第2話:地下室の忌み子
創作話
教会の門前に置き去りにされた赤ん坊は、翌朝、朝課のために門を開けた修道士によって拾い上げられた。
極寒の夜を素肌同然で生き延びた奇跡と、そのあまりにも浮世離れした白銀の髪、そして吸い込まれそうな碧い瞳。それは信仰に生きる大人たちにとっても、祝福ではなく「何か不吉な呪いの証」として映った。
「エイデン」
まともな洗礼名すら与えられず、古い台帳の隅にあった適当な名をあてがわれた少年は、その日から教会の「地下室」を割り振られた。
それから、長い年月が流れた。
地上の礼拝堂には、季節ごとに移り変わる光がステンドグラスを透過して降り注ぎ、着飾った信者たちが集う。しかし、エイデンが育った地下室だけは、時間が止まったかのように冷たい湿気とカビの臭いが立ち込めていた。
五歳が過ぎ、八歳が過ぎ、十歳を迎えても、床に敷かれた薄い藁と、使い古されたボロ布だけが彼の世界のすべてだった。日に日に伸びていく白銀の髪だけが、残酷に流れる時間を証明していた。
「おい、居候。早く起きんか」
がらがらと木の扉が開く。入ってきたのは、頭頂部の寂しい、いつも脂ぎった顔をした神官だった。エイデンがどれだけ成長しようとも、神官は決してその碧い瞳と視線を合わせようとはしなかった。まるで、まともな人間を見るような目を向けたことは一度もない。
「お前のような、親にすら捨てられた呪いの忌み子を置いてやっているのは、教会の、そして私の慈悲だ。分かっているな?」
「……はい、神官様」
小さな身体を縮こまらせ、エイデンは蚊の鳴くような声で応じる。物心ついた時から、毎日のように聞かされてきた言葉だった。
「生きていたければ、人の倍働け。神の家を汚す泥を、お前のその薄汚い手で磨き落とすんだ。それがお前の犯した罪の贖いだ」
「はい……ありがとうございます……」
神官が放つ、吐瀉物のような罵詈雑言。それを浴びせられるたび、エイデンの心には深い、鋭い楔が打ち込まれていった。
(僕がここにいていいのは、神官様たちが僕を置いてくれているからだ。だから、誰よりも働かないと、ここにいさせてもらえない――)
年を重ねるごとにその歪んだ強迫観念は深く根を張り、エイデンは言われるがままに、教会の便所掃除、大人の汚れ仕事、冷たい井戸水での洗濯を、黙々とこなし続けた。身体が大きくなればなるほど、押し付けられる仕事の量と過酷さは増していったが、彼はそれが「当然の義務」だと信じ込んでいた。
しかし、地獄は地下室の中だけでは終わらない。
たまに地上の広場へ雑用に出されれば、教会が運営する孤児院の、乱暴で体格の良い子供たちが、エイデンを待ち構えていた。未来の兵士や衛兵を目指し、日々身体を鍛えている粗暴な子供たちだ。
彼らもまた、エイデンと共に年を重ね、その体躯を大きくしていった。それに伴い、彼らの退屈しのぎの暴力もまた、年々陰湿で容赦のないものへと変わっていった。
「おい、キノコ男! じめじめしてて気持ち悪いんだよ!」
「その銀髪、やっぱり悪魔の子供なんだろ! ほら、これでも喰らえ!」
ひゅう、と風を切る音がして、粘り気のある泥の塊がエイデンの顔面に叩きつけられた。
大きくなった子供たちは下品に笑い転げ、次々と小石や泥を投げつけてくる。
「みんな、ごめんなさい……ごめんなさい……」
エイデンは白銀の髪を泥に染めながら、ただ俯いて涙を堪え、謝り続けることしかできなかった。
実は、この時すでに、エイデンの肉体には「天上の細工」が完璧に馴染んでいた。
子供たちが全力で投げつけた小石が当たっても、エイデンの肌は赤くなることすらなく、傷一つつかない。乱暴に拳で殴られても、肉体的な痛みは全く感じなかった。それどころか、あまりに頑強すぎる彼の肉体は、ほんの少し身をよじるだけで、彼を小突き回していた年上の子供たちが、凄まじい肉体の密度の差によって勝手に吹き飛んでいくほどだった。
だが、どれだけ年を重ねても、エイデンにはありえないほど自信がなかった。争いが、何よりも大嫌いだった。
「僕が……僕がこんな髪色で、バケモノだからいけないんだ。みんなを怒らせて、ごめんなさい……」
吹き飛んで尻もちをついた子供たちを見て、エイデンは自分が怯えるよりも先に、泣きそうな顔で彼らに謝罪の手を差し伸べた。その健気さと、どれだけ年月が経っても、どれだけ叩いても傷一つつかない不気味な頑丈さが、いっそう子供たちのプライドを逆撫し、いじめをエスカレートさせていく。
どれだけ理不尽に虐げられても、肉体は無傷のまま。しかし、心だけは泥まみれになりながら、エイデンは冷たい地下室でひっそりと息を潜めていた。
誰も、自分の本当の姿を見てくれない。
ただ、神官の言う「お前はゴミだ」という言葉だけを信じ込み、ビクビクと震えながら雑用をこなす日々。
十数年という孤独な時間の果て、少年となったエイデンの人生が、教会の奥深くに眠る「一振りの剣」によって、ひっくり返る瞬間がすぐそこまで迫っていた。
楽しめ




