始まり 第1話:産声と銀の呪い
創作話
冬の嵐が、泥にまみれた貧しい農村を容赦なく叩きつけていた。
隙間風が鳴り響く粗末な小屋の中、獣の皮を何枚も重ねた寝床の上で、一人の女が息も絶え絶えに産気づいていた。
「しっかりしろ! ほら、息を吐くんだ!」
煤けた顔の父親が、震える手で妻の汗を拭う。彼らの衣服は擦り切れ、肌は耕作と飢えによって土色にひび割れていた。この痩せた土地で生きる誰もがそうであるように、彼らもまた、ただ明日を生き延びるためだけに泥を這う、垢抜けない凡庸な農民だった。
産婆の老婆が、濁った目で見守る中、ついにその時が訪れる。
激しい雷鳴が夜空を割った刹那。誰も気づかぬ天の天上、世界の理の隙間から、ほんの悪戯のように滑り落ちてきた「天使の細工」が、産み落とされる小さな肉体へと滑り込んだ。
星5つの最高性能。この世界において、何者も傷つけることのできない「絶対最強」のポテンシャルが、その赤ん坊の魂に深く、強固に埋め込まれた瞬間だった。
「――ぎゃあ、あ、あああ」
ひび割れた部屋に、高らかな産声が響き渡る。
しかし、その声を耳にした産婆の手が、不自然にピタリと止まった。
「……なんだ、これは」
産婆の呟きは、祝福の言葉ではなかった。這い寄るような恐怖の木霊だった。
父親が恐る恐る覗き込み、そして、言葉を失って数歩後ずさった。寝床の上の母親は、我が子の姿を一目見るなり、悲鳴を上げて顔を覆った。
茶髪と泥にまみれた両親から生まれたその赤ん坊は、彼らとは似ても似つかない、あまりにも浮世離れした美しさを持っていた。
産着の代わりに巻かれたボロ布の隙間から覗くのは、月の光をそのまま紡いだかのような、冷たくも美しい【白銀の髪】。そして、ゆっくりと開かれたその双眸は、底の知れない深い夜の海を切り取ったかのような、吸い込まれそうな【碧眼】だった。
「悪魔の、呪いだ……」
父親が、歯の根も合わないほどにガタガタと震えながら呟いた。
「妖精の取り替え子妖精の取り替え子だわ! 私のお腹から、こんな化け物が生まれるはずがない! 嫌、嫌よ、こっちに持ってこないで!」
母親は狂ったように首を振り、我が子を抱くことすら拒絶した。
この貧しい村において、「異質」はそれだけで死を意味する。まして、神殿の絵画に描かれる聖人よりも美しい銀髪と碧眼など、無学な農民たちにとっては恐怖の対象でしかなかった。
赤ん坊は、ただ静かに、その澄んだ碧い瞳で天井を見つめていた。
自分を拒絶する実の親たちの罵声を聞きながらも、泣くことさえしない。その不気味なほどの静けさが、いっそう大人たちの恐怖を煽った。
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その夜のうちに、父親は赤ん坊を抱え、嵐の吹き荒れる外へと飛び出した。
凍えるような冬の風が、容赦なく肌を刺す。大人が一歩歩くのさえ凍傷を覚悟するような極寒の夜。父親は村外れにある、境界の街の教会へと走った。
「すまない、すまない……だが、お前はうちの人間じゃないんだ」
言い訳のように呟きながら、父親は教会の頑丈な木製の門前に、粗末な布に包んだ赤ん坊を乱暴に置き去りにした。一度もその顔を見ようとはせず、足早に闇の中へと去っていく。
残された赤ん坊の頭上に、冷たい雪が容赦なく降り積もる。
普通の赤ん坊であれば、数分と持たずに凍死するような過酷な環境。
しかし、赤ん坊の肌は、凍えることもなければ、青ざめることもなかった。
天使の細工――「無傷」を約束されたその肉体は、凍てつく嵐の寒ささえも完全に遮断していた。
赤ん坊は、白銀の髪を湿らせながら、ただじっと、暗い夜空を見つめていた。
どんなに寒くても傷つかない。どんなに孤独でも、死ぬことすら許されない。
世界で最も強力で、そして世界で最も寂しい「勇者エイデン」の人生は、この冷たい教会の門前で、静かに幕を開けたのだった。
楽しめ




