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26. 面倒事の負担を減らすには頭数を増やせ

 二人分のお茶がセッティングされているテラスで、レイアは王太子の婚約者ゾフィーと茶をしばくことになった。サシかよとレイアはげんなりした。

 これはレイアの推測にすぎないが、ゲオルクと共にレイアが王宮に来ることを聞いたフローラが王太子を連れてレイアに絡むことをゾフィーは予測していたのだろう。なーにがあなたがレイアさんね、だわ。知っていただろう。さすが王太子の婚約者、未来の王太子妃殿下、ひいては王妃様といったところか。肩が凝るわ。と、レイアは内心面倒事に巻き込まれた予感から悪態をつきまくっていた。

「ゾフィー様、お招きありがとうございます」

 レイアの心中は罵詈雑言の嵐であったが、口から出る言葉はお綺麗だった。

「いいのよ。そんなにかしこまらなくて。レイアさんとは気兼ねなくお話ししたいわ」

「…………」 

 無理無理と首を振りたいのを堪えてレイアは曖昧な笑みを浮かべた。

「レイアさんは今日はどうしてこちらに?」

「……夫の付き添いです」

 成り行きですと言いたいのを我慢してレイアは猫をひしっと被った。もしかしたら、ゲオルクに付いていって国王の謁見を乗り切った方がラクだったのかなという考えが頭をよぎった。

「まあ……!レイアさんとゲオルク将軍は仲睦まじいと聞いていますのよ」

「……そうですか」

 レイアはにっこりと笑みをはりつけた。はて、誰から?と思ったが、レイアにとってゲオルクに関する話は突っ込まれたくない、特に理由もないがちょっと嫌、理由はありませんがといった話題であった。レイアは話をそらすために本題に切り込むことにした。

「妹がご迷惑をお掛けしているようで、大変申し訳ございません」

 レイアは椅子から降り、地にひれ伏して頭を下げた。スーパーウルトラマジごめんなさいの謝罪の時に使う動作である。

「レイアさんが謝るようなことではありません」

「ゾフィー様……!」

 ゾフィーが優し気に微笑んだので、じゃあそれに感動した的な雰囲気でも醸し出しますかとレイアは感極まった風にゾフィーを見上げた。

「フローラさんは殿下と瞬く間に親しくなられて、……さまざまなことを疎かにされるようになりました」

 フローラの威力は素晴らしいなとレイアは思った。だって、一応この国の王太子に近づいて入れあげるようにしちゃうんだよ!すごい浅ましさ!しかもそれでやることの一つが姉に向かってドヤること。浅はかすぎてヤバい。レイアは妹の愚かさにブチ上がって、スーッと涙をこぼした。

「わたくしは殿下をお止めしたいだけ……。レイアさん、よかったら、力を貸してほしいの」

 レイアがこぼした涙を指で拭うとゾフィーは眩い笑顔をレイアに向けた。

「私ではお力になれません」

 レイアは何でもないように返事をすると、何事もなかったように椅子に座り、お茶を飲み始めた。

「え……」

 ゾフィーは思わず、えとも何ともつかない声を漏らした。一瞬、呆けた顔を見せていたが、すぐに立て直し、レイアに倣うように席に戻った。そう何でも思い通りにいくと思うなよとレイアは茶を味わった。そして、ゾフィーのすべて自分の手の平の上なんていう傲慢な浅ましさ、そしてそれが覆された間抜け顔を堪能した。美味である。

「姉上にあたるレイアさんはフローラさんにいつも大層迷惑をかけられたのではなくて?」

「…………」

 レイアの素気無い態度にもめげず、ゾフィーは異なる方向からアプローチを始めた。さすがの胆力だとレイアは感心した。

「王太子殿下にあのように思われてしまうなんてレイアさんも、ゲオルク将軍も災難ですこと」

「ゲオルク様も……」

「ええ、そうです。左遷されるなんてことも……」

 やっとレイアが話に食いついてきたため、ゾフィーは嬉しそうである。レイアはなるほどとやっと合点がいっていた。ゾフィーはレイアを通じて将軍のゲオルクを引っ張り出そうとしているのだ。ゾフィーの保身のためにフローラを何とかしたいなぁとゲオルクに直接頼むと、ゾフィーはゲオルクに対してそこそこ大きな借りを作ることになるので、このような回りくどいことをなされているのだろう。だが、それはややこしいしレイアの負担も大きいように感じる。面倒、知らんわ、直接頼めよとレイアは心底思った。ちなみに、レイアには当然ながら妹のことでゲオルクの手を借りるのは申し訳ない気持ちはあるが、まあいいや、ゲオルクの力で自分が楽できるならと思っていた。

「ゾフィー様は大きな誤解をなされているように思います」

「何かしら?」

「私は妹を厭んではおりません」

「本当に……?」

「ええ!」

 ゾフィーが嘘でしょ!正気かしらと素で驚いた姿を見て、そんなにびっくり仰天?とレイアは不思議に思った。

「ゾフィー様はゲオルクが左遷されるかもとおっしゃいましたね?」

「……噓ではありませんのよ」

 ゾフィーははったり部分を掘り下げられ、少々気まずい顔をした。

「人の幸せは心の持ちようだと思っています。住めば都、何とかなるでしょう」

 レイアはゲオルクの身の振りように不安とかフローラが嫌いとかないんで、レイアが積極的にゾフィーに協力する理由はないと暗に示した。

「……つまり、わたくしに協力しないということね」

「そうは申しておりません。事は王太子殿下が関わること。つまりは国の行く末の一大事かもしれません。ならば、お話次第では将軍ゲオルクは協力なさると思います」

 そうなれば、私も微力ながらお手伝いしましょうとレイアはにこりと笑った。

 フローラは恐らくレイアをいびるつもりだろう。浅ましくてテンションあげあげーではあるが、王太子のイイヒトに目をつけられるのはさすがにめんどい。だから、フローラを何とかしなくてはという考えは温度差はあれど、ゾフィーもレイアも同じではあった。つまり、レイアはゲオルクとゾフィーの間を立ち回るのは真っ平御免ではあるが、フローラ潰しに協力すること自体はやぶさかではなかったのだ。ゲオルクのオマケとして力を貸す。これならいい、まだ楽そうだとレイアはほくそ笑んだ。

「あなたを介してゲオルク将軍の力を借りようと思ったのだけれど。……これはフローラへの温情のつもりだったのよ」

 ゾフィーは今までのお上品な笑みから腹に一物あるような不敵な微笑みに変化した。

 レイアはゾフィーの言うことに一理あるなと思った。レイアを介してゲオルクの手を借りる。この場合は、レイアが主となって動いている。レイアの負担は大きいが、ゲオルクはただ力を貸しただけとなる。しかし、ゲオルクに直接話を通すとなると、ゲオルクが主体的に動く。あれでも将軍、責任やら立場上の問題やらで事が大きくなるのは目に見えている。

「情けを仇で返されたいのですね……」

 にっこりとレイアは変わらぬ猫被りの笑みを浮かべた。フローラ相手に温情かけていると痛い目に遭うのは経験から容易に推測できることだった。

「……わたくし、見誤ったわ」

 ゾフィーははあっとため息をついた。

「何をですか?」

「あなたのことよ。もっと大人しい方かと思っていたわ。さすがにあのフローラの姉なだけあります」

「ふふふ」

 とりあえずレイアは笑った。ゾフィーの中で話はまとまったようだった。


  

 宴もたけなわといった具合の時にわたわたと男がやって来た。ゲオルクである。

「ゾフィー様、お久しぶりでございます。その、レイアは……」

「ええ、お借りいたしました。とっても楽しい方ですわね、レイアさんは……。またお茶したいわ」

 ゾフィーは意味深な笑みを浮かべた。

「光栄です」

 レイアははいともいいえともつかない返事をした。












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