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雨と鵺と花②

 鵺が言うには、こういうことらしい。


【筒師】の修業のひとつに、長時間使役妖怪を解放して術師が出来る限り一定の霊力を維持し続ける、というのがある。【筒師】の筒と、妖怪と術師は細長い糸みたいので繋がってるようなものらしく、それを長く、丈夫にするような意味がある。


 様々な状況下で一定した働きが求められるものだからなのだろう。


 壱弥がその修業を始めたとき、ウォーミングアップがてら、お使いを頼まれた鵺はこの商店街に人間に化けてやってきた。「お!爽やか美青年!」と、さっきの俺みたいに、かすみさんに話しかけられた、と。


「一目惚れ?ふぅーん」


 冷めた目で鵺を見る。


「だ、だから!まだ続きがあるでござるっ!!」


 あーはいはい?それで?

 その後、毎日同じ時間にここから見てたら?かすみさんの顔色が徐々に悪くなっていき、その体調の悪くなっている様が人間の病等からくるものではなく妖怪の能力によるもの、或いは呪術によるものというのが分かったと。


 俺と話をしてたときはそんな様子はなかったけど……空元気だったのだろうか。


「それこそ筒師の仕事じゃないのか?壱弥には言ってるのか?」


 俺が質問すると、鵺がなにやらもごもごとしながら返答する。


「いや、その、か、かすみぃ殿に、その――……」


 かすみさんの名前を口にするとひどく声が上ずる。

 なるほどなるほど。壱弥は勘がいいからばれるのが恥ずかしいわけか。


 とはいえ……このまま見てるだけじゃなにも解決しない。

 見惚れてて考えてなかったのか?ちょーっとこれは……俺、怒りましたよ?


「……皆までいうな、わかった。そうだな……ちょっとこっちにこい」


 俺は鵺の手を強引に掴み、かすみさんのお店の方まで引っ張っていく。なにをされるかわからずうろたえる鵺は「あ、秋緋殿!なにを?!ひぇぇ」と、頭を横に振りながら情けない声をあげる。


 妖怪って恋するとこんなにひ弱で気持ち悪くなるの?


「かすみさん、少しお話いいですか?」


 俺が話しかけると、額の汗を拭いながらかすみさんは振り向いた。気温はそこまで高くない、むしろ肌寒いくらいなのに汗をかいている。仕事もそこまで忙しくないはずのに。やっぱり調子は良くないんだ。


「あら、どうしたのイケメンくん……と?後ろの人はこの前の美青年ね!お知り合いだったの?」


 さっきの話を聞いた後だとニコニコとしているかすみさんの姿が痛々しい。これは放っておいた鵺の責任である。

 そんな鵺は、覚えててくれた事が嬉しかったらしく、上の空……大丈夫なのかよこの妖怪は。


 はぁ……よし!


「こいつアルバイト探しててさ、かすみさんの所募集してたっすよね?お願いしていいっすかね?」


 ちらっと見えたアルバイト募集の張り紙を思いだし、話を持ちかける。


「ほんと!?ちょうど力仕事できる人ほしかったの!さすがイケメンくん!行動もイケメンねっ!」


 いえいえそれほどでもありません!責任をもって勤めさせていただきますよ!


 鵺が。


 っておーい、聞いてるか?まだふわふわしてんのか!にこにこと笑顔で、後ろにいた鵺にかすみさんが近づき手をとる。


 はっとした鵺は固まった。


 まぁ、そりゃあ固まりますよね、好きな人だもん。


「これからよろしくお願いします!えーっとー……美青年さんってわけにはいかないわ……お名前は?」


 あ、名前か。「鵺です」とは言えないはず。

 人間に化けれるなら、壱弥のことだし、名前ぐらい考えてありそうなもんだけど……名乗れるのか?


「ぬ、ぬぬぬぬ鵺乃八兵衛(ぬえのはちべえ)えぇですっ!」


 ひどく上ずってるけど名乗れたじゃないか。

 しかし、鵺乃はわかるとしても八兵衛って……壱弥もなかなかのセンスの持ち主だな。結緋さんと仲良くなれそうだ。


 ふむふむとかすみさんは、なにか考えている。


「八兵衛……はちべえ……よしっ!はっちゃんね!」


 あぁ、あだ名ね。良かったな鵺。あだ名で呼ばれてふわふわの状態の鵺に俺は耳打ちをする。


「いいか鵺、ここでアルバイトして原因を探れ!壱弥には俺から言っとく……逃げるなよ」


 俺の言葉を聞いてやっと我に返った鵺は青ざめてる。

 そこは喜んでもらわないとなぁ?ふたりの距離は縮まるし!かすみさんの体調不良も解決するだろうし!うん、完璧だな!


「だっ?!それはまずいでござるよ!?え?あ、秋緋殿?!どちらへ?!」


 鵺のことはかすみさんにお任せして、俺は買い物を済まさなければならない。俺は手を振りながらその場を立ち去る。

 慌てて追いかけようとした鵺だが、かすみさんに呼び止められて色々聞かれてるようだ。うんうん、良いことだ、はははっ。


 あ、先に壱弥にメールしとくか。帰って話をするにしても勝手に決めたからな。鵺も後で怒られないようにしてあげないと。えーっと……楽しいことになったよっと、これでよし。


「……だめ」


 あれ?声?とても小さい声が聞こえた気が……振り返るが、誰もいない。


「なにが……だめなんだ?」


 少し強く降りだした雨の中、疑問に思いながら買い出しを済まし帰路に着く。途中、遠目で鵺の様子を見たが、まだ話し込んでいる……写メ撮っておこう、パシャリ。


 帰ってから、鵺も交えて話をした。


 鵺は軽くボコボコにされ、俺は壱弥に少し怒られたけど、内容が内容なだけにお許しをもらえた。

「本当は秋緋が直接筒師の仕事をしてもらえるともっと早いし、助かるんだけどね?」って言われたけど、これは明らかに鵺の判断ミスなので聞き入れられません。


 そして……あの小さな声の主が、週末、嵐を巻き起こすことになるとは誰も知る由もなかった。

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