15. 相互不理解
ある日、レイアの元にメラがスタスタやって来た。
「レイアさん、一緒にゲオルクのところに行かない?」
メラは自信満々に言い放った。ゲオルクは只今仕事中、その様子を見に行こうというのだろう。それにしても、メラはフローラのようにきゅるるんタイプではないようだ。取り繕う必要を感じていないのだろうか。自己肯定感が高い人だなとレイアは所見を心に留めた。
「ええ、ぜひ」
レイアはにこりと承諾した。直感ではあったが、面白い流れに繋がるかもしれないと思ったのだ。
メラとレイアがお仕事見学に行くと、ゲオルク将軍が兵士相手に直々に稽古をつけていた。漏れ聞く話から、何やら近いうちに剣技を競う大会があるらしい。
「ゲオルク!」
メラは大きく手を振った。そして、レイアを置いて、ゲオルクのところへ駆け出した。ゲオルクや周りの兵達と楽しそうにおしゃべりをしているのがレイアのところから見える。
それにしても、彼女の話術は素晴らしいものがある。中身はないが、話し終えるとなんか楽しかったーという感覚が漠然と残るらしい。一種の才能だろう。
レイアは妻ヅラをしているメラと満更でもなさそうなゲオルクを眺めるのも乙だな、酒があればいいのになぁと考えていると、傍に誰かやって来た。
「貴女がレイアさん?」
「はい、そうですが……」
レイアは悪趣味に耽溺しているとは感じさせない淑やかな笑みを話しかけてきた男に向けた。
「申し遅れました。私はヘルマン、ゲオルクの友人です」
「そうでしたか」
聞いたことあるなとレイアは記憶を辿った。たしか、ゲオルクにダンスを教えた人だったかな。
「お名前は以前ゲオルク様から伺ったことがあります」
「そうでしたか。嬉しいなー!」
ヘルマンはゲオルクと違って軽やかな雰囲気を感じる。長い金色の髪を靡かせ、美しいエメラルドの瞳を持つ正統派美青年だ。
「いいんですか。ゲオルクのとこに行かなくて」
「ええ、ご迷惑でしょうから」
「あの娘は良いのに?」
あの娘とはメラのことだろう。ヘルマンは手強い人のようだ。レイアは小手先の猫被りではヘルマンは納得しないのだと感じた。
「本当はゲオルク様のところに向かうのが億劫なだけですわ」
レイアは素と見せかけた茶目っ気を出した。淑やかさからお茶目を出すと、皆その茶目っ気こそが本当のあなただと信じるのだ。この技術はフローラが上手かった。本当はここが浅はかさがよく見えるベストポジションだから行っていないだけであった。
「……私には詳しい事情がよくわかりませんが、ゲオルクは貴女に惚れ込んでいますよ」
「そうでしょうか」
何を突然?とレイアは不思議に思った。そして、それはヘルマンの思い違いだとレイアは考えた。なぜなら、レイアを愛する理由がわからない、メラとあんなに仲良さそうであるからだ。
「本当ですよ。いつか身に染みる時が来ると思います」
ヘルマンととりとめない話をしていると、ゲオルクがヘルマンとレイアの様子を気にし始めた。
「……私は帰ります。ご機嫌よう、ヘルマン様」
ゲオルクがこちらに来る前に帰ろうとレイアは鮮やかに帰路についた。
「ヘルマン!」
レイアが去った後、メラを振り切ったゲオルクがダッシュでヘルマンの元にやって来た。
「レイアさんは帰っちゃったよ」
「そうか」
ゲオルクはすぐに息を整えるとヘルマンをジト目で見た。
「何だよ」
「別に……」
ヘルマンはむすっとしているゲオルクを面白そうに眺めた。
「ゲオルクよ、両手に花なんて器用なマネをしたいのか。私じゃないんだし、やめとけ」
「……メラとはそーゆーんじゃない」
ゲオルクはぎゅっと眉間に皺を寄せた。
「お前にその気がなくとも、あちらさんはやる気満々みたいだぜ」
「…………」
ゲオルクは黙りこくった。わかってるなら見守るかとヘルマンは腕を組んだ。
「にしてもさぁ、レイアさん、だいぶ手強くない?」
「ああ」
「お前の愛も通じてないし伝わってもいなそうだ」
「……頑張る」
レイアを理解していないゲオルクは健気さを発揮していた。
レイアは最短経路で屋敷に帰るとメラの母、サブリナがお出迎えをしてくれた。
「レイアさん、お帰りなさい。メラと出掛けたのではなかったのですか?」
わざとらしい浅はかさだとレイアは満たされた。ゲオルクとメラが仲良くしている様を見ていられなくなって逃げ帰ったと思っているのだろう。まあ、概ねその通りだな。
「メラさんはまだゲオルク様のとこにおりました」
「さようですか」
サブリナはにこにこにこにこと笑った。
「そういえば、私の娘の方がゲオルク様とお似合いなんて噂もありますよ。ご存知ありませんか?」
にこにこしたままサブリナが浅ましい口を叩いた。人は優位に立つと、愚かさが出やすいのだ。とても良いぞとレイアは楽しんだ。
「……私にはよくわかりませんわ」
そして、レイアはサブリナの前から去った。サブリナの目には夫を他の女に奪われそうだが、成す術もない妻らしく、レイアは弱々しく、みっともないように見えただろう。
その実、レイアはにんまりしていた。メラの用意した舞台で踊ってやるとも、ダンスは苦手だが、役を演じるのは得意だよとノリノリである。
メラの筋書きの先には浅はかで浅ましいゲオルクがいるとレイアは確信していた。新婚にもかかわらず、他の女に入れあげるゲオルク。あの男は妻であるレイアの前でどのような言い訳を並べるか、逆ギレでもするのだろうか。どちらも素晴らしい。思わず涙がちょちょぎれそうだ!
お綺麗な面の皮が破れるのも近いなとレイアは鼻歌を口ずさんだ。




