No.11
No.11
その日はいつもと変わらず穏やかな日差しが降り注ぐ日でした。
「いち……にい……いち……にい」
足の踵を上げ下げしながら騎士隊舎の前で立番(※見張り)をしています。
本来はじっと動かず立っていなければいけないのですが、ただ立っているより自主的な訓練をしてる方が有意義なようにも思え。あまり目立つと怒られるので、ゆっくりとした動作で踵を上げ下げしています。
あっ、名乗り遅れました。僕はこのアコルの町にある騎士隊に所属している新人騎士のガウルです。種族は犬の獣人族です。趣味は体を動かすことで、将来は立派な騎士となり。町の皆さんを守れるようになりたいと思ってます。
「こら。立番がそわそわと動いてるな。不動のように立て」
「あたッ!? あ、カムイ先輩!?」
立番をしながら踵の上げ下げをしていたら、後ろから棒で軽く小突かれました。
誰? と思い振り返ると、僕よりも背が高く。顔は熊。獣頭人族と呼ばれる獣の姿をより強く持つ。僕と同じ騎士で先輩騎士のカムイ先輩が居ました。
「ただ立ち。町を警備するのも大事な仕事だ。我々がいると言うだけで、人は安心と安全が守られていると思ってくれる。犯罪を犯そうとする者も我々が目を光らせていると知れば犯罪を止め、抑止とも成る」
カムイ先輩は持っていた棒を地面へと突き。両手で包み込むように持ち。直立の態勢で銅像のようにピタリと体は動かなくなりました。ただ目だけは町行く人たちを追っています。
スゴいです……。置物のようにただそこに居るだけなのに、物凄い存在感と安心感があります。これが年期と言うものでしようか。僕にはまだまだ到達できない領域です。
僕もカムイ先輩の様に真似をしてみますが、客観的に判断できないので分からないです。出来ていますでしょうか?
そうして立っていると二人組の人間族の女性が何か思案顔で近寄ってきました。何か困り事でしょうか? 「僕はどうしましたか?」と訪ねると。
「すみません。スクショいいですか?」
「はい?」
「ああ、構わない。態勢は変えることが出来ないが、このままで良いかな?」
「はい大丈夫です。あの、抱きついたりとかは?」
「それは勘弁して貰おう。職務上の理由もあるが、妻帯を持つ身でもあるのでな」
女性達はカムイ先輩がそれだけ言うと納得し。懐から一枚のカードを取り出すと、「撮りまーす」と言うと、カードから『カシャッ!』と言う奇妙な音が出る。僕はビックリして身構えそうになるが、カムイ先輩が「問題ない」と言うので動かずにいました。
女性達は「ありがとうございました」と、丁寧にお辞儀とお礼を言い去っていきます。
「何だったんですか? いまの?」
混乱する僕にカムイ先輩は。
「今のは渡界者だ。『スクショ』と言うのは、どうやら姿絵を写し得る事らしい」
「えっ!? でも今の人たち筆も紙も持っていませんでしたよ? カードだけ翳してませんでした?」
「あのカードはそう言う機能もある術装具だと聞いてる」
「そうなんですか。僕は渡界者の人たちの身分証としか知りませんでした。それにしてもなんで僕たちの姿絵なんてほしかったんですかね?」
カムイ先輩の立ち姿なら分かるけど、僕まで入れる必要はないですよね?
「さて? 理由は分からないが、去り際に彼女達が『少年と熊』がどうとか言っていたが……どうにも彼女達の目が欲望に満ちた目をしていたような気がする……」
先輩を野獣と言うのは、獣の血が強くて出ますから。異世界の渡界者の方からすれば、その見た目でと言うことでわからなくもないですけど。美女? 女性は先程の渡界者の人たちしか居なかった気がします?
「でも渡界者の方達はみんなさん礼儀正しいですよ。犯罪を起こす方もいらっしゃいませんし。……ちょっと行き過ぎた行動を取る方も中には居ますが、渡界者の方達がいるお陰で町は発展して豊かになってます」
「そうだな。彼らには感謝しよう。別世界の縁も所縁もない我らのために働いてくれているのだからな」
「はい!」
何か別の事が有ったのかもしれませんが、問題はなさそうでしたので、それはそれとしました。
しばらくそんな取り留めのない話をしていると、また渡界者と思われる女性の一団がこちらに来ました。
「もしかして君が熊さんと一緒に写っていた男の子って君? 掲示板に載ってた画像よりかわいい❤ まさに美女と野獣ね」
「あ、あの、ええっと……」
ぐいぐいと押し寄せるように来て、質問してくる女性達。
「ねえねえ。あの熊さんとは同友関係?」
「カムイ先輩ですか? 同じ騎士隊のか先輩ですが」
「先輩後輩の間柄……。ありきたりではあるけれど、王道。うん。イケるわ!」
め、目が怖いです。この渡界者の女性達は、なんだかよくわかりませんが、モンスターでもこんな目付きをするモンスターはいないと言うくらいに、空恐ろしい目付きをしています。
僕は彼女達の囲いからなんとか理由をつけ逃げ出して、隊舎内へと駆け込むように入りました。
「……な、なんでしょう。この言い知れぬ恐怖感は……。モンスターとはじめて戦ったときより、恐怖を感じました」
飛び出すのではないかと言うくらいに激しい動悸を押さえ静まる頃には、カムイ先輩も疲れたような溜め息を吐き。立番を終わらせ。隊舎内へと入ってきました。
「……肉食獣を思わせる女性達だったな」
「そうですね……」
二人して安堵の息をつく、そんな暇すら与えぬように、一人の鋼霊人族が駆け込んできました。
「大変だ! 大変なんだ! 外に、外壁の外にはぐれの異界の門が!」
「―――ッ!? 場所は!」
「いま外壁の修理をしいている先に!」
「東のか!?」
「ああ! そうだ! 親方から今なら門を閉めれば籠城が出来るからって、騎士隊舎に知らせに行けって!」
「そうか。情報提供感謝する! ガウルは伝達を頼む! 私は走鳥と結界の準備をする!」
「はい。わかりました!」
カムイ先輩の指示が鋭く飛びます。
僕は急ぎ半鐘の在る梯子を駆け登り。
そして『はぐれ異界の門』の出現。方角を伝える音のリズムを叩き、それを三度繰り返します。しばらくすると中央の『高殿の搭』の方角に向かって、半鐘が続きと鳴らされていきます。
これは『高殿の搭』には大きな放送機具が置かれています。
そしてそこから町全体に緊急の連絡がより正確に伝わるようになっているんです。
僕は『高殿の搭』から放送が流れるのを待たずに梯子から降り。自分の装備を手早く済ませます。
「準備はできたか?」
「はい。問題ありません!」
カムイ先輩が走鳥に乗り、もう一匹の走鳥の手綱を携えてやって来ました。
走鳥は魔獣です。その姿は大きな鶏のような姿をしています。走る速度も並みの馬よりも速く駆けることができる魔獣です。
僕はもう一匹の走鳥に乗り手綱を受け取ると。
「行くぞ! 道をあけよ! 走鳥にて騎士隊が通る!」
カムイ先輩が通りにいる人達に聞こえるように、大きな声を張り上げます。
声を聞いた人達は速やかに左右に別れていきます。
その開けた道を僕らは走鳥で駆けていきます。
「『異界の門』は外壁の外。なら一度外門を抜けて行くしか有るまい。どこからが近い?」
「それならこっちが近道です。案内します!」
「頼む!」
警邏で町をよく見回っている僕がカムイ先輩の前に出て誘導していきます。
そして前に出ると言うことは、通りにいる人達に聞こえるように大きな声をあげなければいけないと言うことです。
「騎士隊! 通ります! 道をあけてください!」
この頃になると『高殿の搭』からの放送が流れているようで、町の皆さんは道の真ん中を歩いておらず。端を歩いている方が多いです。それでも走鳥で駆け通る場合は声を出すのが規則なので声をあげ。注意を促します。
そして駆けること外門、外へと通じる門へと近付く頃には走鳥に乗った他の騎士隊舎の騎士の人達が合流してきました。
「ようカムイ。ずいぶんと早いじゃないか。てっきり近場の俺たちが一番早いと思ったが」
カムイ先輩に声を掛けてきたのは鍛え上げられた肉体に頭に羊のような捻れた角を生やしている魔人族の男性でした。
「アスラか。なに門の出現の報告が一番に入ったのがうちだっただけだ」
「ああ、なるほど。確かお前さんの方角だったか、門があるのは」
納得したように頷く。そして外門が見えてくると。
「開門! かいもーん! じゃあなカムイ。先に行ってモンスターを倒させてもらう」
大きな声を出し。持っていた槍を振る。一度閉まった大きな門が騎士隊が通れる程に開くと。それと同時に走鳥の速度を上げ、門を抜けていきました。
「……相変わらずな奴だ」
「お知り合いようでしたが」
「なに同期の奴だ。少々荒っぽい奴だが、槍術の腕は確かな持ち主だ。我々も遅れずに行くぞ」
「はい!」
僕達も遅れずに走鳥の速度を上げました。
そして現場へと到着すると。先に来ていたアスラ隊が『異界の門』から出てきたモンスターを倒さず。呆然としていました。
「どうしたんでしょうか?」
「わからん。いや、あれだ!」
カムイ先輩が驚きの声をあげ、モンスターの集団を指差します。僕はその先を追っていくと、とんでもないものを目にしました。
こんこんと湧き出す泉のように『異界の門』から溢れ出てくるモンスター相手に一歩も引かず戦っている人がいました。
そう人です。一人の方がスコップ片手にモンスターを倒しています。いいえ違います。あれはむしろモンスターを蹂躙しています。
その方は人間族の方でしょうか。これと言った特徴が見受けられません。
着ているものもどこにでも売っている服装で、工具とした使い込まれたスコップを手に持ち。モンスター相手に時に突き。時に薙ぎ。時に叩き。時にスコップをどう使っているのかわかりませんが、モンスターを投げ飛ばしていたりもしていました。
「渡界者か……彼は……」
カムイ先輩もその戦う姿に呆然と見ていましたが、カムイ先輩とアスラさんがいち早く正気を取り戻し。一人戦っていた渡界者の方へ参戦の申し出をするのでした。
「「我ら騎士隊。汝の戦いに加勢する! 善いか!」」
この申し出は渡界者の方と、後でいざこざを無くすためにでもあります。
もし戦いている渡界者の方が参戦の申し出を受けられない場合、僕たちは渡界者の方が完全に倒れるまで、その戦いに手を出すことができないのです。
この辺りの理由はよく分からないのですが。渡界者の方は例えモンスターに殺されても、それは一時的な死と言う事らしく。その場で蘇ることも可能だと言うことです。なので死んだと思い込んで僕たちが参戦してモンスターを倒し。その後渡界者の方が直ぐに蘇る。そうすると自分が倒すはずだったのに、と怒ってくる方もいらっしゃいます。
何でもその場で蘇るのはとても高価な薬を使うらしいので、モンスターを倒せずに蘇ると、その高価な薬が無駄になると言う事を聞いたことがあります。
そして大概の渡界者の方はこの参戦の申し出を断る方がいますが……。
「騎士の方達ですか。良かった。そろそろ私一人では押さえられなくなっていたところでした。ああ私、渡界者のシンと申します。現在あの外壁にいらっしゃる大工屋アスカロンのゲオルグさんより依頼を受けていまして、依頼内容が騎士団の方か。渡界者の方が来るまでの間、モンスターの退治と言うものです。ああそれと、私の無事帰還と言うのもありましたね」
す、すごいです……。あのシンと言う人。モンスターの倒す速度を落とすことなく笑顔で喋っています。
モンスターからの返り血と言うのはありませんが、なぜかものすごく猟奇的な感じに見えます……。
先ほどの女性達とはまた違った恐怖を感じています。
「と、とにかく参戦しても問題ないんだな?」
「ええ、お願い致します」
僕以外にもあの渡界者の方の行動に恐怖を感じた方がいるようでした。
「「ならば我ら騎士隊。汝の戦場に参戦する」」
「騎士隊・六番組。アスラ隊!」
「騎士隊・七番組。カムイ隊!」
「「全員抜刀!」」
それぞれの隊の隊長が号令をすると各々が持つ武器を抜き放つ。
僕も二刀の小刀を腰から抜き構えます。
「「モンスターを殲滅せよ!!」」
「「「「おおおおおおお!!!!」」」」
怒号の声をあげ、モンスターの群れに騎士達が突っ込みます。
アスラ隊は全員が槍を持っているため走鳥に乗りながら、モンスターの群れを突っ切るように駆け抜けていきます。
僕たちカムイ隊は近接武器を持っているため走鳥から降り。一匹一匹を確実に仕留めていきます。
「はあああ!」
「ギィヤアアアア!?」
「せりゃあああ!」
「グウワアアア!」
「てりゃあああ!」
「ギギィ? ブラァアアアア!!」
「なんで僕の時だけッ!?」
他の騎士の方達が華麗にモンスターを倒すなか、僕の攻撃をあっさりと躱したモンスターが反撃をしてきます。
「攻撃が避けられても、次に繋げるようにしなくては駄目ですよ」
そう言ってスコップの面の部分でモンスターの顔を叩き付けて助けてくれたのは、この場に居た渡界者の方、シンと名乗った人でした。
「あ、ありがとうござきます」
「はいどういたしまして。相手は動かぬ案山子とは違います。いまも言いましたが、相手の動きを予想して動かなければ駄目ですよ」
「は、はい、ありがとうございます」
渡界者の方から指示を受け。僕は再度モンスターへと立ち向かいます。
「やあああ!」
「グッハアアア!?」
「やりました! 倒せました!」
今度は相手の行動を予測して小刀を降りました。二刀の連撃を食らったモンスターは崩れ倒れました。
「喜んでいては駄目です。まだ周りにはモンスターがいます。喜びはすべてのモンスターを倒してからにしましょう」
「はい! はああああ!!」
僕は言われて気を引き絞め。周りにいるモンスター達に刃を振るって行きます。
次回の更新は12月2日となります。




