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No.10




 No.10




 その日のアコルの町はなんでもない。ごく当たり前の日であった。

 現地人達が日々の暮らしに精を出し。渡界者達が思い思いにグローリアの世界で活動する。そんないつもと変わらない日常。

 渡界者の一人であるシンも、あれから己の体を宿屋で一晩休め。

 約束通りに朝早くから来てくれた孤児達に籠を渡し。ゴミ集めを頼むと。己もまた新たな仕事をしながら今日のグローリアでの活動に勤しんでいた。


 「「「「Yahooo! 今日も元気に仕事だぜ! 俺達仲良し大工屋アスカロンさあ♪ 小物から建物なんでも作ってみせま~す♪ おっと、忘れちゃいけない安全確認。上よし。下よし。右よし。左よしぃ。周囲の安全バッチリオッケイ! 今日も怪我なく無事故でやってこうか~♪ Yeaaaaaaaah!!」」」」


 今日も今日とてなんの因果か、大工屋アスカロンの手伝いをしているシン。

 鋼霊人族(ドワーフ)達はやはり今日も歌って踊る(ミュージカル)をしながら外壁修繕をしているのであった。

 今日はどうやらコミカル調のようだ。


 「ガンツ! なんだその仕事の仕方は! やる気がねえなら帰りやがれ! ボーガン! そこはもっと軽やかにステップだ! テメェの重てぇ体を羽毛のように軽やかにしろ!」


 大工屋アスカロン棟梁、ゲオルグの怒声が飛び交う。

 指示していることは仕事に関しての事が多いが、なかには歌や踊りに関してのダメ出しまで混ざっていた。


 「……指示事態はまともなのですが、なぜあの歌と踊りをしなければならないのかが理解できません」


 シンは相変わらずトロ舟でのコンクリート作りをしながら、歌って踊れる鋼霊人族(ドワーフ)達を首を捻り見ていた。

 そしてそれは本当にいつもと変わらないアコルの町並みであった。












 ーーーその時までは。


 それに気がついたのは外壁補修をしてい鋼霊人族(ドワーフ)の一人。

 その一人が慌てたように棟梁であるゲオルグに声を掛けた。


 「た、大変だ親方ー!」

 「どうした!? 空から女の子でも降ってきたか!?」


 ボケたことを返すゲオルグに、本当に真剣な、切羽詰まった声で、外壁の向こう側。外の平原の方を指差す鋼霊人族(ドワーフ)の男。


 「は、は、『はぐれ異界の門』が、町の直ぐ近くに出たー!」

 「な、なんだとッ!?」


 その言葉を聞いた者達が皆が騒然となる。

 特にゲオルグはその言葉が本当に正しいのかと、自分自身の目で確認しなくては済ませられないと言うように、自分も足場の一番高いところに上がっていき。


 「どこだ!」

 「あっち! 北東方面!」


 指差す方を目で追っていくと。そこには黒いシミのようなものが空中に浮かんでいるようにも見えた。


 「あれが『異界の門』ですか……黒いシミのようなものにしか見えませんが?」


 いつの間にか登ってきていたシンがゲオルグの隣に立ち。同じように『異界の門』を眺めていた。


 「お前さんいつの間に……!? お前さんは『異界の門』を見るのは初めてか?」

 「はい。門の形をして要るモノが多いと、お話では聞いていましたが実物は初めてです」

 「そいつは『聖地』にある『異界の門』だ。『異界の門』はどう言う理屈だか知らないが、『聖地』にあるものだけは門の形をきちんとしてる。勿論門の形も様々だがな。だがーーー」


 ゲオルグは『はぐれ異界の門』を指差し。


 「『聖地』以外に出現する『異界の門』には門の形は存在しねえ。空中に黒いシミのように現れるだけだ。そしてそのシミからモンスターが止めどなく現れる」


 そう、ゲオルグが口にした瞬間。待っていたかのように『はぐれ異界の門』からモンスターが出現してきた。


 「くそったれがッ! 言ってるそばからこれだッ! お前ら! 一番近い騎士隊舎に連絡を入れてこい! 今ならまだ正門を閉めて籠城が出来ると!」


 ゲオルグの言葉に数人が走って行く。

 それを見送ることなくゲオルグは『はぐれ異界の門』からでて来たモンスターを睨み付ける。

 モンスターは門から出てきてまだ現状を理解してないのか、周囲を必要に確認していた。


 「緑の肌に子供のような体躯。あれはゴブリンと言うモンスターでしょうか」

 「だろうな。モンスターの中じゃ弱いと評判だが、アイツらは数が多い。門の中じゃいったいなん百ッ匹いるかわかったもんじゃねえ。そんなのが一斉に門の外に出てきてみろ。いくら籠城できたからっていつから崩される。早いとこ対処しねえと……」


 不安げにこれから起こりうることを述べるゲオルグ。

 シンは隣で聞いていて『はぐれ異界の門』は閉じることが可能だったはずだと聞く。


 「あ? ああ、確かに『はぐれ異界の門』は閉じる事が出来る。ただしそいつは『はぐれ異界の門』の中に居る『門の番人(ヌシ)』を倒さなくちゃなんねえ。しかしその番人(ヌシ)が必ずしも分かるって訳じゃねえ…………おい。お前さんなに考えてやがる!?」


 シンの問い掛けにゲオルグはまさかと言う思いが過る。


 「私は渡界者です。戦って死んでもそのうち生き返りますから」

 「バカ野郎! そう言うことじゃねえだろう!」


 いくら生き返られると言っても、死ぬと言うことがそんな簡単な言葉で表して言いはずがない。

 ゲオルグが怒ってシンを叱るように言うと。


 「ならばご依頼と言う形ではどうてしょうか?」

 「はあ!?」


 突然訳も分からないシンの言葉にすっとんきょうな声をあげる。


 「ご依頼と言う形であれば私も無理も致しません。あそこに居るモンスター、ゴブリンを誰かが来るまで押さえる。それくらい事ならば今の私でも出来ると思います」

 「……本当にそんな事が出来るのか?」


 シンの言葉に懐疑的な表情をして聞き返す。

 そしてシンはそんな疑いを持たれていても、いつもと変わらないキツネ顔の表情をして。


 「はい問題ありません。これでも私リアル(向こう)では、お仕事上少々荒事を扱うこともありましたので、こう言ったことにも些か慣れています。それに幾ら死んでも生き返ると言われましても、私も死ぬのは嫌ですからね。見極めるところがあれば、直ぐに引き返しますよ」


 義務的なことを淡々と話すシンに、ゲオルグはその言葉の真意を探ろうとしていた。


 (自分の力を過信したバカの発言でもねえ。かと言って力のねえ奴が無理して言ってる言葉でもねえ。間違いなく出来るからそう言ってる奴の言葉だ)


 何人もの職人(弟子)を見てきたからこそ、シンの言葉に無理がないと言うことが分かるゲオルグ。


 「……やれるんだな」

 「はい」


 だからこそもう一度確認をした。

 そして腹が決まる。


 「よし。なら依頼だ。お前に依頼することは三つだ」

 「拝聴いたします」


 ゲオルグは突き出し拳の指を一本ずつ立てていく。


 「ひとつ。『はぐれ異界の門』から出てくるモンスターをこのアコルの町に出来るだけ近付けさせないこと」

 「はい」

 「ふたつ。もうすぐアコルの町に緊急の放送が入る。そうなれば騎士団。他の渡界者の奴らが『異界の門』の対処に向かうはずだ。そいつらが来るまで押さえれば良い。特に騎士団が来ればすぐに『異界の門』の対処をしてくれる筈だ」

 「わかりました。それで三つ目は?」


 ゲオルグは三つ目に入る前にシンの両肩を掴み。


 「三つ目は、絶対に無理をするな。死なない体だからと言って、引き際を見謝るような戦いはするな。この三つ目だけはどんなことがあっても守れ! 良いな!」

 「了解しました。無傷で帰ってくることをお約束します」


 真剣なゲオルグの言葉にシンもまた真摯にその言葉を返した。



 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼《依頼内容》▼▼▼▼▼▼▼▼


 〇ゲオルグからの依頼[期限:誰かが来るまで]

 アコルの町の周辺に『はぐれ異界の門』が出現した。門より現れるモンスターを出来るだけ町へ近付けさせないようにして欲しい。

 但し騎士団。渡界者が応援に駆けつけるまでで構わない。もしくは押さえられなくなる前に退避。

 如何なる理由があろうとも無理はしない。必ず生還すること。


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




 「口頭でのご依頼となりますが、確かに承りました。ゲオルグさんこちらからもひとつ宜しいでしょうか?」

 「何だ? 言ってみろ。今からやめると言っても責めはしねえぞ」

 「いえいえ。ご依頼を受けた手前キャンセルするような事は致しません。ご依頼内容の三つ目を守るためには、無手で相手に突っ込み。無傷で生還するのは少々厳しいので、何か武器となるものを貸して頂きたいのですが?」

 「おう。好きなのを持ってけ」

 「では、こちらをお借りします。それではご依頼を完遂する為に、この辺でお仕事を始めさて頂きたいと思います」

 「おいッ!? そいつはッ!」

 「それでは失礼致します」


 そう言って手に持っていた()()を借りていくと言うシン。

 ゲオルグはシンが持っていった道具が武器になるとは思えず慌てて止めに入るが間に合わず。シンは十メートル以上高さがある足場から外壁の外へと飛び降りていった。

 そして五点着地法の要領で地面に降りると、すぐに自分の体に異常がないかセルフチックをする。


 (足。腰。手。頭。どこも異常は感じられません。Dさんにもゲオルグさんにも無茶をするなと心配されてますからね。ゲーム内()のこの体が何処まで動かせるか、それを先ず判断しないといけません)


 シンは二人からの自分を心配する言葉を思いだし。少し照れたように口許を緩める。


 (リアル(向こう)ではそうした言葉を言われたことはありませんでしたからね。面映ゆい感じがします)


 だが悪い気分ではないとそう感じていた。

 そして下げていた頭を上げ。いまだに状況確認をしているゴブリン達を見据える。


 「さあ、お仕事を始めましょうか」


 言葉にすることで仕事モードへと変わり。『異界の門』から出現したモンスターへと駆け出していく。

 出現したモンスターは子供の様な背丈に老人の様なしわくちゃな顔。緑色の肌には申し訳ないと言うぐらいの腰に巻かれた布一枚。

 そして手には先の折れた剣や木からへし折って持ってきたようなこん棒に、手作りであろう弓を持ったRPGゲームではお馴染みとなったゴブリン。

 そのゴブリンは『異界の門』の外へ出てくると、ここは何処だ? と言うように周囲を見回している。

 その様子にいまだゴブリン達は状況把握が出来ていないと判断したシンは、先制攻撃仕掛けるため、体を前に倒れるように前傾姿勢へとして、更に加速してゴブリンへと近付いていく。

 ゴブリン達は走ってくるシンにまだ気がついていない。

 

 「キギッ……ギッ!? キギーーー」


 しかし周囲を確認していたゴブリンの一匹が、駆け寄ってくるシンの存在に気がつく。仲間にそれを伝えようと声を出そうとするが。


 「申し訳ありませんが、不意は付かせて頂きます」


 更に走りを加速したシン。ゲオルグより借り受けた武器。スコップを槍のように構え。気付いたゴブリンに加速を利用した突きを繰り出す。


 「グゥギャアギャア!」


 腹を突かれたゴブリンは叫び声を上げる。

 スコップはゴブリンの腹の半ばまで突き刺さる。

 シンはスコップを捻りながら引き抜く。


 「ギィヤアアアア!!」

 「体の方は四割減といったところですか。それならそれでやり様はあります」


 ゴブリンは苦しみと絶望の声をあげ、フラフラとした足取りで後ろに数歩下がると、ドサッと倒れ絶命する。

 叫び声を上げたことで他のゴブリン達もシンに気がつく。

 おっとそうだ。話の途中で悪いが、今のスコップでの攻撃は人にもやろうと思えば出来る。良い子のみんなはくれぐれもやらないようにな。約束だぞ!


 「ガアッアアアア!」


 ゴブリン達は倒された仲間を気にすること無く、シンに襲いかかっていく。


 (状況確認が出来てない内でも、驚異となるモノには即座に対応。この辺りは野生で培われたものでしょうか? てすがーーー)


 ゴブリン達の攻撃は明らかに稚拙。ただ武器を持って振り回しているだけ。その上連携等もなく、バラバラに攻撃してくる為に互いの攻撃を阻害するような場面もあった。


 「何ですかその攻撃は? それでは私は殺せませんよ(取れませんよ)。はいそこのあなた。こんな敵味方が密集している状況で弓など射ない。でないとーーー」


 言葉が分かる筈ないのだが、ゴブリン相手に指導みたいなことをしている。

 そして弓を射ようとしているゴブリンの射線軸から外れ。近場から襲ってきたゴブリンを掴むと。弓を射ようとしているゴブリンに向かって、掴んだゴブリンを投げつける。


 「「ギッ!? ーーーギィヤアアアア!!??」」

 「この様になりますよ!」


 投げたあと、倒れ込んだ二匹のゴブリンの腹に向かって、全体重を掛けスコップで突き刺す。

 そのゴブリン達は絶叫を上げ。苦悶の表情をした後、光となって消えていく。

 またまた忠告だが、今の行為も人にすると大変危険な行為だ。本当に良い子も悪い子もやらないようにな! マジで危ないから! ホントするなよ! 頼むから!

 シンはスコップを抜き去り、残りのゴブリンの位置を確認する。


 「残りは三匹……とはいかない様ですね」


 『異界の門』から新たなゴブリンが出現する。しかも今度は三十匹以上。

 先程のゴブリンは威力偵察隊の様なものだったのか? それとも一匹見つけたら三十匹は居ると言う、暗くてジメジメした所に居るアレと同じなのか?

 まあどちらにしてもシンの下には、まだ援軍は来ない。


 「ならば続けるだけです」


 その後も出てきたゴブリンを倒しきろうとすると、また新たにゴブリンが出現してくる。

 唯一の救いは倒したゴブリンの死体が残らないと言う事であろう。

 もし残ったままであれば、シンの足元には無数のゴブリンの死体が築き上がっていたに違いない。


 (この辺はゲームと言うことなんでしょう。それにしてもこのグローリア(ゲーム)はここまでリアル思考でしたでしょうか?

 私が調べた時には全年齢のゲームだった筈なんですが、モンスターの死に様が戦場でしかお目にかかれないような表現なのですが。

 ホラー系のゲームと言うのであれば、この表現も理解できなくはないのですが。そんな筈はありませんでしたし。いったい何故でしょう?)


 実はこの戦闘表現には理由がある。このグローリアには戦闘モード設定があり。三つの中から選べると言うもの。

 その三つは【リアル】【デフォルト】【ファンシー】だ。

 この内【ファンシー】は未成年者やグロテスクな表現が苦手な方の為のエフェクト表現がされていて、PVPなど対戦許可がなければ渡界者同士で争う事もない設定となっている。

 【デフォルト】はやや現実的的な表現はされているもエフェクト表現があるモードで、多くの渡界者がこのモードを選ぶ。

 そして最後【リアル】モード。これはエフェクト表現が無く。現実的な表現が含まれたモード。成人した方のみ初期設定で組み込まれている。勿論あとで直すことも可能だ。更に玄人好みのモードなので殆どの渡界者はこのモードの設定はしていない。

 因みにシンは初期設定をいじっていないので【リアル】モードのままなのである。


 「流石にこの量は、私一人では逃してしまうかもしれませんね。早く援軍が来て欲しいところです」


 シンはそう呟きながらも淡々とゴブリンを倒していくのであった。
















次回の更新は11月25日になります。

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