004
暫く歩き、俺の入った下水道の入り口の付近まで来た。あの二人は何をしているのかと考えていると、やがて入り口から騒音が聞こえてきた。
「次から次へと……」
何かトラブルなのかとため息を吐きながら、俺は駆け足になりながらも入り口まで向かう。
「--げさい、エレン!」
「お前が、逃げ、ろぉ……。アイツなら、お前を守れる……!」
そこは、戦場と化していた。エレンは長身の男に足踏みにされ地に伏し、カナリアは元よりさらにボロくなった服でエレンに縋っていた。
どういう状況だ。
「……どういう状況だ、これ」
「ッ! ケルニス! やっと来たかテメェ!」
足踏みにされたエレンは俺に叫んだ。
その叫びを聞き、エレンを足踏みにしている男がこちらをジロリと見る。
「誰だ。小僧」
「関係ない。足を退かせ」
互いの視線が交差する。
俺はその男に鑑定の魔眼を発動させた。
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本名:ドボルガー
年齢:27歳
Lv.37
〔能力値〕
魔力 2.846/2.987
攻撃 1.345
魔攻 1.079
防御 654
魔防 564
速度 479
《獲得魂技》
【追跡Lv.2】
《技能》
〔武〕
【剣術Lv.3】【剣技Lv.2】
【身体強化Lv.1】【体術Lv.2】
〔魔〕
【火魔法Lv.2】【魔力剣Lv.3】
〔技〕
【拷問Lv.2】
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……強いな。レベル37で、素の攻撃だけなら俺を越えてる。しかも、魂技持ちだ。名称的に攻撃系じゃないのが救いか。
『ラット将軍--』
俺はラット将軍に召集を命じつつ、この男への勝ち筋を探す。
多少休み、神様からの加護の効果なのか既に腕はある程度治っている。一応、撃とうと思えば風圧剣は発動できる。だが、完治した訳ではないため、撃たなくてもいいなら撃ちたくはない。レベル的に魔王覇気も通じないし、超身体強化で頑張るしかないか。
「もう一度聞く。名乗れ、小僧」
「お前に名乗る名は--」
魔王剣を召喚し、超身体強化を発動させながら男に飛び掛かる。
「ないッ!」
「ッ!」
俺は首へと剣を振るう。ドボルガーは攻撃を見切り、身体を大きくのけ反らせた。ドボルガーの首から微かに血が流れるが、致命傷まではいかなかったようだ。
俺は倒れたエレンの横に着地する。
「無事か?」
「無事に見えるのか?」
「見えないな。カナリア。コイツを裏に下げろ。それから、逃げられる場所はあるか?」
「はい。絶対に見つからない場所が」
絶対に見つからない場所、ねぇ。状況を考えるに、嘘は言ってないと思うが……。
「まあ、今はそれを信じよう。取り敢えず、そこまで走れ。俺も後から付いていく」
「でも……」
「いいから。行け」
「……分かりました」
カナリアはエレンに肩を貸しながらそこへと向かっていった。俺はそれを横目で確認しつつ、カニバ・ラットの何体かに二人を追うように指示を出す。
これで、見失わない筈だ。
「さて、待たせたな」
「小僧……何者だ?」
「通りすがりのただの孤児だよ。それより、どうする? 俺とやり合うのか。それとも逃げるか。どっちがいい?」
「……」
ドボルガーは考える素振りをする。今ここで襲うのもありだが、流石に警戒はしてるだろうし、先ほど向こうは襲ってこなかったのだ。これで俺が襲ったらフェアじゃない。
やがて結論が出たのか、ドボルガーは踵を返した。
「止めておこう。無駄に疲れるだけだ」
「ハハッ。賢明な判断に感謝しよう。だが言っておくが、追跡しようだなんて、思わないほうがいいぞ?」
「……なんのことやら」
ドボルガーはそのまま歩き、路地を曲がった。
俺は再度カニバ・ラットたちに連絡を取り、ドボルガーを付けるように命じ、二人の後を追うのだった。
* * *
二人を追ったカニバ・ラットの内一体に先導されながら路地を歩く。その間にドボルガーに付けさせたカニバ・ラットの視覚を通して様子を見るが、現状は不気味なほどおとなしい。まさか影武者? と思い、視覚を通して鑑定の魔眼を発動させるが、特におかしな部分はない。
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条件を満たしました。魂技【魔眼】のレベルが上がりました。
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お。魔眼のレベルが上がった。まあ、魔眼に関しては今日だけでかなり使ったからな。
さてさて、効果は……
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【魔眼Lv.2】魔視の魔眼
魔力を目で見ることが出来る。
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魔力を目で見る、か。どういう意味だ?
俺は早速、魔視の魔眼を発動してみる。発動し、キョロキョロと周りを見ると、おかしな部分が一つ。俺の心臓辺りから何か紫の糸のように細い線が一直線に伸びている。触れようとしても触れられない線の先にいたのは、俺を先導してくれているカニバ・ラットである。
俺は暫くこれの意味を考えるが、それの答えが出ることはなかった。
やがて歩いて行くと、二人を追っていたカニバ・ラットが申し訳なさそうにそこに立っていた。
「お前……まさか」
「チュー……」
申し訳なさそうに脱力するカニバ・ラット。見失った、ということだろう。
カナリアの言っていた絶対に見つからないってのは、あながち間違いじゃないのかも知れないな。
「ここら辺で消えたのか?」
そう聞くと、カニバ・ラットは鳴き声を上げながらうなずく。ここら辺にカラクリがあるのか? 俺は辺りを見渡し、気まぐれに魔視の魔眼を発動してみる。すると、
「……なんだ、これ?」
位置的にはすぐ真横の建物。そこには、一面紫色の壁が広がっていた。呆けながらも、魔視の魔眼を解除してみる。すると、シュンと紫の壁は消え、普通の建物の壁が現れた。
「どうなってんだ……?」
俺は魔視の魔眼を発動させながら壁を触ってみる。すると、どういう原理なのか壁がすり抜けた。
「これまさか……幻術的なやつか?」
俺は恐る恐るその建物に入ってみる。
俺のドキドキした気持ちとは裏腹に、建物の中は比較的普通であった。壁は少し風化し、家具はボロボロになってそこらに転がっている。辺りを見渡しながら歩いていると階段があることに気が付き、それに登ってみる。
「あ、いた」
「ッ! ケルニスさん……」
そこには、エレンの介護をしているカナリアの姿があった。
「凄いですね……。まさか、ここが見つかるとは」
「まあ、殆ど偶然だけどな」
あそこで魔視の魔眼が使えていなかったら俺はここにはいなかっただろう。そう考えれば、かなり運はよかったと思う。
「だがその言い方だと、俺を撒いたように聞こえるが?」
「誤解です。エレンがこの状態で、私には現状戦う手段がありません。少ししたら、貴方を迎えに行く積もりでした」
「どうだかな」
俺は近くにある椅子に腰を掛けた。
「さて。それじゃあ聞こうか」
「……聞く、ですか? 一体何を?」
「惚けるな。お前たちが狙われた理由だ」
「理由と言われましても……ここらで悪漢に襲われるなんて普通ではないですか? それにほら、私たちはかわいいですし」
ニコッと笑いながらちょっと何言ってるか分からないとばかりに惚けるカナリア。俺は淡々とカナリアを追い詰める。
「自分で言うな。……アイツのステータスが異常だったんだ。ここらのレベルの平均が16~20なのに対して、あれは37だった。それに持っている技能も、そこらのチンピラとは思えないラインナップだったぞ」
「ッ!」
カナリアは驚いた様子で俺を見てくる。
まあ、そうだよな。自分の専売特許だと思っていた力を軽く越えられたのだ。普通は驚いたりもする。
「何故、そこまで……」
「これを話せるほど、気を許してはいない。で? どうするんだ。俺に話すか、だんまりを続けるか」
カナリアは黙ってしまった。額には汗が浮かび上がり、かなり焦っているのが分かる。
「……貴方にも、デメリットがあるのでは? やはりここは、互いに過去を隠して……」
「俺は、この力を使えばお前と同じ生活魔法が使える奴を探し出すことが出来る。現状、お前を雇うメリットは皆無に等しい。それでも俺がまだお前と手を組もうと考えているのはお前に情が移ったからだ。だが、俺はそんなことで時間が食われるならさっさと別の奴を探す」
カナリアの額にある汗がツーっと流れる。
俺はカナリアを見据えて、言った。
「最後に、もう一度聞こう。話すか、解散か。二つに一つだ。後ろのも含めて考えるんだな」
カナリアは目を閉じ考え始める。
やがて覚悟を決めたのか、カナリアは口を開いた。
「お話しましょう。私たちの、全てを」
* * *
俺とカナリアは対面で座り話し合う。話し合うとは言っても、話すのは殆どカナリアで、俺は聞いているだけだが。
「なるほど。つまり、家が潰れたから貧民街に逃げて来た。けど、貴族時代にお前を婚約者にって言ってた奴がお前を追っかけてきてる、と」
「いやまあ、そうですけど……。私たちの一年半をそんな三行で……」
だって長いし。と心で呟く。
「でもそれ、好条件なんじゃないか? その男がどれ程のバカなのかは知らないが、貴族に戻れるんだろ?」
カナリアはどこか遠い目をするように呟く。
「……無知は罪。とは、言えたものですね」
「そこまでなのか……?」
比較的穏和なカナリアがそこまで言うか。
なんでも、そいつの貴族階級は伯爵で家名はホルホイル。既に潰れてしまったが、カナリアの家の爵位は男爵で家名はダーナルアであったという。
ちなみに、この世界のほとんどの国の貴族階級は公侯伯子男で決まっているらしい。そんで、国によっては一代限りの名誉貴族である騎士爵等もある。
「はい。そもそも、私の家が没落するように糸を引いたものおそらくホルホイル伯爵の仕業でしょうし……ホルホイル伯爵の策略でお父様もお母様も……ッ!」
「……そうか」
前世含め、俺は両親との死別を体験していない。この世界に関しては、親がいるのかどうかすら分からない。そんな俺が今のカナリアに掛けることの出来る言葉は生憎持ち合わせていない。
「……すいません。熱くなりました」
「気にするな。……話が逸れたな。今は目先のことを考えよう。これからする話しはエレンを交えて話したい。それまで、持ってきた武器にクリーンを掛けてくれるか?」
「はい。それは構いませんが……その武器は一体どこに?」
「ここだ」
俺は手を横に払う。
すると、俺とカナリアの間に収納空間が現れた。
驚き絶句しているカナリアを他所に、収納空間からガラガラと武器が落ちてくる。
ちなみに、今回は武器だけだ。鎧は嵩張るし、一式全てがない物が多く、持ち運びにも向かない。武器を売るときも、持っていく時は収納空間を使うつもりはないしな。
「こ、これは……」
「さあ。クリーンを始めてくれ」
「話す気は、ないと?」
「そこら辺はエレンが起きた時な」
俺は武器の山のなかに鑑定の魔眼を使う。
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名称:鉄の剣
武器ランク:D
種類:両刃剣
《備考》
普通の鉄の剣。
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うん。まあ、こんなものだろう。
だがやはり、俺の鑑定の魔眼じゃ菌の有無は分からないか。まあ、分かったところでという話ではあるが。
俺は続いて、魔視の魔眼も発動してみる。
「……ん?」
溢れる武器の山の中の奥に、紫に光る武器が見えた。その光は、この建物の周りにあった光りと酷似している。
俺は上に乗る武器を散らし、その武器を手に取る。
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銘:魔剣・デビルハンター
武器ランク:C
種類:魔剣
《性能》
【悪魔殺し】
《備考》
遥か昔、英雄が悪魔を屠った魔剣。一部の悪魔から、この剣は憎悪の対象となっている。
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魔剣か……。俺の魔王剣とは違うのか? まあ、武器ランクから違うが。
俺は再び魔視の魔眼を発動させ、魔剣がないのかを調べてみるが、それが見つかることはなかった。
まあ、これが奇跡みたいなもんだったんだな。
* * *
暫く作業をしていると、数十分ほどでエレンの目が覚め、起き上がった。
「う、うぅ……。ここは……」
「エレン! 起きたんですね!」
起き上がったエレンに対し、カナリアはエレンに駆け寄る。よっぽど心配だったのだろう。
感極まり、カナリアはエレンに抱き付いた。
「うわっぷ。や、止めろよカナリア」
「照れないでください。もう少し、このままで」
「ちょ、ケルニスも見てるって!」
「いいんですよ、今更。彼には殆ど全てを話してしまいましたし」
「殆ど全て……?」
「それも含めて、色々と話そう。取り敢えず、カナリア。話しづらいだろうから離れ--」
「このままで」
「いや、離れてほし--」
「このままで!」
「ア、ハイ」
なんか、性格変わったなコイツ。タイミング的には貴族のことを話したときか? 自分の秘密を相手が知っていると、精神的に気楽なものがあるのかもな。
目の前の武器のことを聞かれたが強引に押し通して、カナリアから何を聞いたのかを話した。初めは面を喰らっていたエレンだったが、段々と落ち着きを見せるようになった。
「それでこの態度……」
「納得してくれたようで何よりだ。それで、それを踏まえて、お前たちに提案がある」
「提案、ですか?」
俺は一度深呼吸をしてから、口を開いた。
「お前らに、俺の持つ一部の魂技を教える」
「一部の、魂技……?」
「全部じゃなくてか?」
「そこまで気を許してはいない。だが、俺がこれからする提案に乗るか反るかで、その対応は変わる」
「なるほど……で、その提案とは?」
俺は溜めをつくり、二人の目を見る。
やがて俺は決心し、口を開いた。
「お前たちを、使役させてくれ」
「「……は?」」
二人は揃って素っ頓狂な声を上げたのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。




