた。シンは慌ててそれを避け、赤黒い鬼に注目する。


 「攻撃パターンが変わりましたか。学習した、と言うことでしょうか……。そうなるとこのモンスターはゴブリン達とは比べ物にならないほど、厄介な存在になりますね」


 シンが思った通りに赤黒い鬼はその攻撃方法を次々と変えてくる。シンはその都度避けているが、次第にその避け方に余裕がなくなってきた。


 「本当に今、倒さなければ、被害が大きくなりそう、です!」


 炎の槍がシンの頬を擦る。それを見て赤黒い鬼はニヤリと笑い。咆哮を上げ。更に攻撃の速度を上げた。


 「……まったく、敵を倒してもいないのに笑うのは頂けませんね。そんなのは三流すらやらない行為ですよ」


 赤黒い鬼の行為に若干苛立ちが募るシン。

 しかし攻撃手段が無い為、避ける以外の方法がとれないでいた。


 「シン! いま町に応援を呼びに行った! それまで持ちこたえられるか!」


 アスラから声にシンは振り向かず答える。と言うより最早振り返って答える余裕はなくなってきている。


 「時間にもよります! このモンスター、思いの外学習能力が高く。あと三十分も戦っていれば間違いなく町の方にも被害が出るほどに強くなります!」

 「なッ!? どこまで規格外なモンスターなんだ! シン! お前の方は持つのか!」

 「今のままであれば問題ありませんが、三十分後はどうか分かりませんね。私の意見といたしまして、このモンスターを早めに倒すことをお勧め致します」


今の状況では無理だと分かっていてもそう言う他なかった。


 「シン。さっきの幻術をそのモンスターに掛けるのはどうだ?」

 「使っても良いですが、倒す手段が無い以上、意味がないと思いますが」


 ゴブリンの時は倒す手段が取れたから出来た方法だ。だが赤黒い鬼の場合決め手がないで使えば、痛手を負うのはこちらである。

 どうにかしなければと焦るアスラ。そこでカムイがシンのもうひとつのスキル()を思い出す。


 「あれは何が来るか分からない召喚術てすよ。今呼び出しても状況を変える(ブラス)となる使役するモノ(サーヴァント)が来てくれるかどうか」

 「この際なんでも構わね! 俺たちじゃ手も足も足せないんだ。やるだけやってみてくれ!」

 「それは構いませんが。良いんですか? 本当に何が来るか分かりませんよ?」

 「いいからやってくれー!」


 何が来るか分からないと言われると、騎士団員達は全員シンから距離をとる。


 「そこまで警戒されなくても言いと思いますが」


 そうは言うが渡界者が使うスキル()。どんな惨事を引き起こすか分からない以上、逃げるのは当然である。

 シンは赤黒い鬼から一旦離れ召喚に必要な術文を唱える。


 「『《魔技(スキル)》・来たれよ。来たれ。

 其は忘れ去られしモノ。其は途絶えしモノ。其はまつろわぬモノーーー』」


 術文を唱える始めるとシンの足元に光の魔方陣が現れる。


 「『我は今、汝等との(えにし)を求める者なり。

 我は時を紡ぎ。想いを重ねり。共に歩みを望まんとする者なりーーー』」

 「GAAAAAAAA!」


 シンが何かをし始めたと感づいた赤黒い鬼は、炎の槍を投げシンの行動を邪魔をする。

 投げられた槍を避けるシン。すると一緒に魔方陣も付いてくることに気がつく。

 これはいいと、シンはそのまま避けながら術文を唱えた。


 「『我が言の葉よ届け。

 其は英雄なるモノよ。其は叡智持つモノよ。其は慈愛深きモノよ。

 我は常世に善を成し。悪を滅する者なりーーー』」


 「GUAAAAAA!!」


 移動していく魔方陣が平面型から立体型に変わっていく。

 それを見た赤黒い鬼は、シンの魔方陣(それ)が何だか分からないが、自分にとって都合の悪いものになると感じた。

 それ故に赤黒い鬼は炎の槍だけでなく、自らも近寄りシンへ攻撃することを決める。


 「『今ここに剣を。杖を。盾を。

 我が命運と共に、これら全て汝へと預けよう。

 今は理の輪より外れし汝らよ。この意に従うならば疾く馳せ参じ、その姿を現せ』」

 「UGAAAAAA!!」


 大きく振りかぶるように打ち込んだ拳。シンへと到達する前にシンの術文が完成する。


 「ーーー【幻想召喚(コール・サーヴァント)】」


 完成した瞬間魔方陣はそこに太陽が落ちてきたかの如く目映く輝く。

 目が眩むほどの光量に赤黒い鬼はたじろいだ。

 立体型の魔方陣は更に形を変え、人の姿へと変化する。

 光輝く人はシンへその手を差し出す。

 シンは我知らずにその手を握り。そして引き上げるように自分の方へと光輝く人を寄せた。

 光は消え。後に残るは残光の光とーーー


 『あっはっはっはっはっ!! この俺様を呼ぶ奴はどこのどいつだ!』


 馬鹿みたいな笑い声をあげる。柄も鍔もハバキもない。刀身からすべて黒色の巨大な出刃包丁の様な形をした片刃の大剣が現れた。


 「これは……!?」


 さしものシンも驚き声をもらす。その声を聞いた片刃の大剣。そのハバキの辺りにギョロリと、赤黒い眼のようなものが出現してシンを見る。


 『おうおうおう! お前が俺の召喚者(マスター)か?』


 どこから声を出しているのか、片刃の大剣はシンに問う。


 「え、ええ……私が貴方を喚びました。ええっと、貴方は何でしょうか? しゃべる剣ですか?」

 『おおっと! そいつは後にした方がいいぜ。そら避けな! ここが戦場(いくさば)だって忘れちゃいないか?』

 「はっ! いけません!」


 余りの出来事に呆けていたシン。片刃の大剣の忠告により。自分よりも早くに正気に戻っていた赤黒い鬼の攻撃をすれすれで避ける。


 『かっー! いいねいいねいいねいいね!! 喚ばれて飛び出てきてみれば! 戦場(いくさば)騒動真っ只中! おあつらえ向きに喰いでの有りそうなモンスター()が要るじゃねえか! おい! 召喚者(マスター)! 俺様に名前()を寄越しな! そしたら召喚者(マスター)と共に戦ってやるよ!』


 活気溢れる声でシンへと契約(命名)を求める片刃の大剣。


 「それはありがとうございます。私が渡界者のシン。幻想者(ファンタズム)と言う職業(ジョブ)を持っております」


 シンは赤黒い鬼の攻撃を避けながら簡単な自己紹介をする。

 それに対して片刃の大剣は律儀な奴だと言い。返礼だと言って芝居かがった口調で己の名前以外を語る。


 『名乗ったのなら返さなくちゃなんねぇなあ~。よっしゃ! その耳かっぽじってよぉく聞きやがれえ!

 かつて東方随一の鍛治師の一人と言われた、天人族(エンシェ)のモッチモチモチモンチッチーの作った傑作中の傑作に! 使い手によってはあらゆる武器にその姿変える。奇想天外摩訶不思議な大剣があった! 大剣はもちろん。小剣、片手剣、槍、斧、弓と、武器と名が付くものには何にでも姿が変わる変わった剣がな。

 そして作られてから大剣が九十九の年月越えて。その大剣()に命と意思を宿した『人工霊人族(ツクモ)』へと変化したのが! この俺様と言うわけよ! どうだ驚いたか!』


 聞いて驚け見て騒げと言うように言う片刃の大剣。しかしシンは。


 「くっ! また少し鋭くなってきましたね。あ、すみません。少し聞いていませんでした。ところでお名前『百地』さん、と言うのはどうでしょうか?」

 『聞いてなかったのかコンチクショウやがれがあ!! あとなんでその名前になった!?』

 「いえ、所々聞いていたらそんな風に聞こえたものがありまして。ああそれと、ツクモと言うのは九十九神(つくもがみ)から来ているんでしょうか? 物が大事にされて百年たったら命を宿す。そんなところからも付けてみましたが、如何でしょう?」


 片刃の大剣は『むむむっ』と、唸るように声をあげて。


 『良いだろう! これより先、俺様の事は百地と呼びな!』

 「では改めてよろしくお願いします。百地さん」

 『"さん"は要らねぇ。呼び捨てにしな召喚者(マスター)

 「これは性分なもので。百地さんの方も私の事は好きに呼んでくれて構いませんよ。ああもちろん、変な呼び名はやめてくださいね」

 『なら相棒だ! 俺様を振るう奴は、俺様と一心同体の間柄だからな!』

 「わかりました。では百地さん。モンスター(あれ)をどうにかしたいのですが、貴方の性能()でどうにか出来ますか?」

 『さてどうかな? 俺様の性能()は持ち主によって変わっていく。素人(下手くそ)が振るえば、例え神刀、聖剣と呼ばれるような刃を持とうが斬れはしねえ。だがーーー』

 「達人(玄人)が持てば、例え小さな枝でも岩も切り裂くーーーですか」

 『おっ! わかってるじゃねえか! んで、相棒はどっちだい?』


 シンは百地の問いに答えず、その刃でもって答えた。


 ーーー斬!!


 赤黒い鬼の左腕が滑るように切り落とされる。

 その様に百地は口笛を吹き。『やるじゃねえか』とシンを褒め称えた。
















次回の更新は12月30日となります。

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