雨と鵺と花③
あれから3日。相変わらずの雨。土曜日。全くと言っていいほど晴れ間がない日が続いている。ちーが「洗濯物が乾かなくて大変だ」とぼやく毎日だ。一般人に見えないとはいえ外出はさせないようにしていたが、雨のせいでもあるだろう、流石にストレスがたまってきたようでふたりの小鬼の顔つきが正に鬼のようになってきた。舌打ちも増えたし、態度も悪くなってきて我が家での居心地が悪い。
と、いうわけで本日夕方、買い物がてらふたりを連れて鵺の様子を見に行くことにした。バイト先のコンビニは駅近くにあるが、学校終わりだと商店街を抜けるより他の道を通った方が早く帰りが遅くなるため結局見に行けていない。壱弥に言ってはあるが鵺は何か見つけただろうか?俺が何とかできればと少しは考えたりはしたが現状やっとこ安定して妖怪が見える程度に落ち着いただけで【筒師】としての力は使えない。素人が下手に手を出すのは良くないだろうと思って任せた。
そう、俺はずっと素人でいい。いいんだ、うん。
「あきひさん!ぬえさんです!働いてるですです!」
ボーッと歩いていて危うく花屋さんを通りすぎるところだった。どれどれ?鵺は車に花の仕入れに必要な容器や台車など大きな荷物を運びいれたり、花の入ったバケツを店頭や店内に並べたり片付けたり。力仕事を淡々とこなしている。頑張ってるようでなによりだ。
「おう、鵺。頑張ってるみたいだな。」
話しかけると、鵺は笑顔で応えた。蛇の方な?
「おぉ!秋緋殿!それに砂羅殿と砂鬼殿も。お出掛けですかな?」
しゃがんだ鵺は小鬼とハイタッチをして戯れている。こいつらは人の為りはしているが鵺と違って人間に化けているというわけではない。ので、周りにはいつぞやの俺のように何もない所を見ながらニヤついてる危ないやつに見えている。ゾッとするわ。
しかし、やけに店員さんとして馴染んでいるが本来の目的を忘れてやしないだろうか?そういえばかすみさんは?
「その、かすぅみ殿は店の2階で休んでおるでござるよ。昨日から以前よりも体調が優れない様子で…。」
まだ声が裏返るのかこいつは。それにそわそわしてるだけだが原因はわかったのだろうか。その答えによっては壱弥に天誅を…。
「ひぇ…原因はわかったでござるよ!そちらの仕事も抜かりなく!!」
そう言うと、鵺はエプロンのポケットから手鏡を取り出した。
小鬼の顔が歪む。俺にもわかる。ずいぶん昔の物だろうか。鏡の部分はくすんでいるが、青地に黄色…これは白い紫陽花か?綺麗な装飾がされている小さめの手鏡。それから禍々しいと言うのがふさわしいほどの赤黒いモヤが溢れている。
「おいおい…いくらなんでもこれは。俺にだってヤバイもんだってわかるぞ。かすみさんが持ってたのか?」
鵺は頷くとかすみさんが所有していた経緯を話始めた。
数日前、鵺がかすみさんに一目惚れした翌日の事らしい。女の人が来て紫陽花を購入した。その時の忘れ物ということだ。毎日来てくれてるんだけどなぜかいつも渡すのを忘れてしまうとのこと。それを鵺が見つけたのは今朝。かすみさんが寝込む前、レジ回りの片付けを頼まれた時、かすみさんのエプロンのポケットの中から見つけたそうだ。
「破壊してしまえばと思ったのでござるが、力を加えようとすると跳ね返される作りになっているようで。呪をかけた本人でないとどうにもならないようでござる…。」
原因は呪術?とかいうやつか。忘れ物ではなく置いていったわけだな。本人といってもそう簡単に…ん?毎日紫陽花を買う女の人?その人って前に俺がかすみさんと話してた時に来た人か?かすみさんの話方の感じだとまさに毎日紫陽花を買ってる様子だった。手鏡の装飾も紫陽花だし。
「おい鵺。たぶんだが犯人わかったぞ。」
小鬼が「おぉ!名探偵あきひ!」とかおちょくったが無視だ、無視。真面目な話だぞこれは!気を取り直して、鵺にその女の人の事を話す。と、確かにこの3日間、同じ時間に同じように紫陽花を買いに来ていたようで、かすみさんが対応していたとのこと。それとなぜか鵺を見ると逃げるように帰るらしい。ますますもって怪しいな。
「よし小鬼ども。もうすぐ犯人がくる時間帯だ、捕まえるの手伝えよ!」
「はいです!」
「まかせろ。」
鵺はいつも通りに店にいてもらい、俺たちは店頭の花の影に隠れるように待機する。壱弥経由で親父にでも連絡して解決してもらう方が安全に収まるんだろう。が、それだと時間がかかるだろうし今は親父とはできる限り顔も見たくないし話もしたくはない。それに、あんな禍々しいもん見せられたし近くで倒れてる人がいるとなれば…すぐにどうにかしたいって思うのは人の性だろ。【筒師】どうこうのもんだいじゃない、これは人としてどうするべきか、だ。
それにしてもこのメンツは…小鬼たちはワクワク!ドキドキ!といったような顔をして隠れている。不安だ。
鵺も何だか緊張しているのか、不自然に、仁王立ちで店の入り口に立っている。…不安だ。
そういう俺も…俺には何ができる?退治するとか退ける能力使えるとかではないし、答えもでないまま考え続けて待つ事数分。
「すみませ…っ!!!」
来た!
来たけど忘れていた。女の人は鵺を見ると逃げるんだった。うっかりしてた。くそっ逃げられる!鵺のアホ!動け!商店街の真ん中をものすごい速さで駆けていく女の人。焦った俺は、とっさに俺の右脇から頭を覗かせたみーを掴み、振りかぶって。
「小鬼…っボンバー!!」
投げましたぁー。
「ぶえっぁ!」という女の人の鈍い声がしてみーが女の人にクリーンヒットしたことを告げる。ガッツポーズをした後、俺は倒れている女の人に駆け寄る。そっと抱き起こすと、呻いてはいるが意識はあるようだ。
「あきひさん!ひどいですぅうーーー…!」
その横で座り込んで泣きじゃくるたんこぶを付けたみー。そんなみーを、追い付いたちーがよしよしと頭を撫でてやっている。ごめんよ、みー。これは仕方ないってことで今回は許せ。なにはともあれ成し遂げた。物理的に…物理…?あれ、待てよ?小鬼が当たったんだよな?
「まさかお前、妖怪か?幽霊か?」
俺の問いには答えなかったが、女の人は小さな声で何かを言っている。
「…だめ…鵺さ、まぁ。はふん。」
今日の俺は勘がさえてるからな。うん、これは危ない人だわ。女の人は何故か頬を赤らめ、悦に入った表情のまま俺の腕のなかで気を失った。これはまた変なのが増えるなぁ、と俺は悟った。
不思議なことに、女の人の意識が途絶えるのと同時に雨は止んだのであった。




