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24. 手と手を取り合って、理解

 フテ寝から目覚めると外が大変明るかった。昼になってるとレイアは顔を顰めた。寝過ぎて頭が痛い。気晴らしに散歩でもするかとレイアは部屋のドアを開けた。

「…………なに?」

 レイアは驚いた。部屋の外にはゲオルクがいたのだ。

「今いいか?」

「ええ、まあ。ご用件は?」

 とりあえず、レイアはゲオルクを部屋の中に入れた。

「さっきのことだが……」

「さっき?」

「朝方のことだ」

「ああ……」

 レイアはあれかー、寝たから忘れていたのにとげんなりした。

「いつからいたんですか」

「……ついさっきだ」

 嘘だなとレイアは直感した。もしかしたら、早朝から昼までゲオルクは部屋の外にいたのかもしれないという可能性をレイアは感じた。

「長時間突っ立ってるなんて、怪我は大丈夫なんですか?」

「そこまでやわじゃない」

 ゲオルクは嘘が通用しない気まずさで、少しレイアから目を逸らした。

「……無理しちゃダメでしょ。治せるうちに治さないと大変ですよ」

「あの時のあなたもそう言っていた」

 感慨深そうにゲオルクはレイアに目を遣った。

「……あの時?」

 レイアは何の話?とゲオルクを見つめ返した。やや怪訝な顔をしている。

「その、覚えていないと思うが……」

 ゲオルクは緊張した面持ちで話を切り出した。

「10年以上前、俺がヒガシーフナでサブリナさん達と暮らしていた頃、あなたは丘で転んで、足を捻った俺の手当てをしてくれた。俺はあの頃、あまり……よろしくない感じだったと思うが、それにも関わらず、親身に対応してくれた。……俺はそんなあなたに相応しくなりたいと思って鍛錬に励んだよ」

「……人違いじゃ?」

 いきなり何の話だとレイアはゲオルクから身も心も距離を取った。

「間違えてない。初恋の人だぞ」

 ゲオルクはいつになく自信満々である。レイアはまるで覚えてね~と眉間に皺を寄せた。そんなことあったっけ?そもそも、ヒガシーフナに行ったことあったけ?とはてなマークがレイアの頭の中に浮かんだ。しかし、ゲオルクの様子から見て、レイアが忘れているだけなのだろう。レイアは嫌なことを忘れる主義だから、その場所でも嫌な、そこに行ったことをまるっと忘れたくなるほどのことがあったのだろう、どうせ。

「はぁ……、じゃあ、それで結婚をウチに申し込んだんですか」

「ああ、探ってみると、あなた達姉妹のどちらかのようだった。それで、ヘルマンに相談すると、姉妹どちらかと結婚したいと申し込めばいい。もし、違う方が来たら丁重に断ればいいと言われて……」

「雑」

 レイアは口をやや開けて呆れた。ヘルマンは投げやりになってない?とレイアは感じた。

「俺は運がよかったから、一発であなたに会えた」

 仏頂面ではあるが、ゲオルクからほくほくとした満足気な雰囲気を感じる。レイアはゲオルクの鉄面皮から心情を推し量ることができるようになっていた。

「で、朝方の呪文は何ですか?」

 愛人だろう?というレイアの疑念が声をトゲトゲしくさせた。

「あれはな……」

 ゲオルクは視線を落とした。この時、ゲオルクら本当にレイアはあの時のことを微塵も覚えていないのだなと思った。ちょっとショックだった。

「あなたと初めて会った時、偽名を名乗られたんだ」

「はあ……」

 マジで、心当たりがないとレイアは思った。そのため、その話と今朝の寝言の関連がまるで見出せたかった。

「あなたは、ジュゲムジュゲムノアンポンタンクリスティーナクリームヒルトコーデリアマザーグースノコマドリヤカマシチョロチョロイラナイココーナイエンガイタイイタイイエナキココウノトリハヨクマチガエルルイスハロリロリローリリンリンリンノランランランノジャッスミーンと名乗った。……すぐ偽名だとわかった」

「よく覚えましたね……」

 レイアは呆れた。よくそんな人に惚れましたねともはや他人事の境地である。そして、何となくレイアの猫被りより素の方がいいと言ったゲオルクの思いに合点がいった。

「頑張ったからな」

 偽名だとわかっていても、ゲオルクは覚えようと努力せずにはいられなかった。

「レイア」

「はい?」

 レイアは改めて何?と訝し気にゲオルクを見た。ゲオルクはちょっと嬉しそうな目をしている。

「もしかして、妬いてくれたのか?」

「……いーえ、(むっあた)くッ!」

「ふふふ、そうか」

 心の底から漏れ出た微笑と何クソとやけになっている作り笑顔。二人は対照的な笑みを浮かべている。

 そして、ゲオルクは笑いを引っ込めて、レイアに向かって手を差し出した。

「怪我は本当にもう大丈夫なんだ。だから……、これから俺と街を回らないか」

「ええ、いいでしょう。受けて立ちましょう」

 レイアはゲオルクの手をしかと取った。じんわりと湿っている、代謝がいいんだなとレイアは思った。

「……では行こうか」

 ゲオルクは感慨深そうにレイアの手を見つめた。初めて会った頃とは大きさも柔らかさも変わった手だが、変わらずじんわりとあたたかった。






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