鬼門を抜けたら
鏡の部屋から出た俺は、かーちゃんに別れを告げ、茨木と一緒に薄暗い道を出口に向かって歩いていく。
歩きながら、ここから出た後のプランを考える。
俺がした質問はまず俺の出生のこと。
紅司郎という人間と、砂々羅鬼という鬼。両方を父として認識していたからだ。
「ちょっと複雑なのだけど……私の大事な子供たちは3人。1番上の夜緋呂、2番目の結緋、3番目が秋緋、あなたよ。そしてお父さんは、紅ちゃん」
いや結緋さんは100歳じゃ!て言ってたからそれはおかしいじゃん?親父あの見た目で結構いってるのか?
「あぁ、違うの、あなたのお父さんは紅ちゃんで、上の子2人のお父さんは砂々羅鬼になるわ」
昼ドラ展開?
「えーっと……まず、私は結構長生きしててね。それは真砂家が鬼の血を紡いでいく一族であるせい、ちなみに私は300歳くらいになるわ」
結緋さんにもびっくりはしたけどかーちゃんにもびっくりだ。
「昔からのしきたりで真砂家に生まれた女性は鬼と添い遂げるのが習わし。それで私の夫になったのがあの人……」
遠い目をするかーちゃんは続けて語る。
「まだ幼い頃から何度も言い聞かされていたからすんなり受け入れたわ。激しい恋情も、恋い焦がれるような苦しい気持ちも無かったけれど、それから夜緋呂が産れ、すぐに結緋も授かって……なんだかんだ幸せだった」
昔の事とはいえ、幸せならそのままでよかったのでは?それなのになんで親父なんかと?
「ある日ね、砂々羅鬼が『もう鬼の力で縛るのは辞めよう』って……『表の世界で生きるように』って言ってね?その直後に紅ちゃんと会って恋をして、あなたを産んだわ」
俺、不倫の子じゃん……。
「だ、大丈夫よ!離縁してからの話だから!そんな不貞するわけないでしょ!」
ほんとにぃ?
「もう!続けるわよ!離縁しても、あの人はこの家と離れることは許されなくて、家の護り主としていてくれたの。紅ちゃんもそれをわかった上で私と一緒になってくれたし、ふたりとも仲良かったのよ?だけどね、それをよく思わないのもいたのよね、恐らく」
複雑すぎるぞ……大人って怖いな。
「そのせいであなたを身籠っている時、胎児のあなたに……鬼の血を混ぜられた。純血のね。三血混合してるのよ、秋緋」
それは生物としてどうなんだ……?ありえるのか?妖怪だからありなの?
「最初はわからなかったし、なんの疑いもなくいたのだけれど、砂々羅鬼と紅ちゃんと私の3人でたまたまいた時にあなた、ふたりを指差して『とと』『ぱぁぱ』って言うもんだから……なんかすごい空気悪かったわね」
本能的に察したってこと?赤ん坊の時の俺、こわ。
ということは……俺はととの『純血の鬼の血』と、親父の『人間の血』、んで昔から続く『真砂の血』を持った子供として生まれて……。
「その血のせいで、暴れちゃったってことか」
「そういうこと……だと思うわ。あの人、どういう訳であなたの父になってしまったかわからないままだったけど、それでもあの時『とと』だからって言って。体を保てなくなるならあなたの体の中に入って守りたいって……紅ちゃんもその意志を汲んでくれて、日常生活は俺が守るって」
「ふーん?守るって言ってた割に……あの親父、俺を無理やり当主にしようとしてたぞ?あれも守るに入る?」
「なんですって……?」
あ、やばい。地雷踏んだ?まぁあれは完全に親父が悪いからたっぷり叱ってもらったほうがいいだろう。それにしても怖い顔。
「か、かーちゃん落ち着いて!それについても質問するから!」
「確かに守りやすくなるやもしれない……勝手になにをやって……しばかないと気がすまないわ……」とかブツブツと言って怒りのオーラを放ってるかーちゃんをどうにか鎮めて話を続ける。
当主と、夜兄について。
茨木が言っていた、当主問題が絡んでるって。当主問題は置いといても、夜兄があの姿なのは、なぜかってこと。。
「それは……その……」
さっきまで軽快に話をしていたかーちゃんは困惑した表情で、口ごもる。でも、話してもらわないといけない。
「あの子は慎重に、とても慎重に動いて誰にもわからないように、砂々羅鬼を討ったの……あの人は、わかっていたみたいだけれど……」
俺の暴走の引き金と、父親殺しは夜兄がやったって……?どうしてそんなことになったんだ。
「夜くんはあなたが三血混合だってわかった時、とても怒っていたの。それだけじゃなくて、私が人間と夫婦になる事も本当は反対してた。その時はそれだけだと思ってたのだけど、そこに次代の当主問題が重なってきたわ」
理由はなんであれ、両親が別れるって話になれば俺だってひと言物申すさ。優しく賢い夜兄が、そこまであからさまに怒るのはちょっとひっかかるけど。
「真砂家の当主は女性でなければならない。それは、妖怪達と【筒師】の繋がり……現世と妖怪達の住まう世界を繋ぐ役割を持つから。見た目も、その象徴として都合が良かった」
かーちゃんは茨木が喜んで話してたとおり赤いきれいな髪をしている美人さんだ。段々と赤い髪に染まっていくんだろうか?それが昔の人からすれば、特別な意味を持ってたってことかな。
「今思えば……それだけで当主は女性でなければならないって変な話よね?時代の流れなのか、ただ珍しいからなのか。三血混合の特別な子が生まれたのなら男女なんて関係ない!なんて話が大きく広がっちゃって、私もあの人も、紅ちゃんも、乗り気になっちゃった時に夜くんがね……『男女関係ないのなら、長男であるわたしがなるのが妥当では?』と」
悲しそうに話すかーちゃんの目にうっすらと涙が滲んでいるように見えた。
「とても強く訴えてきたのだけど、私たちはそれを否定してしまった……『秋緋は特別だから』って。バカよね、自分の子供なのに比べるなんて……3人とも大切な私たちの子なのに」
毎日ずっと一緒だったわけじゃないし、仕事だってわかってて会えない時が長かったりもしたけど、一緒に居られる時は、はすげぇ大切にしてたのはわかる。
こっそり夜兄の部屋を覗いて見た時、親子3人で笑ってたのを見て、覚えてる。
「最終的に『父さん母さんが決めたなら仕方ないね』って。私はわかってくれたと勘違いしてしまった……だってなにも変わらず、秋緋に接していたでしょう?」
うん、そんな事を話していたなんて微塵も感じさせない態度だった。普通に遊んでた。
「あんな事をしたらただで済むはずがないとわかってたはずだけど……抑えられなかったのね……結果的に、罰として肉体は凍結、魂は筒の中で眠らせる罰を与えることになった」
罰がこの世のものではない。そういう世界の話だからしかたないけど、そんな簡単に解けてしまう封印をするはずはないのに、どうやって目覚めたんだ?
「あなたが16歳になる頃に、目覚められるように自分で細工をしていたみたい。我が子ながら器用で恐ろしいわ。流石に肉体は私の手の届くところに保管しているから、取り戻せなかったみたいだけれど」
夜兄は強いな……技術や霊力もさる事ながら抜け目がない。
抜け目がない……?
まてよ……慎重で抜け目のない夜兄が衝動で親を殺すだろうか?こうなるって最初から予想して動いていたんじゃないか?肉体も、当主になる為ならいっその事奪ってしまえばいいと?
「夜兄はもう、自分の体なんかいらないんだ」
俺の体のまま当主になって全部自分の思い通りになるようにするつもりなのかもしれない。
けど、たぶん……違う。
気付いたところでもう遅い……?いや、遅くない。と思う、自信はないけど。
「かーちゃん、俺、夜兄に会いにいかなきゃ」
行動しなきゃって体が動いて、部屋から出ようとする俺にかーちゃんは、「【不視】の関係もあるから唯一見えていて、状況を把握できてる茨木を連れて行って」だそうだ。
で、今に至るんだが大丈夫かな?
あ、この大丈夫は茨木がちゃんと俺の為に働くかどうかってことだけど……予想は外れて、しっかり働いてくれるみたいだぜ?




