14. 悪趣味
「ゲオルク、おかえり!」
メラがレイアを差し置いて、ゲオルクを笑顔で出迎えた。
「……何かあったのか」
ゲオルクの顔には疲れが垣間見える。
「別にいいじゃない。会いに来たのよ!」
メラはゲオルクの様子にはお構いなく、最高テンション⤴︎⤴︎で近寄った。
「お墓参りのついでに寄らせていただきました」
メラの母、サブリナが落ち着いた声で言った。
「……そうですか」
ゲオルクはどこか仕方なさそうに言った。どうやら、昔馴染みには強く出られないようだとレイアは思った。
デーテから引き出した話によると、メラの父とゲオルクの父は仲が良く、共に戦い、切磋琢磨し、そして、共に死んだそうだ。メラが生まれたばかりの頃、ゲオルクがまだ幼い頃のことである。二人で隊の殿を務め、凶悪な盗賊団相手に切った張ったの大立ち回り。恐ろしいことに盗賊団を壊滅させたが、相打ちという具合で二人とも力尽きていたとのことだ。
そして、ゲオルクの母もその後すぐに亡くなり、13 歳で軍に入るまで、ゲオルクはサブリナの世話になっていたらしい。
幼馴染っていい響きだなぁと思いながら、レイアはメラとゲオルクを眺めていた。
「ここにちょっといてもいい?」
メラはゲオルクが私のお願いを断るわけない!と自信満々の様子だ。少しフローラに似ているなとレイアは思った。
「……少しの間だけだ」
ゲオルクは仕方ないなぁと表情を少し緩めた。さすがのゲオルクも幼馴染には甘いらしい。これはもしかして面白いことになるのでは?とレイアは観戦体勢に移行した。
「やったー!私、王都でいろいろ見たいものがあったの。ゲオルク、一緒に行かない?」
「サブリナさんと行ったらいい」
ゲオルクはため息まじりに言った。
「……レイアさんもどう?」
「私は遠慮します」
レイアはにっこりと他愛のない笑みを見せた。傍観者に話を振るな、驚くと感じていたレイアはやや素っ気ない返事をした。
「えぇ~……」
メラはあからさまにしょぼんと肩を下げ、唇を突き出した。憐れみを誘う様である。こーゆー浅ましさのタイプはやはりフローラと似ているなと思った。
「俺は行かないからな」
ゲオルクはきっぱり断った。昔ながらの付き合いであしらいの方法はある程度熟知しているようだ。だから、フローラへの対応が上手かったのかなとレイアは思考の世界に入っていた。
それから、メラは劇場に行ったり、ショッピングに行ったりとアクティブに過ごしていた。そして、それらに関する話やお土産で使用人達と親しげにおしゃべりをすることで、途轍もない早さで屋敷に馴染んだ。時折、屋敷内で、社交的な人の方がゲオルク様にはお似合いなのではないか、お父君同士もご友人とのことらしいし……という会話がひそひそとされるようになったほどだ。レイアは耳ざといのだ。
聞かれるかもしれない悪口を言う浅はかさ、一応ではあるが主人の妻を蔑ろにする浅ましさ、大変良い。善良そうな使用人も一皮剥けば浅ましさ・浅はかさの宝庫だなとレイアは満たされていた。
そして、遂には、ゲオルクとレイアの朝食にも顔を出すようになっていた。メラはどうしてそんなに話せるのかというくらいゲオルクと会話をしていた。ほぼ、メラが話して、ゲオルクが相槌を打つという状態であった。レイアはただそれを眺めていた。まるで置物になったような気分だった。
メラは大きな声で話し、笑っていた。話し相手のゲオルクにとっては好感の高い様子なのだろう。しかし、傍目から見ていると、うるせー、飯くらい静かに食わせろーと感じてしまっていた。もちろん、それと同時にレイアはメラの手腕に感激していた。レイアの居場所や好評を直接ではなく間接的に、また相対的に失わせている。素晴らしい手練手管だ、スタンディングオベーション。落とし所としては、レイアはゲオルクの妻に相応しくない、メラの方が断然お似合いだ、だろう。単純な筋書きは浅はかで美しく、人心掌握術は浅ましいほどに素晴らしい。
このまま進むと、ゲオルクの浅はかさも望めるかもしれない。あのお綺麗でお堅い面の皮の下を覗けるかもしれない。レイアはそれは興味があるなぁと思った。フローラに揺さぶられても浅はかさの欠片もなく、疎ましいほどに清廉潔白。あまつさえ、レイアの境遇を憐れんだあの男。
レイアはご立派な将軍・ゲオルクには興味がなかった。彼にはそのようなお綺麗な一面しかないと断じたため、どーでもよいと思っていた。では、その下があるならば?人間の愚かさが拝めるのであれば?
是非、引き摺り出したい。




