新たな問題
新学期が始まって数日。
恐らく親父や珠ちゃん先生の配慮なのか、隣のクラスに入った転校生と顔を合わせる事もなく過ごせている。逆にすごいと思う。
そりゃひしひしと念の様な、オーラのようなものは感じるが……顔を合わせるとか鉢合わせる事がまったくない。
帰宅して着替えをしながら東雲にその事を伝える。
ちなみに学校に行ってる間は使役妖怪とはいえ、縛ることなく自由にさせてる。なんだかんだ近場にいてくれてるみたいで、帰り道の途中からよく合流してる。
「あーそれ?そりゃ俺も一枚噛んどるんやし、そんなあからさまに秋くんに危害が及ぶとかはあらへんで?」
「どゆこと?」
「簡単なおまじないみたいなもんや、そのせんせーとこの小狐ちゃんと、親父さんそれぞれの護りの合せ技でバリバリ最強のおまじないになっとるっちゅうことやな!安心やろ~?」
な、なるほど。手厚いほどのサポートを俺は受けてるわけか。
「まぁちぃと強すぎて存在が空気くらいになってもうてるんけどしゃあなしやな……ボソボソ……」
聞こえてますよ東雲くん。ボソボソとか口に出す奴始めてみたぞ?にしても存在が空気だって?
一般人にも認識されてないということか?いや、片鱗はあった、突然ぶつかってきて『えっ?!いたの?!』とか、あったあった。
「なぜ最初に言わないんだ」
「それはあれやろ?定番やからやろ?お約束まもっとるっちゅうか?」
そんな定番だかお約束なんぞいらんわ!もうこれは自分からどんどん聞いていくしかないな。明日親父と珠ちゃん先生に色々聞き出さねぇと。
「あれ……そういや小鬼たちはどこいったんだ?」
「あ、忘れとった!昼間に『いぬい』?とかいうじーさん訪ねてきてな、小鬼回収してったで」
回収、とは?静かになるのはまぁいいんだが、戌井までもなにも告げずにそういうことするなんて……俺は悲しい。
「秋緋……一昨日僕が伝えたと思うけど忘れたの?転んで頭でもぶつけた?」
「どっわ?!久々だな突然現れるの?!」
突然家にあがりこんで寛いでる上に、鵺にお茶まで入れさせてる壱弥。いつの間に?ほんといつの間に……鍵閉めたよな?思わず確認しちゃったわ。
「それより、あの小鬼たち……これから能力と成長、力の調整の為に本家に戻るってコンビニで言ったと思うんだけど?」
んん?そういやめちゃめちゃ忙しい時にきてそんなこと言ってたような?小鬼たちもソワソワしてたような?
「使用人殿も、似たもの家族のようでござるな?はははは!」
鵺にまで笑われるとは……もうこれは性として受け取らざるを得ないのか。
「小鬼たちの力が離れるから、師匠たちも保護の術を強めてるんだと思うよ。秋緋自身の体にある力の流れは安定してるみたいだから心配ないけど」
「その辺も明日聞いてみるさ。入学してから色々あったけど、落ち着いて生活できるならそれで俺はいい。なにか起きても戦おうとは思わないし……」
なんだかんだあったが俺は戦いには参加しない。
元々争いごとは嫌いなのもあるし、戦い方も知らない。知らなくても、東雲が勝手に守ってくれるだろうと思ってるのもあるんだけどな。
「戦わない、ね。今日まではそれで良かったかも知れないけどどうかな?」
と、にんまりと笑う壱弥と目が合い、背筋に寒気が走った。
「お前……なにか見えたの?」
「御名答……そこ、避けた方がいいかも」
なんて言われてとっさに動ける訳もなく。
「アホタレっ!そういうんはもっとはよぉ言えや!」
ガッシャーン!!
と、盛大な音を辺りに響かせ家の窓ガラスが割られた。もちろん窓際にいる俺に向かっての攻撃だ。
壱弥は避けろと言ってくれてたわけだが、察知ができ、とっさに回避する運動神経なんか俺にあるわけがなく……東雲が俺を抱き抱えて横に飛んでくれたおかげで助かった。
「……だから俺の家にいたの?お前」
「ふふ、どうかな?秋緋とお茶がしたかったのは本当だけど、落ち着けるのはもう少しあとってのは伝えようと思ったかな?」
お茶目的とはいえ、まだ呑気にすする奴があるか。
「なんやねんほんまに……特定早すぎやろ」
「遅かれ早かれだから諦めなよ。こんな妖怪が密集して臭いところなんてすぐバレるし、相手の手の内が見れてラッキーくらいに思わなきゃ」
俺の家は臭くありません、やめてください。
これから寒くなるってのに窓ガラスバリバリに壊されてなにがラッキーなのか。
「で?お客さんはどちら様ー?」
「鵺、見てきて」
「御意」
壱弥の指示で鵺が素早く、攻撃が来たであろう方へ向かって消える。
東雲は未だに俺を抱っこしてる。
「東雲さん、離してくれませんか」
「ん?あかんあかん!いま離れたらアレに取り憑かれてまうわ、よう見てみぃ?」
アレ……?
東雲の言うアレとは……窓ガラスを突き破った物体だった。
「うげぇ、なにこれ、うわぁ……」
「とんでもなく語彙力ないやん」
そこに落ちてたのは黒くくすんだ色をし、紫のような赤色のような煙を放っている地蔵だ。
「お地蔵様ってこんなだっけ……?」
「場合によっちゃこういうのもおるんちゃうかなぁ?まぁでも、こいつに関しては意図的に呪詛と霊体入れてあるみたいやな……趣味悪いでぇ……しかもまぁまぁでかいの投げてきよったのは笑うわ、当たったら死ぬやん」
お土産物とかでありそうな可愛らしいタイプではなく、道や参道に納められているガチのお地蔵様だ。
俺の能力狙ってるって言う割には……殺意高めじゃないか?
「魂より、その体と血が必要とかなのかな?だったら死体でもいいんだろうね?怖いなぁ」
お前ほんとに怖がってるのか?一番恐怖感じてるの俺ぞ?
どちらにせよ、狙いに来てるってのは実感できたわ。手厚いサポートなんて言ってたが、やり過ぎくらいがちょうどいい……いや、むしろ足りないくらいなんだろうな、この感じだと。
「これどうしようか?僕も触れないし、鬼門に飛ばすと向こう側が迷惑しそうだし」
「せやなぁ……俺もこれはどうにも出来ひんわ」
え?詰み?
なんて思ってたら、横から珠ちゃん先生の小狐ちゃんが飛び出して、お地蔵様の前でふんふんと臭いを嗅いでいる。
「おまえ、あんま近く寄ると危な……ひぇー?!」
「これはびっくり」
「流石の俺もこれは真似できひんわ……」
ごっくん。
それはもう見事な丸呑みでありました。
あの小さい体の倍はあるだろう物体を、軽々と……口を大きく開けて丸呑みなさった小狐ちゃん。
とっても満足そうな顔をしてトコトコと自分の寝床(俺のベッド)に戻り、あくびをしてまた眠りに入った。
「東雲、護衛、この子だけでいいわ」
「え?!急に冷たない?!真っ先に守ったの俺やん!ひどい!」
異物がなくなったのはいいものの……窓ガラスの破片が散乱し、涼しい風が部屋の中に入り込み、直に寒さを感じられるようになった俺の部屋。
この惨状……季節のかわり目の冷たい風のせいだけに、俺の体は寒気を感じているわけじゃないようだ。
「んー……痕跡のあるところ着いたみたいだけどいなかったみたい。鵺ひとりだと流石に不安だから深追いはしないでおくよ……明日師匠に報告しなきゃ……たぶん子狐さん通して藻江島先生から伝わってるかもしれないけど」
念話みたいなので鵺と交信したのか?珍しく壱弥が難しい顔をしていた。隣のクラスの奴なのか?はたまた別の人物なのか……すぐには分からず、か。
「収穫もなかったし、僕は帰るね、おやすみ秋緋」
「お、おう、ありがとうな?」
サッと素早く壱弥は自分の部屋へ戻っていった。
なにか考えてる感じだ……またひとりでなにかやろうとしてないといいけど。
「とりあえず、あぶねぇからガラス片付けるか」
東雲から離れ、ガラスの破片を片付け始めた俺に東雲は言った。
「なぁ秋くん……俺思ったんやけどな?さとりでみえとったんならガラス割られんでもどうにかなったんちゃうかなーて。結果こうやけど、あの子いつもあんな感じなん?」
「……」
あんな顔してたから普通に見送ってしまったが、東雲の言う通り、よく考えたらこの状況回避できてたんじゃない?
と、心配してるなら、もう少しさとりの力を有効に使ってくれないかな?と思う俺であった。




