23. 早起きは三文の徳なんて言うらしいが?
レイアはウッキウキでヤゴナを回り、とっても疲れていたため、超絶怒涛に早く寝た。よって、自明の理か、レイアはハイパーウルトラ早く起きてしまったのだ。しばらく、レイアはベッドの上でごろごろごろごろ、至福の時を味わっていたが、それも飽き始めた。只今、朝5時である。暇だから散歩でもするか、外も明るくなってきたしとレイアは身支度をチャチャチャと整えた。
まずは、宿屋の中から始めよう。黄色や赤色の鮮やかな壁が印象的である。家具はシックな雰囲気でまとまっていて、とても落ち着いている。次いで、窓の外に目をやると整えられた庭園があった。あそこを散歩してみようかな〜とレイアは当たりをつけた。そして、宿屋の人は朝食の準備や掃除などスピーディーに動いている。お手伝いに行こうかしらんという考えがレイアの頭によぎったが、さすがにやめておこう。
そういえば、宿屋の娘さんはゲオルクを諦めたとデーテが言っていた。何でもゲオルクにキッパリ断られて見込みなし、つけ込む隙なしと思ったらしい。もっと浅はか魂を持ってほしいものである。
そうして、レイアはゲオルクがいる4階に足を運んだ。一応行っとくかの気まぐれである。部屋のドアを開けると、まだ寝ているゲオルクの姿があった。レイアは暇だからとりあえず起こすかとカーテンを開けた。
「うう……」
そこそこに明るい朝日を浴びてゲオルクはぎゅむっと顔を顰めた。そして、何やら夢見心地のようで何かぼそぼそと口を動かしている。もしかしたら、意外と怪我が痛むのだろうか。ちょっと悪いなと感じたレイアはゲオルクの様子を伺うために、ベッドに近寄った。
「アン……?クリスティーナ?グース……、リンリン……」
「…………え?」
ゲオルクは女性らしい名前を呪文のように唱えている。レイアには心当たりのない名前だった。そして、ゲオルクはぼんやりと目を開けてこちらを見た。
「ジャッスミーン……?」
「違いますわ」
レイアはがっつり猫を被って、にっこりと言い放った。
「……待ってくれ、レイア」
目をしかと開け、状況を悟ったらしいゲオルクは情けない声でレイアを呼び止めた。
「お邪魔いたしました」
レイアは逃げるように部屋に帰り、ベッドにボスンと飛び込んだ。いつもよりも固い感触だ。
レイアはごろりと寝転がり、額に手を置いた。なぜゲオルクから逃げたのか。レイアには自分のことがわからなくなっていた。あの場から離れずにいられなかったのはなぜだろうか?あの男の浅はかさを堪能するいい機会だったのにとレイアは唇を噛んで、強がった。
それにしても、しらなかったとレイアは目を瞑った。ゲオルクのあの様子からして、最低でも4、5人は親しい人がいたなんて。寝言や寝起きで口に出る名前ということは相当親しい、愛人関係を考慮しても良いだろう。いやはや、しらなかった……、私しか愛さないと言った時もそうだったんだろうか。そうだったんだろうな。いるなら言ったっていいじゃないか。欺く気だったのか?まあ、事実欺かれていましたが。まあ、とりあえず、切り替えて、愛人の多い奴の浅はかさ、浅ましさを噛み締めようか。それとも、何も気付かなかった自分の愚かさを堪能しようか。…………、………………。嗚呼、頭が上手く回らない。と、レイアはらしくない思考回路に嵌っていた。
「寝よう」
気が塞いだ時は寝る、または何かに没頭するというのがレイアの常であった。レイアはまだ起きるには早いし、寝よう寝ようと独り言を呟いた。やけに大きな声だった。