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休む間もない

 食欲の秋とかスポーツの秋だとかよく言うけど、俺は睡眠の秋かもしれない。


 なんでそうなったのかっていうのは、この間の夜の襲撃後から自宅に帰ってからも感じる嫌な気配のせい。

 そのせいでうまく眠れていない……睡眠時間自体は今まで通り変わってはいないはずなのだが、やはり精神的な疲れが俺を蝕んでいるらしい。ので、


「……だからってな?保健室で何時間も寝るってのはどうなんだ?」

「大事な息子が病んでるんだから優しくしろよ」


 絶賛おサボり中なのである。


 だってさ?親父のテリトリーの保健室、ここはいつも感じる嫌な気配が遮断されてるんだ。

 恐らく、恐らくだけどな?親父の見た目のおかげで気配を放ってるであろう相手が意図的に近づかないようにしてるからだと思ってる。


 だいぶ見慣れてはきたけど、秋になってきて装いも化粧もオータム仕様になってて新鮮味がね、あるからね。

 出来れば俺もごめんなさいな感じだけど、安心できる場所がここしかないんだ。実際は常に結界が張ってあるからってのはわかってる……安心ってだけ取れば、父親の傍ってのが精神的にも、安心するんだよ。


「教師としては厳しくありたいところなのだけれど、親としては当然心配しているわ」

「急にルージュ口調にならんでいいわ……あ、ついでにこの間の襲撃の件と転校生の話、進めていいか?」


 午前中から昼過ぎまで寝ていたおかげで、すっきりした気分で相談と報告ができる。寝不足のままだったら、冷静に話せてなかっただろうし。


「あぁそうだな……先ずは転校生のことだが、彼女はやはり西のモンだな」


 そこはまぁわかっちゃいたけど、女の子だったんだ。


 噂話というか、ほかの生徒たちの会話をちらちら耳にしていた。

「美形だよね」とか「ミステリアスで……なんか暗いよね」って感じで性別の判別がつかなかったし、一番は俺を守るためにかけられてる力のせいで、俺自身が相手を視認出来てないから……どちらにしても、性別に関してはそこまで問題じゃない。


「俺もびびったぜ?ちょっと前のお前みたいに自分の持ってる力をダダ洩れにさせて制御できてねぇんだからな?しかもその力の色がヤバい、ありゃ呪(のろ)いの力だ」

「呪い……ってことはあれか、あのヤバそうな地蔵はあいつかやっぱ」

「だな。珠ちゃんの子狐には感謝しとけよ?食ってもらえてなかったらお前もうここにいないぞ?触ったりなんかしたらどうなっていたか……」


 確かに相当危険な香りがする物だったけど、そこまでのもだったのか。

 あの後すぐに珠ちゃん先生に診てもらって「この子はそういうのにも強い子なの、やっぱり預けたままにしててよかったわね、うふふ」なんてニコニコしてたけど、そんな力の強いものを取り込んで平気にしてる自分の分身?を持ってる球ちゃん先生の方が、俺は怖くなった。


「今のところはみんなが掛けてる護りの力が生きてるけどな、制御できていない漏れだした力が及ぼす影響がどんな形で現れるかはわからないし、どうにもできるない……かもしれん」

「曖昧なこというんだな……いつもみたいに適当なこと言ってる訳じゃないのはわかるけど、例えばでいいけどどんなことが起きるんだ?」


 親父が想定している流れは以下の通りだ。


 まずあるだろうことは、遅かれ早かれ守護が消し飛ばされて俺自身が剝き出しになる。そうすると、ダダ洩れになっている呪いの力の影響を受けて死ぬ。


 死ぬんだ?


 それを回避するために、俺が俺の持つ力で抵抗し、呪いの力を倍返しして相手を殺す。


 殺すんだ?


 いやいやいや、どっちもねぇよ!


「死ぬだの殺すだの、物騒なこと言うなよ!そうなる前に親父とか真砂の誰かが話し合いしに行くとかあるだろ?」


 なにその驚いた顔、その方法があったかぁ!みたいな顔。


 確かに親父とか、結緋さんとか夜兄は【筒師】としての力の使い方も、自分の力の使い方もわかるから相手と対峙しても戦うことができるんだろうけどさ。


 俺は基本的に力を使って戦ってきたとかはないし、これからも戦おうとかも思わないから使い方も学んでない……出来ても今ある力を制御するくらいだ。

 武闘派の考えはどうにも脳筋で困る。襲われたり、なにか危害を加えられたら己の力で持って抵抗せよ!ってことか?


「た、たぶん家同士の話し合いに関しては夜くんが……」

「なんだよ、はっきりしねぇの?電話でもなんでもして聞きゃいいじゃん」

「夜くんさ……家族のことになると愛がすごいだろ?当主として対応をしに行ったとして、お前に今刺客を送ってますなんて向こうから言われてたら……あ、まずかったな、こっちの現状を先に伝えておけばその心配はいらなかった……あちゃあ……」


 それは……まずい。

 親父も親父で俺を護る側に意識が向きすぎてたんだろうけど、夜兄がこっちの現状を知らないまま相手の元に出向いてすでに面談をしていたとしたら……面談ではなく全面抗争に。


「まーだしっかり話をするってことできてねぇじゃん、バカ親父!」

「うっ!これでも意識的に気を付けてるけどな!?そればっかりはすぐには治らんわ!」


 ここで言い合いしてても仕方ない、親父には今すぐ連絡を取るように一喝してやった。


 その間に俺は、東雲を呼ぶ。


「あ、夜く……うん、うん、そう、そ!…………え?でもそ……はい……はあ……」


 すぐに電話に出てくれたみたいだが……もうさ、電話口の親父の対応でなんとなく察してしまう。

 数分のやり取りの後、力の無い声で返事をして電話を切る親父に声をかけ、現状を聞く。


「夜くん現地入り完了しており『向こうさんが先に手を出したってことだし、正当防衛として、ケジメつけてもらっていいってことだもんね?』とのことです」

「……」


 でもさすがに真砂の家の者として礼を見せなければいけないだろうから直ぐに手を下すとか、襲うなんてことはしないだろうけど……心中はかなり怒ってる状態なのは確かだから、どう転ぶのかはわからない。改めて俺が連絡をし直してもこれは変わらないだろうな……これは親父も同じ考えだろう。


「こうなっちまったなら仕方ない、秋緋……こっちはこっちの仕事をするぞ」

「仕事って……あの転校生をなんとかするってこと?俺も一緒に?」


 バチンっと、かわいくもないウィンクをかまして親指を立ててほほ笑む親父は、いつも以上に気持ちが悪い。

 人の生き死にがかかってるというのに、この男はなんで笑顔を見せれるのか……。


「さっき言った可能性両方に対抗できる手段がひとつある!」


 鼻息荒く、自信満々に立ち上がり、赤いヒールをカツーンと高らかに鳴らし仁王立ちした親父は言った。


「もうひと修業して防呪の術(ぼうじゅのすべ)を身につける!」


 いやまぁ俺もさ、皆の力が借りれない状況になれば、そういう術があればいいなとかちょっと思ってたけども。

 俺としては、前に結緋さんが作ってくれたメガネみたいな道具でどうにかできないのかなとか、楽な方向で考えてたんだが……そういう道具ってあまりないのか。


「いやぁーこれで秋の遠足の目的もできたなぁすばらしいなぁ秋緋っ」

「親父……学校の経費を、俺をダシにして修行に充てようとしてるだろ」


 意図していたかはわからないが、10月にある遠足というか、社会見学の行事でなにかをするつもりらしい。


 1年生のみで1泊2日。

 この見学先の振り分け方が独特でさ、通常のクラスごとではなく【特選】のグループでいくわけよ……な?俺がなにを言いたいかわかるだろ?


 実質、親父の好き放題できるってわけ。

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