夜道は気を付けて①
季節が変わり、夕闇の足が速くなる。
薄暗くなり始めた学校からの帰り道、合流した東雲にも保健室でした話の内容を共有する。
「なるほどなぁ?にしてもさすが夜くんや!行動力がちゃうなぁ〜惚れ直すでぇ~」
相変わらず夜兄のことになると気持ち悪くなるなコイツ。
「夜兄には俺も驚いたけど、一応当主なわけだから話し合いはしてくれてるだろう?いい方向にむかってればいんだけど」
妖怪らしくふわふわと……じゃなく、俺からのびてる糸に引っ張ってもらい、楽して移動してるだけの東雲はにんまりと笑みを浮かべ、夜兄のいいところと自身の愛を俺に語る。
「夜くんが安心して話し合い……交渉できるようにこっちはこっちでそれなりに自衛できるようにならへんとなぁ?秋くん……なんやっけ?親父さんらとどっかで修行?すんねやろ?」
「う……まぁそういう話にはなっちゃいるんだけどな……そうは言っても学校行事で出かけるわけだから、そこまで自由にはできないはずだろ?引率の先生だってふたりだっていうし、もうひとりが……あ」
「もうひとりとか、藻江島せんせぇしかおらんやろ」
よく考える必要なんてないくらいに、必然的にそうなる。
俺たち以外に同じ特選を受けてる生徒は幸いいない。
妖怪ふたりが引率ならどうにか誤魔化して『通常行われるであろう【特選】の課外授業』にして、学校側には問題ないように振る舞うんだろう。
でも、珠ちゃん先生も自分の【特選】担当してるはずだよな?
人数多くて大変みたいで、珍しく副担任もいるっていう話だけど……さすがにごく少人数の親父の方についてくるとかは無い。あるとすれば、俺たちがそっちについていく方向か。
「秋くん秋くん」
その線が濃厚そうだな。教師同士じゃなく『仕事仲間』として口裏も合わせやすいだろうし、修行もでき、学習もできる場所をうまいこと選んでそうだ。今週末には行き先わかるみたいだけど、どうなることやら。
「あーきーくーん!あぶないでぇー?」
「へぁ?」
ヒュルルルルルッ!
なにかが高らかに風を切る音をさせながらあからさまに俺めがけて向かってくる。
「づぅぁぃ!!」
あーそうだよな!家バレしてんなら帰り道なんて余裕で分かってるよな!間一髪、髪をかすめたくらいだがよけることができたものの、
「東雲っぇ!もっとはやく教えるかこのあいだみたいに守りなさいっ!」
「言うっとったわ!なんや考えこんどった自分のせいやろ?よけれたんやから結果オーライやて」
油断してたのはたしかに悪いが、自分で身を守ることができない俺にひどくない?ここでなんかあったら、夜兄怒髪天で東雲の評価もだいぶ下がるとおもうよ?
「お地蔵さんみたいなきっしょいもんちゃうかったし、向こうさんとしては本当はこないだんのんで終わらせとったはずやったんやろな。せやから適当なもん投げてきたんちゃう?俺もほんまにあぶないもんやったらしーっかりまもっとるよぉ?」
「そうかもしれ……いやこれは当たったら痛いだろっ!」
電柱にあたってめり込んでいるものは明らかに当たっても大丈夫な代物ではない。どうやって作ったのかわからないが、綺麗な石にまきびし?のようなものが突出している。
「お?なんや、今日は姿見せてくれるんか?って……あかんっ!」
いつの間にか日は完全に落ちて、辺りは暗くなってそれの視認ははっきりとできない。東雲の目線の先を追い先を見ると、外灯のわずかな明りの向こう側から、こちらに向かってくる足音と影。
俺自身も身構えてすぐ動けるようにしてはいたが、庇うように東雲が俺の前へ動く。姿を見せたのはもちろん人ではなかった。
俺の知る、妖怪と呼ばれるそれでもなかった。
「素直に正体明かすわきゃないか……にしても、こいつはなんだ?」
そいつが放っているオーラ?は俺の家にぶち込まれた禍々しいものと同じものだ。物を投げる行為自体は同じだが、投げたものにはそのオーラがない。同じではない。でも、同じ。
「なんやややこしいなぁ?むこうさんが作ったちゅうか……半端に具現化しとるっちゅうか……」
「半端?」
「せやねん……こいつ自体はあん時とおなじもんやから、直接ふれるとあかんやつや。せやけど、さっきみたいな遠距離攻撃をこいつがすると殺傷能力だけ上がる。力を付与して攻撃するほどの能力はもっとらへん……どっちつかずの、中途半端なやっちゃで」
うーん、ややこしい。強いのか強くないのかわからないじゃないか。てか殺傷能力っていった?力付与されてなかったとしてもさっきかなり危なかったのでは?
「なぁ秋くん、憶測なんやけどええかなぁ?」
東雲じりじりと近づいてくるそれを警戒しながら、俺に言った。
「多分やけどこれ、自分の意志でやっとるもんやないんちゃうかな?」
「どういうことだ?」
「ほら、秋くんかて自分の意志で力の制御できへんかった時期あったやろ?にゃんこ事件とか」
入学当初からいろいろおかしな方向に力が漏れたり、そのせいで周りに影響出たりしていた。ダダ洩れのあの転校生がやっているだろうと目星はつけていたのだが、制御できていないっていうのは、そういうことになるのか。
「じゃあアレは『投げた』んじゃなくて自ら『突っ込んで』きたってことになるのか?」
「ぬえ君が見つけた痕跡の始まっとる場所っちゅうんがな?三又の道のとこにある駄菓子屋の脇におったお地蔵さんやったみたいやねん。ほんで、そこに真新しいお供えがあったんやて。つまり……」
転校生はただそこにお参りしただけ。なにか条件があるとかわからないが、地蔵に力が付与されてぶっとんできたってことになるわけか。
「うーん……俺は丸呑みっちゅう芸当はできひんし……こいつに触ったら繋がってる秋くんにどんな影響がでるかわからへんし……どないしようかねぇ」
東雲もぶつぶつとなにか考えているみたいだけど、俺自身も逃げる以外の答えはでず、それ以外は詰み。
その間にもゆっくりと、それは近づいてきている。
「しゃあないな……得意でもないし、あんま使いたなかったけど」
トンっと地面を蹴って空中に飛び上がる東雲。
俺とそれがご対面……ということは?
「秋くんごめんなぁ、ちっと相手したって♡」
はぁーーーーっ?!
狙われてる本人を囮にするのかよ!
「っ!」
それが俺を認識するやいなや、さっきまでのゆっくりとした動きからは考えられないほどの速さで腕のようなものを伸ばしてくる。本当に間一髪だったけど、狙いがずれていたのか俺の横の電柱に絡みついた。
けど、こっからどうする?
「ふざけんな東雲ぇっ!俺はまだなにもできないんだぞぉ!」
言ってて恥ずかしいし悔しいが、事実は事実。
「こっちもこっちで集中せなあかんから……ブツブツ……」
どうにかしようとしてくれてんのはわかる、繋がってるからな?でも、唐突すぎだ!
「くっっそおおぉっ!」
こうなりゃやけくそ……ってやっぱ無理!避けるしかない!
「お?やるやん秋くん……早朝訓練のたまものやない?パルクールの選手いけるんちゃう?おっと……ブツブツ」
俺自身もびっくりしてるよ。
体が勝手に……ってほど自然に動けたってわけじゃないけど、それの反対の腕が向かってきた時、おもいっきりジャンプしたら、塀に飛び乗れてかわせたんだ。
まさかこんなところで朝練の成果が発揮されるとは思わなかったが……もしかして、なんとかなるかもしれない?




