愛憎バトル
「まっとったでぇ~♡」
薄暗い【鬼道】を抜けた先は森の中だった。1日経過しているのか、時間の流れがむこうと違うのかはわからないけど、夜なのは確かだ。
「ちょいちょいちょーい!みえてるー?俺見えてるー?」
そういえば誰かいたな?なんだこのいかにも怪しい男は……この季節にコートとか、明らかにおかしい。
「やほー!はじめましてやなぁ秋緋くん!東雲いいますーよろしゅうなぁ」
にこにこヘラヘラと笑うその男は東雲というらしい。で、人間でもない……ごりっぱな尻尾が付いてる。
「挨拶も済んだし、死んでもろてええかな?あ、死ぬ言うんはこの場合消滅になるんやっけな?なはは!」
「いいわけないだろ!初対面で失礼というか無礼だわ!今お前にかまってる場合じゃねぇんだよ!!」
なんて啖呵切ったはいいけど、それで引いてくれるわけもなく。「ほんでもなぁ?ごめんしてな?」って胡散臭い関西弁でボソリと言ったと思ったら、とんでもない速さで俺の方に詰め寄り、どこから出したのかわからないがナイフ?小刀?が俺の頬をかすめた。
「……なんや、邪魔なのおるやんけ」
かすめただけで助かったのは茨木のおかげ。首袖を掴んで斜め後ろに地面に叩きつけるようにひっぱってくれたから。これ重要、叩きつけるように!優しくない!雑!扱いひどい!
「邪魔?それはご自分のことでは?」
睨み合って「秋緋様は下がっててください」だって……バトル開始、か?
「カッコつけてんなぁ?いつもくっついてるお嬢ちゃんどないしたん?嫌われたんかいな?」
「……はぁ?そんなことあるわけないでしょう?貴方こそ構ってもらえなくて拗ねてやけでも起こしたんじゃありませんか?」
「なんやとこら……!」
これを皮切りに。
東雲は本来持っているだろう素早さ、手に持ったナイフ、蹴りを合わせた軽やかな動きのある攻撃を。茨木はそれをかわす……というよりは紫炎を纏わせた腕で全て受け、跳ね返す度に炎で反撃をするといった感じだ。
物理的なバトルはカッコよく見えるけど、問題は……。
「ヘラヘラニヤニヤちっさい子の後ろにずーっと付きまとっとるロリコン変態鬼のクセに!」
「はっ!どの口が言います?少年の尻を追いかけて、媚びへつらってベタベタしてるショタコン変態狐のクセに!」
茨木の腕は硬くなっているのか、ナイフが当たる音はキンキンッという金属に当たる様な音を出し、蹴りの風圧と炎のあがる音が周囲に響く中、お互いに罵り合うふたり。
「夜くんの尊さがわからんなんてなぁ?!容姿端麗、霊力強強、頭も切れる……最強の美少年!俺が言わんでも誰もがわかる!当主に相応しいんは夜くんや!そうなったらロリコンのお前なんか排除したるわ!」
「なにを馬鹿なことを言ってるんです?裏切り者が受け入れられるわけがないでしょうが!容姿?霊力?それこそ我らが姫が持つもの!獣臭いショタコン野郎がどう動こうが変わりようの無い事実ですよ!」
言いたいことは分かるんだが、どうしてこう。
「夜くんの憂いを帯びた……俺を頼るその瞳と声……あぁ……力が湧くわぁ!」
「姫子様の金色の瞳で見つめられたら全てを捧げてしまいたくなるほど震えます……あなたにはわからないでしょうが、ね!!」
なにを張り合ってる?
「それは鬼を縛るだけの瞳やろ!夜くんはちゃうわ!俺のこと大好きやねん!!」
罵り合いに集中していたせいかはわからないが、東雲のナイフが茨木の頬を切りつけて鮮血が飛び、髪が宙に舞う。
続けて蹴りがみぞおちに深く入った。
「っの野郎……!俺はみずから望んで姫子様といんだよ!ただの野心でうまい汁を吸おうとして近づいたお前と一緒にすんな!結果的に夜緋呂にうまく丸め込まれてよぉ?弱くて使えねぇからだろうなぁ?!」
「んなわけあるかぁ!!全部ひっくるめて強く繋がっとんねん!!それも愛あるが故や!クソ鬼がぁ!!」
「認めてんじゃねぇか!なにが愛だ!俺の方が愛してるわ!!」
結構重い一撃食らって茨木がキレて素が出た。
まぁ実際、なににキレたのかはわからないけど。もう完全に俺の存在忘れてないか?なるべく早く夜兄と会わきゃとおもってるのに……。
いい加減に……
「いい加減に……しろっ!!」
無意識。勝手に手が出た。手が出たというか、手からなんか出た。
「な、なんやこれ??」
「あ、秋緋様これは……?!」
薄青色の紐というかロープみたいな物が俺の両手から出て、ふたりをそれぞれ縛って地面に転がしていた。
「秋緋くぅん……そういうプレイ……好きなん?」
なわけあるかい!お前ら変態と一緒にすんなほんとに!
無意識にしたこととはいえ、なんとなく分かる。これは【筒師】が使役する妖怪と自分を繋げるための糸だ。にしても……【不視】もそうだけど俺の場合使い方どうもおかしい。
「秋緋様、とりあえず私の方だけ解いてもらえませんか?」
「あ!ずっこい!」
ずるくないずるくない。お前の解いたらまた最初からになるだろ。またあの罵り合いを聞く立場も考えてほしいもんだ。
「秋緋様、絶対解かないようにお願いしますよ?」
立ち上がった茨木は、まだ転がっている東雲の背中を足蹴にしてとどめを刺そうとする。
「よくもまぁ散々言ってくれましたねぇ?覚悟はできてますね?」
「ふーんだ!全部事実やんけ!変態ロリコンおーにー!べー!だわっ?!いたっ!いたいいたい!やめーやー!」
言い返されて、ゲシゲシと踏みつけてる。
「茨木、とりあえずこいつに話聞いとかないか?夜兄の事知ってるんだろ?」
俺はなるべく争いを避けたいんだ。記憶が戻ってかーちゃんの話を聞いて、そう強く思ったんだ。
茨木は個人的な恨みはあるだろうが、今は抑えて欲しいな……なんて。
「……仕方ないですね」
案外、すんなり言うこと聞いてくれて驚いたが、この機会は逃せまい。
「東雲、夜兄はこれから何をするつもりなんだ?」
ニヤリと東雲は笑った。
「話たってもええけどー?ここで転がされたままはいややなぁー?あーちょっと寒ぅなってきたんちゃう?お茶でもどうやろ?なぁ?」
「このクソ狐……っ!!」
「ま、まぁ待てって……わかったよ東雲、お茶しようか」
調子に乗ってるのはわかってるけどなるべく騒ぎにならないように事を進めたい俺は、東雲の言うとおりにお茶をする事を承諾した。
もちろん、拘束はしたままで。
あ、でもどうやってお茶したらいいんだろ?俺、ここだと幽霊ってことだもんな?




