とんでもメモリー
キラキラ、パチパチと……小さな音を立てて封じられていた幼い頃の記憶が戻ってくる。
あからさまに自覚せざるを得ない。ぽっかり抜けてる記憶が強いのは、保育園の頃くらいから小学校低学年……の辺りだろうか。赤ちゃんの頃なんてのは、万人覚えてるなんてのは稀だろうしな。他はあったりなかったりぼんやりという感じか。
まぁ高校生にもなれば、小さかった頃の記憶ってのはそんなもんじゃないかなと勝手に思ってはいる。
瞬きをしたら、見えてきた。
『よるにーちゃあそぼー!』
『仕方ないなぁちょっとだけだよ?』
『ぱぁ!だぁっこー!』
『ん?よっしゃ!ハイパー高い高いだっ!』
『びゃぁーーー!!!!』
『ぬいー!このちっちゃーのなぁにー?』
『ほっほ……この子たちは砂鬼と砂羅、お友達ですよ』
『おともらち!!』
ぐっ……!さすがにこのあたりは純真無垢すぎるぞ俺!恥ずかしい!しかし、子鬼とは小さい頃から一緒だったんだな。
この頃はほんとに友達みたいに庭で遊んでた。成長した今は、この頃みたいにはできな……泥遊びしたり、ダンゴムシ集めたりとか……今やるとかはさすがにしないけども。
『ぱぁー?よるにー?どこー?みんらいないの……?』
『ととー……?』
とと……とーちゃん、親父……違う、このととってのは……。
『秋坊どうした?ととが遊んでやろうかい?』
『うん!ととー!あれやってー!ぶわぁーの!』
『はははは!あれかぁ!やんちゃだな秋坊は!そぉれ!』
なんで忘れ……封じてなんかいたんだ。忘れちゃいけない、消しちゃだめだろ。
『砂々羅鬼様、姫様がお呼びでございます』
『ん、わかった。秋坊ごめんな、また今度いっぱい遊ぼうな』
『ととー……』
ああ、そう……ここがととの笑った顔をみた最後だった。
このあと1、2年くらい……ととの姿自体を見ることは無くなって、ほとんど毎日泣いてたんだ。
滅多に来なかったかーちゃんも、親父も会いに来て慰めてくれてた。色んな妖怪たちも一緒に、俺が泣かないようにって遊んでくれてた。かーちゃんはこの頃の俺の姿をよく覚えてたから泣き虫なんて言ってたんだな。
そして小学校に上がったあたりかな。
同じクラスになった壱弥と仲良くなったんだ。真砂家と八塚家は元々稼業面で繋がりはあったものの、俺本人は小学生になるまでは家からほとんど出ることはなかったから、始めてここで会ったんだよな。
普通の人には見えないものが見える仲間が出来た、ってのもあるだろう、ほとんど毎日どちらかの家で遊んでた。
なつかしいなぁ……そういえば昔っから壱弥のやつは先に先に行動してたわ。
そしてある日……うちで壱弥と遊んでた時、久しぶりにととが来たんだ。
なんの前触れもなく、突然に。
『とと!壱弥!この人が俺のととだよ!かっこいいだろ!』
『う、うん。こんにち……わ……』
『あぁ、こんにちわ』
久々に会えて嬉しかったせいかな。ととがいつものととじゃないってわかってたけど……わからないふりをしてたんだと思う。
壱弥が帰った後、夜が迫る夕暮れの庭。
『俺、おっきくなっただろ!』
縁側に座って、庭に出て空を見上げているととに向かって俺は一生懸命話しかけた。
『……まだ、俺弱いけど、もっとおおきくなって強くなって皆を守れるようになるから、そしたら……えっと』
夕日が眩しくて、振り返ったととの顔も逆光でよく見えなかったけど。
『……砂々羅鬼!大きくなってもずっと一緒にいようね!』
『ああ、約束しよう』
ととの背中を見てて、もう、ととじゃいられないんだって子供ながらに感じたんだろうな。この時、始めて名前で呼んだんだ。
この頃の俺は、一般的な勉学と同時進行で【筒師】として必要な知識を少しずつ学び始めていたんだ。
子供にもわかるように妖怪はお友達だよ!仲良くしよう!みたいな絵本じみた参考書を読んだり、話を聞いたりしてたくらいだけど、同年代の子供よりは大人びてはいたと思う。
返事をしてくれたととの声は、なんだか寂しそうだった。
本当に、すぐだった。
ととが見つめてた方角からたくさんなにかが飛んできて、ととの体を貫いてたんだ。俺を守るように盾になった。
『さ、さら……とと?とと!!』
そりゃ取り乱す。目の前で大事な人が血だらけになって、その傷口から炎が吹きだしているんだ。
『消えされ鬼がぁ!!』
『鬼火消しの矢じゃ、流石に動けまいて……クククク』
『はようあの小童も消してたも』
『オラオラオラァ!』
でも基本はやっぱり子供だもん。お友達だよって刷り込まれ始めたタイミングで、ととが妖怪に攻撃を受けて瀕死になって……なんでこんなことをするんだなんてわかるわけなく。
覆いかぶさるように守ってくれているととの腕にしがみついて、ガタガタ震えながら、嘘だ嘘だってずっと心の中で叫んでるしかなく。
『あ……ぁあ……うぁぁぁぁぁ!!』
とうとう爆発した。覚えてる、この時の感情。今でも湧き上がって同じことをしそうなくらいになる。
叫んだ俺が、なにをしたか?
それは、現れた妖怪たちを皆殺し。
ただ殺してしまうだけなら【鬼門】に還るだけなのだが、この時の俺は、魂ごと消滅させてしまったらしい。
制御できなくなって暴走した俺は、そのまま屋敷も破壊し始めて……
『秋坊……ダメ、だぞ、それは悪い事だ』
そっと後ろからととが抱きしめてきて、鎮めるように頭をぽんぽんって。
『いいかい秋坊、怒りで行動しちゃだめだ。全部なくなっちゃうからな。良いものも悪いものも。それはととが全部貰ってくから、な』
『……っ?!とと、とと……うわぁぁぁ!ぇう……えっぐっ……』
『よしよし……いっぱい泣いていいぞ』
その後かーちゃんと茨木が駆けつけた。
茨木がボロボロのととをどこかへ連れて行き、かーちゃんが俺を抱きかかえてまだ壊されてない屋敷の部屋へ。
かーちゃんはいい子にしててねと、俺を残してととのいる所へ行ったんだと思う。薄暗い部屋の真ん中で、両足を抱えて泣き続けている俺のところに壱弥が慌ててやってきて、泣きながら話しかけてきた。
『ご、ごめん秋緋……ぼ、ぼく見えてて……でも怖くて……うっうぅ、ごめん、ごめん……』
いっぱい謝られたな。壱弥は悪くないよ。
むしろこんな騒動が見えてた、分かってたとしてもこの時はまだ子供だ。今の壱弥ならまだしも、怖くて怖くて逃げるしかなかっただろう。それからすぐ……なにか熱いものが俺の心臓あたりに入ってきて苦しくなったんだ。
『あぁー!!』
『秋緋?!だ、大丈夫?!』
意識ごと吸い取られそうになる。苦しい、息もできなくなりそう。そんな中、俺は壱弥に言ったんだ。
『壱弥……もし、また、こんなことになったり、なにか見えたら……さ、俺を……とめてくれる?』
『え……ぼ、ぼくにできるかな……?』
『へへっ……うぅっ……もう、やな、んだ……妖怪…とか信じられな……いんだ。壱弥だけ……お願い、俺のこの力をころし……て……やく……そく、し……』
『やくそく……』
ここで意識飛んだんだな。気絶癖ついたのはこれか?あと、この時からだったか、妖怪を否定し始めたのは。
俺の中に入ってきたのがとと……砂々羅鬼で、俺の感情が爆発し、暴走しないように守っていてくれていた。
上掛けするように記憶を封じたのは、念の為もあるだろうけど、真砂家の家業、生業には妖怪が不可欠。見えてしまうのはどうしようもないから必要以上に妖怪を恨まないようにそこも操作してた……そんな感じ、か。
もう一度、瞬きをして、鏡から一歩離れる。
一息。
「なあ、かーちゃん。記憶が戻った上で、聞きたいことあるんだけどいい?」
頷いてくれたかーちゃんに、俺は俺の戻った記憶を辿りつつ、質問をした。




