No.13
No.13
それには仲間意識と言うものがない。何しろ全て同族なのだから。
それ故に同族以外は全て殺戮対象である。
相手を殺し。喰らい。蹂躙していく。
例え同族が目の前で倒され、殺されても感傷等は抱かない。まだ同族は沢山要るし、必要の無いものだからだ。
だから目の前にいるモノタチに対してだけに集中する。
ーーー殺せ。喰らえ。奪え、と。
目の前にいるモノタチに自らが持っている武器を使い襲いかかる。
だが目の前にモノタチは抵抗し。なかなか殺せない。何人もの同族が倒されるが、減る度に新しい同族が『異界の門』から産まれてくる。
しかしそれでも、この目の前にいるモノタチを殺せないのに苛立ちを覚える。
それは殺戮衝動しか持たないそれに『怒り』と言う感情が芽生え始めていた。
その怒りの感情は、それに変化をもたらそうとしていた。
☆★☆★☆
「もっとモンスターを引き付けながら下がれ!」
「両部隊は密集陣形のまま左右に展開しろ! 合図が有り次第その場にて留まれ!」
カムイ、アスラが両部隊に指示を出す。その間シンは、二人に守られながら【幻術】をフィールドに投影する為のイメージを構築していた。その準備が整うと二人にその事を告げる。
「「両部隊、停止! 防御態勢!」」
二人の大きな声に他の騎士達は直ぐ様立ち止まり、防御の態勢をとる。
それを見たシンは、三日月のようなの目をカッと見開き術文を唱える。
「『《魔技》・虚ろなる夢をここに』」
持っていたスコップを地面へと突き立てる。
突き立てると地面は緩やかな振動を発した。
「『まやかしなる幻をここに。在らざる夢幻をここに築き上げよ』」
その揺れは徐々に大きくなり。
「『【夢幻泡影・幻灯】』」
二手に別れていた騎士達の目の前の大地が急激に隆起して、壁となる。
騎士達は壁の向こう側に消え。シンとゴブリンと『異界の門』を繋ぐ一本の谷の様なトンネルが出来上がる。
突然の壁に慌てふためくゴブリン。
そんなゴブリンにシンは正気を取り戻させるように、ゴブリンに向かって石を投げつけ、挑発する。
「どうしました。来ないのですか? 数だけが取り柄のあなた達が。怖いのなら『異界の門』へ帰っても良いのですよ」
その言葉の意味が理解出来た訳ではないだろう。それでもゴブリンは咆哮を上げ。未知の力に動揺することなく。また『異界の門』に引き返すこともなく。シンに向かって襲い掛かっていく。
ゴブリンが『異界の門』から離れる。
シンへとあと少しと言うところで、いつの間にかシンの側から消えていた、カムイとアスラの声が響く。
「「一列横隊! モンスターと『異界の門』を分断せよ!!」」
「「「「オオオオオオオオッ!!!」」」」
大きな戦声と共に隆起した壁が消え。騎士達が現れる。
そして『異界の門』へと続く方向に横一列に並び、ゴブリンを牽制する。ゴブリンは再び現れた騎士達に動揺し。その行動を止めた。
「「設置班は『異界の門』に結界の設置を!」」
二人の言葉に列から二人の騎士が『異界の門』へ向かって走っていく。素早く結界を作る陣を形成していく。そして発動準備が整うと。
「結界準備完了。いつでも行けます」
「「結界はtーーー」」
カムイ、アスラが発動されろと声を掛ける直前に、シン達の後ろからチャラそうな男の声が聞こえてくる。
「なにぃあれ、マジヤベェ!? モンスターが入れ食いじゃん。おたくら殺らねえの? ならイタダキい! 俺らのエモノ!」
「ヒロくんこう言うのってアレだろ。『汚物は消毒だあ!』ってやつ」
「ヒィヤッハー! なら火術式で焼き殺せ!」
「わかった! 『《魔技》・我願い奉る。火霊よ、逆巻く炎の吐息を吹き荒らせ』」
「まちっーーー!」
取り乱すと言うことを中々しないシンが慌てて後ろを振り返る。するとそこには騎士達の更に追いでやって来ていた、数人の渡界者達。その中の馬に乗った三人組の男達の一人が術式を作成し。その術を放とうとしている。シンは止めようと制止の声を掛けようとするが、向こうの方が早い展開の術式だったらしく。その制止は告げるまもなく。火の術式を放つのだった。
「『【火炎方円陣】』」
放たれた術式は炎の嵐となり。ゴブリンを炎の中に包んでいく
火の勢いは凄まじく。その熱で火傷を負うのではないかと言う程の熱量が、辺り一面に吹き荒れる。
炎の嵐から逃れたゴブリンもいたが、炎の嵐が収まると二百匹以上いたゴブリンが焼き殺されていた。
「っちえ。全部殺しきれなかった。まあいいや。そんな雑魚、おたくらにやるよ。俺たちは門で狩りだ!」
やるだけやって、言うだけ言ったら馬を駆け出し。門へと突入していく。
「ヒャッホー! 邪魔だ邪魔だ!」
横一列に並んでいた騎士達を蹴散らしていくように通ろうとしたので、慌てて騎士達は道を開ける。その道を通って行き。三人組は門の中へと入っていくのだった。
あまりにも無法に呆然としていたが、シンはいち早く正気に戻り。結界の設置はどうかと聞く。
「駄目です。設置周辺に物凄い火の星力の力が蔓延していて、結界が安定しません!」
「くそっ! あの渡界者ども! 先に戦場で戦っている者が要るにも関わらず。確認もせずに広範囲の術式なんぞ放ちやがって! 違反者どころでは済まさねえぞ!」
アスラが『異界の門』へと消えた渡界者達に憤慨する。
「今は彼らに怒りを向けても仕方ありません。残っているモンスターを倒し。一刻も早く結界を設置が出来るよう苦心しましょう」
「ああその通りだ。騎士隊はモンスターの殲滅を! そちらに要る渡界者諸君! こちらの手伝いをすると言うなら指示にしたがって貰いたい。先ず今の彼らのように、この場で術式を放つのは禁止だ! それと門へと行きたい者はこちらの邪魔をしなければ行って良い。それが出来ない者は違反者として捕縛させて貰う! 良いか!」
カムイの言葉にどうするかと悩み。数人がこちらの手伝いをせず『異界の門』へと向かって行った。
残った渡界者と騎士達でモンスターを倒していく。余計なことをした渡界者達の射ち漏らしたモンスターはまだ多くいたが。残った渡界者と騎士達の活躍で、『異界の門』の外へ出てきたモンスターの殲滅をなんとか出来たのだった。
「モンスターはなんとか片付けられ、先ずはと言ったところだな。結界は安定しそうか?」
「まだ少し不安定です。ですがこの状態でも発動はできると思いますが、どうされますか?」
「結界が張れれば問題ないが、失敗すればまたしばらくは時間を置かなければならない。緊急事態にならない限りは安定状態の時に発動させてくれ」
「了解しました」
カムイは結界を張る騎士に周囲の状況確認は常にしておくようと告げてから、共に戦った渡界者達へと向き。
「渡界者の諸君。緊急時にも関わらずこの場に勇んで来ていただき。また諸君等の戦い方があるのにも関わらず、こちらの指示した戦い方をしていただき感謝する」
大きな熊が頭を下げ礼を言う姿に少し戸惑い。気恥ずかしさを感じている渡界者達。
「加えて。此度の事態の収集に一番の尽力をしてくれた渡界者シンに感謝する」
カムイはシンの方へ向きその頭を下げ礼を述べた。
そしてその頭を上げた時には若干複雑そうな表情をしたいた。
シンはどうかしたのかとカムイに訪ねる。カムイは最初は言うまいか迷っているような雰囲気だったが。最終的にはシンに言い淀んでいたその言葉を告げた。
「今回の功労者であるシンにこんな事を言うのは辛いのだが。シン、君は正規の門を通って外へは出てきていないだろう?」
「そうですね。あそこで外壁修復があり。そこで『異界の門』を見つけました。そこからはご依頼主であるゲオルグさんからの緊急依頼と言うことでしたので、あの場所からここへと来ました。正規の門を通らず外へ出るのは法に触れる行為でしたか?」
「普通ならそうだが、今回は緊急時と言うこともあるから恩赦が適用される。だがそれをすると先程の三人組の件も有事に起きた、我々を助けるための手助けと判断される場合がある」
「ああなるほど。つまりここで私を一時的にでも罪を犯したものとして捕まえておけば、彼らを捕まえることの出来る大義名分が得られると」
「そう言うことなんだが、それをすると仮とは言え、君にも軽犯罪歴が付いてしまう。またそれを注ぐための罰則を受けなければならない」
カムイはシンに罰則を受ける受けないかの判断を任せると言った。
しかしカムイ理由を話せばシンが断るだろうと思っていたが、シンはあっさりとそれを了承した。
「いいのか!? 仮とは言え、罪人の烙印が付けば、町の住民からの印象は悪くなるぞ!」
「マイナスからのスタートと言うのは、よくあることですからお気に為さらず。それよりもあの三人組に罰則を与えるかの方が重要でしょう」
ああ言った輩は何度でも同じことを繰り返し、懲りると言うことを知らない者達だと。そしていざ自分達に被害が出れば、それは誰かのせいで決して自分達の行いではないと。反省すらしない人種だと言うと。
「任せろ。あのガキ共にはキツイ罰則を与えやるよ」
カムイの代わりに残った渡界者達に何かを言い渡していたアスラが会話に入り込み、そんな事を言ってきた。
「そっちは終わったのか?」
「ああ。手助けしてくれた渡界者達には礼と、あとでギルドからの報償が出ると伝えておいた」
それからアスラはシンの肩を叩き。
「しかし良くやってくれたよ。ぶっつけ本番だって言っていたわりには、あんなすげえ術式とはな。説明は受けていたが、ありゃなんだ? 地が揺れている感覚や盛り上がるような感覚はあったが、実際には何にもなかった。なんか化かされてた気分だったぜ」
アスラの表現にシンにその通りだと答える。
「あん? どう言うことだ?」
「先程使った術式は【幻術】と言うスキルです。その名の通りに相手に幻を見せる力を持っています」
「あれが幻覚だと言うのか!? 五感全てで地の鳴動や大地の隆起すら感じたぞ!?」
「そう言うものらしいですよ。相手の五感だけでなく精神にすら影響する力だそうです」
「そう言うものだって……」
(私の説明に驚かれた表情をしていますね。
幻覚と言うのは多かれ少なかれ精神に影響します。体感ですら大規模な設備をすれば現実でも可能です。そう言ったものを使わずに行えるものと思えば、まあ確かに驚愕に価するものですね。
ふぅ、それにしても【幻術】を使用してから倦怠感が酷いですね。もしかしてこれが精力を使うと起こる【枯渇状態】でしょうか?
まあレベル1の私に、あれほどの広範囲の幻術を作り出せば起こりもしますか。
これは下手に動き回れば死亡もあり得ましたね。ええっと、この状態になったら一定時間休むか、専用のアイテムを使って回復するかのどちらかでしたね。アイテムはありませんから、しばらくは体を休めておきましょう)
シンは少し休ませて貰ってからゲオルグのところへ戻り。依頼が終了したことを告げ、再びここに戻ってくると二人に告げた。
☆★☆★☆
「ヒィヤッホー! ここの門はゴブリンしかいないのかよ! ザコすぎるぅ~!」
「ヒロくんしょうがないよ。ここはできたばかりの門だよ。広さがあるだけマシじゃない」
「『《魔技》・【火の弾丸】!』 レア物を落とせモンスター!」
無法を行った三人組は門の中を馬から降り。門の中を探索していく。
門の中は洞窟タイプのものだった。視界はやや暗く。先行く道は少し入り組んだ作りとなっている。
モンスターであるゴブリンも角を曲がれば直ぐに会うように、ひっきりなしに出てきていたが。彼らのレベルでは物の数にも為らず倒されていく。
「分かれ道~。次どっち行く?」
「ちょっと待って、マッピングしてるか」
「なるはや~シクヨロ~」
そうやって彼らは進んでいく。そして彼らはいつしかひとつの門の前に辿り着く。
その扉は鉄で出来た扉。扉全体に鬼の怒れる顔の様な彫り物がされている。そして扉からは威圧的な気配が感じられたが。
「やっべぇ!? これって門番の部屋じゃねえ!? 俺ら一番乗り!? これはもういっくきゃねえでしょう!」
彼らはそんな気配を感じることなく目の前の扉に手を添え、ゆっくりと開いていく。
☆★☆★☆
それは怒りに満ちていた。
同胞が己の欲を満たすことなく無惨に殺された事により、怒りに満ちていた。
この感情は己が誕生してきてより初めてのものだった。
殺せず。喰えず。奪えず。
何もかもが出来ずにただ殺されていく。
剣で殺され。槍で殺され。火によって焼き殺された。
赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。赦すまじ。
殺すことを、喰うことを、奪うことが己の存在意義と言うのに、それが出来ぬとは! あのモノ共め! 赦してなるものかあああああ!!
己が弱いと言うのなら、己を変えればいい! より強い力を! より強い肉体を! あのモノ共を打ち殺すことの出来る力をオオオオオオ!!
それは暗き場所で怨嗟の声を上げる。
外に出てった同胞が殺されていくところが脳裏に映るのを見ながら咆哮を上げる。
そして特に同胞を殺していく白いモノにも怒りの声を上げた。
その怒りを今すぐに外に出て、その白いモノにぶつけたい処だが。いま自分が出ていっても同じように殺されるだけだと、そのものに有ったなけ無しの冷静な精神で踏み止まる。
そのものは本能的にその怒りを内に溜めて、怒りのエネルギーを自らの体の変化に利用する。
筋肉は膨張し。その筋肉の量で骨は軋みをあげて折れ。再生してまた折れる。何度も何度も破壊と再生を繰り返していくそれは、小さかった体が次第に巨体へと変化していく。
緑色だった肌の色は、内出血の繰り返しで赤黒く染まり。老人のように痩せ細っていた体はまるで鋼の鎧のように重厚かつ肉厚な体へ変化していった。
しわくちゃだった老人の顔も壮年の巌のような、憤怒の形相をしていた。
頭の額からは一本の太い角が天を突かんとばかりに伸びていた。
「GAAAAAAAAAAA!!」
変化で倒れ込んでいたそれは、体をその太い幹のような腕で支え立ち上がると。体から溢れる力に歓喜にも似た声を上げるのだった。
「おっじゃましまーす!」
それが吠え終わると外に居たモノタチが何処からか紛れ込んできた。
入ってきたモノタチにそれは目をやると、外で同胞を焼き殺されしたモノタチであることが分かった。
白いモノ程ではないが、これにも怒りはある。
それは己の体を沈み込ませてから一気に跳躍すると入ってきたモノタチの前に降り立つ。
「オーガ、それとも鬼神タイプか? これがここの番人か?」
「不味くない!? ねえヒロくん! 不味くない!?」
「問題ないっしょ! ザコの親玉。所詮はザkーーー」
入ってきたモノタチが何かを言っている間に、それはただ腕を振るった。それだけで前に居たモノの体が簡単に引き裂くことが出来た。
「うわあああああ!! ヒ、ヒロくんんんんん!?」
「何でだッ!? デフォルトモードなのに! リアルモードと変わらない表現になってるんだよッ!?」
目の前のモノタチの一匹を殺しまことで、それはニタリと笑う。
殺せる! 喰える! 奪える! 今度こそ! この力があれば!!
「来るな! 来るな! 来るな! くるなああああ!!」
「す、『《魔技》・我願い奉る。世界に在りし火霊よ! 束なりひとつとなり。長槍の螺旋を描き。敵を貫け! 【火炎螺旋槍】!!』」
一匹は剣を振るい。己の体に当てる。しかしその剣をこの体は意図も容易く跳ね返す。
そしてもう一匹が火を操りこの体を焼こうとするが、その迫り来る火を掴み。握り潰した。
「何でダメージが入らないんだよ!?」
「僕の持ってる火の星力の中でも一番貫通性と速射性が高い術式だぞ! それが掴めるってどれだけ術抵抗が高いんだよ!?」
それはもう二、三度腕を振るうと、残っていたモノタチも簡単に引き裂くことが出来た。
「GAAAAAAAAAAA!!」
殺せる! 喰える! 奪える!
それは吼え、肉片と化したモノタチを拾い上げると口の中に入れ。咀嚼する。
ぐちゃぐちゃと、肉と血の味に満足そうな顔をすると。まだこの門の中に他のモノタチが居ることをその鼻で嗅ぎ取った。
白いモノは後回しにして、今は自分の門の中に居るモノタチを。
殺して、喰って、奪ってやる!
そしてそれは、その場所から這い出て門の中に居るモノタチの元に駆け出していった。
門の中を駆け回る。
「オーガ!? ゴブリンだけでなくこんなやtーーー!?」
爪で切り裂く。
「クソッ! なんだこいつ!? 強い上に全然攻撃が効かねぇ! があああッ!?」
踏み潰す。
「リアルモード!? デフォルトモードだぞ!? 痛覚設定だって、ぎぃやあああああああ!!」
先程喰って奪ったモノの火を使って焼き殺す。
「術式まで!? 何でモンスターが術式が使えんだよ! 聞いてないぞ!?」
「逃げろ! こんな奴相手にしてらんね! 外に出ればまだ町の騎士団や他の渡界者が居る筈だ! そいつらに任せるんだ!」
逃げ惑う渡界者達。
それは入ってきた渡界者達を次々と惨殺しながら喜びの咆哮を上げた。
殺す! 喰らう! 奪う! 目に映るモノはーーーすべて!!
次回の更新は12月16日となります。




