25. やはりこうでなくてはな
ゲオルクの療養、休養という名目で、しばらくだらだらヤゴナで過ごした後、ゲオルクとレイアの二人はゆっくりと王都に帰ってきた。
「久しぶりな感じがしますね」
レイアは馬車の窓から王都の街並みを眺めた。レイアは出不精であるため、あまり馴染みのない景色ではあるが、それでもヤゴナから帰ると懐かしいような感慨を覚えた。また、レイアは想定よりも長い旅行になったな、ちょっと行ってちょっと帰って来るつもりだったのにと感じていた。おおよそ3ヵ月も家を空けるつもりはなかったのだ。
「これから、俺は王宮に行くがどうする?」
同じ馬車のゲオルクが曖昧な質問をしてきた。どうする?とは王宮を経由して屋敷に帰るか、先に屋敷に行ってレイアを降ろしてからゲオルク単独で王宮に向かうか、どちらがよいのかと聞きたいのだろう。ここからだと、前者、王宮を経由して屋敷に帰った方が距離的にも効率がよく、ややこしくない。だが、王宮に行くのはたるい!実に悩ましい。
やはり、最初からゲオルクと馬車を分ければよかったとレイアは後悔した。出発時にレイアは当たり前のようにゲオルクとは違う馬車にデーテと乗ろうとしたら、一緒の馬車がいいとゲオルクに静かに駄々をこねられたのだ。お見送りのヤゴナの皆様、ゲオルク将軍の配下などの生暖かい目は忘れがたい思い出です。
「……王宮に寄ってから行きましょうか」
以上のようなことをつらつら考えながらレイアは返答した。
「陛下にお目通りするのだが一緒に」
「それは嫌です」
レイアはきっぱり断った。一緒に陛下に謁見とか嫌に決まっているだろうと食い気味である。ゲオルクはだいぶ残念そうに、そうか……と肩を落とした。
ゲオルクが国王陛下に謁見している間、レイアはテキトーな中庭でテキトーに時間を潰していた。お花が綺麗、手間暇がえげつないとぼんやりしていた。
「あら!」
レイアは声の主に目を遣った。とても驚いた。なんと、な、な、なんと妹のフローラじゃないか!
フローラはひらひらドレスにきらきらアクセサリーを纏わせ、隣には男を侍らしていた。眩しい、浅はかさの原石や!
「貴様がレイアか!ひとでなし!」
フローラと腕をべたっと絡ませている男が暴言を吐いた。
「お初にお目にかかります」
レイアはとりあえずのお愛想笑いを被った。心中、誰だアイツでいっぱいである。フローラはあの男の威勢を借りて威張っているに違いない。つまりは、奴はかなり偉いのだろう。もしかしたら、ゲオルクよりも立場が上の若造の可能性があるぞう。それにしても、虎の威を借る狐もここまでくればご立派ご立派と、ひとまずレイアはフローラの振る舞いに感嘆した。
「そこまで言わなくても……」
フローラはしなっと身体を崩した。完璧な角度、完璧な体重の預け方である。熟練の浅ましさ、これだよこれという満足感をレイアは覚えた。
「あんなことやこんなことをされたと言うのに君は何て優しいんだ!」
男はフローラの見せかけの優しさに感動している。そんなに単純な思考回路ならば生きやすそうだとレイアは呆れた。というか、奴の頭の中で私はどんなことをしたことになっているんだ?とレイアは非常に気になった。浅はかさの中身が知りたいのだ。
「お姉様が一言詫びさえすれば許します」
「詫びるも何も、何をしてしまったのか心当たりがございません。教えてくれないかしら?フローラ」
「黙れ!疾くひれ伏せ!フローラの優しさに私が感動しているうちにな!」
この男は怒鳴るしか才がないらしい。手数の少ないことだ。浅はかではあるが、チッ、うるせーな、反省してまーすとでも言えばいいのか?という気持ちがレイアの中で勝っていた。
「王太子殿下ともあろう御方が何をなさっているのです?」
すると、よく通る女の声が場の雰囲気を支配した。フローラと男をビクッとさせるほどの圧がある。
レイアは新たな登場人物はさておき、あれが王太子殿下?マジかよ、国の行く末が危ぶまれるなぁと別方向の心配をしていた。レイアは社交界に顔を出さないため、王家の面々の顔を知らないのだ。仕方のないことである。
それにしても、随分大物を捕まえたなとフローラの手練手管にレイアは改めて目を見張っていた。やはり、あの浅はかさ、浅ましさ、そしてガッツ、これらを兼ね備えた妹は最高だ!これからが楽しみだが、ちと厄介かとさすがのレイアも王太子殿下という大物を前にして複雑な心境になっていた。
「ゾ、ゾフィー……」
ブルブルと王太子はフローラに縋りついている。ゾフィーと呼ばれた御令嬢は堂々とたる佇まい。どちらが次期国王かわかりゃしない。
「あまりはしたない真似はなさらないでくださいまし」
「……ふん!たかが婚約者のくせにうるさいぞ!!」
お手本のような捨て台詞を吐いて王太子とフローラはこの場を立ち去った。
レイアはまあまあいいものを見せてもらったと総括した。まず、想定外のフローラの登場では、変わらない浅ましさが見れた。まさに実家の味わい、とても素晴らしい。次に、驚きの王太子殿下の御登場。情けない浅はかさではあったが、立場の影響力を加味すれば、かなり興味深い。これからが楽しみではあるが、王太子殿下にどうやら睨まれているらしい状況を考えると、ダルッ、面倒という気持ちもある。最後に、王太子殿下の婚約者も出てくるとは、何か役者が揃った感がある。わくわくするような浅はか劇場だった。
「どうなさいました?」
浅はかだな~と考えているため、黙りこくったレイアを気遣って王太子殿下の婚約者、ゾフィーが声を掛けてきた。
「妹のことは慣れておりますので」
レイアはにこりと笑ってその場を立ち去ろうとした。
「では、あなたがレイアさんですね」
ゾフィーはすかさず話を続けた。レイアの退場を許さないご様子である。
「お時間はあって?わたくしとお茶でもいかがかしら」
「……光栄です」
レイアははいともいいえともつかない返事をした。だって、どう答えてもお茶をすることはあちらさんの中で決定事項なのだ。
「嬉しいわ。わたくし、あなたとお話しをしたかったの」
ゾフィーはではあちらに行きましょうと微笑んだ。どうやら準備万端なようである。ほれ見たことかとレイアは薄笑いを心の中に留めた。下の人間に自分の提案を断られることを考慮していない傲慢な振る舞い。これもまた浅はかである。仄暗い味わいがあるなあとレイアは思った。
それにしても、レイアに、王太子にべたついている女の姉に、王太子の婚約者様はいかなる話があるのだろうか。レイアはどう転んでも浅はかさは味わえるが、面倒事に巻き込まれるに違いないと予感していた。




