003
俺はラット将軍と二人、下水道を歩く。
入ってすぐだか、切実に戻りたい。薄暗く、汚物が散乱し、鼻がネジ曲がるほど強烈な臭い。一分一秒でも早く帰りたい。
俺はそれを意識しないようにしつつ、二人の付近においたネズミと聴覚を共有させる。
「……アイツら、やっぱ貴族だったか」
女の子の会話を盗み聞きするのはどうかと思うが、これで裏切られましたとなれば笑い事では済まない。ある種の情報収集である。悪く思わないでくれ。
「主トアノ方タチノゴ関係ハ? モシヤ奥方?」
「んな訳ないだろ。ビジネスパートナーだよ」
「ビジネス?」
だが……奥方か。魔王様が独身ってのは似合わないよな。そのうち、パートナーが見つかるといいんだが……。
二人の会話だが、意外と収穫が多かった。クラウンについてや、カナリアの鑑定の魔眼がどこまで見えているのか。一番はそれなりに二人に信用されつつあることである。エレンに関しては、一度半殺しにした訳だし。
二人の話を元に色々と考察していると、奥の方からチューチュー、チューチューと騒音が聞こえてきた。どうやら、到着したようである。
『背後から来る奴がいたら言ってくれ』
『ハッ! オ気ヲツケテ』
『ああ』
俺は一度深呼吸をし、騒音の方へと向かう。どうやら、この曲がり角の先のようだ。
俺は一応魔王剣を召喚し、再度深呼吸をする。
俺は覚悟を決め、その場から飛び出した。
「魔王覇気」
先手必勝。俺は角を曲がり、相手を視認する前に魂技【魔王Lv.3】の魔王覇気を発動した。
バタバタと倒れるネズミを見て、一瞬後悔した。そこには、俺が使役したカニバ・ラットの十数倍の数はいるであろう、床壁天井一面ネズミで埋まっていた。
「嘘だろ……」
俺は一瞬たじろぐが、こちらに向かってくるネズミを見て直ぐに立て直した。
「ラット将軍! 全員集めるから指揮を取れ。総力戦だ!」
「ハッ!」
クソ。情報収集を怠った。こんななら、事前にラット将軍に数を聞いておくんだったな。
「魔王覇気!」
魔王覇気を使うと、またもバタバタと倒れるネズミ。だが、魔王覇気の範囲は決まっているため、一定の範囲内のネズミしか倒れることはない。
「クソ。なら、超身体強化!」
魂技【魔王Lv.1】の超身体強化を発動。それも、一切の手加減なしである。あのチンピラと戦うときはこの超身体強化は手加減して使っていた。神様からの事前情報で、超身体強化をフルで使うと、腕を振るだけで辺りに衝撃波を出すほど強くなってしまうため、なるべく控えるように言われたのだ。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。俺は超身体強化で強化された腕を、魔王剣を持って振るう。
すると、辺りには強い風が舞い、多くのネズミたちが悲鳴を上げて吹っ飛んでいった。
「うッ……。いってぇ」
「主! 主ガ呼ンダモノタチガ来マシタ!」
「よし。なら、気絶してる奴らをこっちに連れてこい。使役する。魔王覇気!」
懲りずに向かってくるネズミに魔王覇気を放ちながら、ラット将軍に指示を出す。
現状、今の味方と敵の比率は1:10とそこら。流石に、これでは勝ち目が薄い。ならば、こちらの数を増やせばいいだけだ。
「ほら、もう一丁!」
俺は再度剣を振るう。
その風圧により、再度ネズミが吹っ飛ぶ。
「うぐッ」
「ア、主! 大丈夫デスカ?」
「はぁ、はぁ、問題、ない」
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条件を満たしました。技能【風圧剣Lv.1】、【身体硬化Lv.1】を獲得しました。
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俺の頭のなかに、魂技【使役】のレベルが上がったときの声が響いた。
技能の初ゲットに喜びたいところだが、そんな余裕はない。俺は再度魔王覇気を発動しつつ、後ろで気絶しているラット将軍たちが運んだネズミたちに使役を掛ける。
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
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『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
いくつもの無機質な声が頭に響く。もう慣れたもので、その声には一切驚くことはなかった。
「起きた端から働かせろ!」
「ハハッ!」
俺はラット将軍に指示を出し、ネズミたちへと向き直った。今も尚、カニバ・ラットたちは懸命に気絶したネズミたちを運んでくれている。
改めてネズミたちを見る。始めに比べれば、ネズミの数は遥かに少なくなった。だがそれでも、未だ多いことは変わらない。さてどう攻略するかと考えるが、力業の攻略法しか出てこない。
「魔王覇気!」
近付いたネズミたちを気絶させつつ、肩の調子を確かめる。正直、これ以上剣を振れば肩が壊れそうで怖い。だが、背に腹はかえられない。俺は左手で魔王剣を持ち変え、再度振るった。再び剣は風圧を発し、それにともないネズミたちが吹っ飛んでいった。
「うッ」
「ア、主。大丈夫デスカ?」
「問題、、ない」
左腕だからか、受けるダメージが右腕に比べて多い気がする。だが、文句は言ってられない。
俺は息を上げながらも魔王覇気を発動させる。
暫く戦い、左でもう一度風圧を発した。ほとんど腕が上がらなくなってしまったが、その結果ネズミたちの数は相当減った。残りはカニバ・ラットたちに任せても大丈夫だろう。
俺は下がりながら、ラット将軍へと伝える。
「後は頼む。俺は少し、休むことにする……」
「ハイ。オ疲レ様デシ……主! 前!」
後ろを見ながら歩いていたからか。前から飛び掛かるネズミにまったく気が付かなかった。
ここで咄嗟に魔王覇気を発動させれば助かったのだろうが、咄嗟の出来事に身体が硬直してしまった。
万事休すか。と、俺は諦めた。菌がどれ程早く身体を巡るかは知らないが、あわよくば、神様からの加護でどうにかならないものかと加護に縋る。
「主ィ!」
死に際に陥ると目の前がスローモーションになるというのはアニメの演出でよく見るが、まさかそれを自分で体験するとは思わなかった。
俺の目の前には、ネズミが二匹。俺に飛び掛かるネズミと、俺の背後から飛び出してきたラット将軍だ。それなりに距離があったはずだが、いつの間にここまで来たのか。
「主ニィ、近寄ルナァ!」
ラット将軍は拳?を握り締める。すると、ラット将軍の拳にギュルギュルと「何か」が集まっていき、やがて、それはラット将軍の拳に現れた。
「フンッ!」
「ヂュ」
襲い掛かってきたネズミは断末魔と共にバウンドして吹っ飛んでいった。
「主二近付クナド、百年早イ」
「お、おう……。つか、お前それ…」
ラット将軍の腕に現れたのは紫に光輝くガントレットであった。俺は好奇心に任せ、ラット将軍に鑑定の魔眼を発動させる。
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種族名:カニバ・ラッド
Lv.9
主人:ケルニス
《能力値》
魔力 94/123
攻撃 161
魔攻 23
防御 62
魔防 19
速度 121
《技能》
〔武〕
【噛みつきLv.1】
〔魔〕
【魔力武装Lv.1】
〔技〕
【悪食Lv.2】【補食Lv.2】
【緊急転移Lv.-】
《加護》
【魔王の加護】
《備考》
別名、掃除屋ネズミ。人を襲うことは滅多にない人食いネズミ。基本は住みかへと死体を持ち帰り食べる。個体ごとは弱いが、それ故に集団で行動する。また、人を食べるためなのか体内には人間に有害な病原菌が多くある。
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なんかいかつい技能が増えてるんだが。
レベルが上がっているのも凄いが、それよりも目を引くのが【魔力武装】と【緊急転移】だろう。俺はそれにも鑑定の魔眼を発動させる。
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【魔力武装Lv.1】魔力武装
魔力で鎧を作ることが出来る。
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【緊急転移Lv.-】緊急転移
主人が危険な時のみ発動可能。主人のもとまで転移できる。クールタイムは120時間。
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あの紫のはガントレットじゃなく鎧だったのか。……いや、ガントレットと鎧の篭手は同じなんだっけか? まあ、それはいい。凄いのは下の緊急転移だ。クールタイムがあるとはいえ、この性能は破格である。
「お前、どうしたんだ? その技能」
「オ話ハ後ニシマショウ。私ガ護衛シマスノデ、ドコカ休メル場所へ移動シマショウ」
「……そうだな。頼む」
ラット将軍が先導してくれ、俺は下水道を歩く。
その間、俺は自分に鑑定の魔眼を発動させる。
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本名:ケルニス
年齢:5歳
Lv.21
〔能力値〕
魔力 1.974/3.741
攻撃 1.490(+426)
魔攻 1.156
防御 800
魔防 800
速度 501
《獲得魂技》
【魔王Lv.5】
【使役Lv.2(+426)】
【空間魔法Lv1】
【魔眼Lv.1】
【黒魔法Lv.1】
《技能》
〔武〕
【風圧剣Lv.1】【身体硬化Lv.1】
《加護》
【魔神の加護】
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【風圧剣Lv.1】身体負荷減少
風圧を出したとき身体に掛かる負荷が少なくなる。
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【身体硬化Lv.1】頑丈化
能力値の防御が5%増加される。
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あれ、レベルが上がってる。敵を倒すことが条件じゃないのか。単に戦闘をすることが条件なのかな。
あと、戦闘の最中に何度か使役してたからか、使役している数が凄いことになっている。これでまだ使役してない奴らがいることを考えると凄いことになりそうだ。
技能は文字通りで、【風圧剣Lv.1】はパッシブ、【身体硬化Lv.1】はアクティブのようだ。
やがて歩いた先でラット将軍は止まった。
「ココナラ大丈夫デショウ」
「そうだな」
俺はその場で腰を下ろした。
「それじゃ、聞かせてくれ。なんであんな技能を?」
「ハイ。アレハ、主ト離レテカラ直グデシタ。私ト他ノ同志タチハスグニ戦イマシタ」
「戦ったって……なんで?」
「全ク愚カナモノデス。殆ドノ者タチガ主ノ決メタコトニ反発シ、自分ガ一番デ主ト連絡ヲ取ルト言イ出シマシテ。ソレデ、分カラセテヤッタマデデス。ソノ時二、魔力武装を獲得シマシタ」
「じゃあ、緊急転移は?」
「ソレヲ獲得シタノハツイサッキデス。主ガ襲ワレソウニナッタ時二、咄嗟二」
まさか、俺の決定に反発してくるとは……。俺の指示には否が応でも従うのかと思ったが、そうでもないらしい。まあ、その反発した理由が俺と連絡を取りたいからってのが可愛らしいが。
暫く腕を休ませるためボーッとしていると、ラット将軍が俺のところまでやってきた。
「主。使役ノ準備ガ整イマシタ」
「分かった。今行く」
俺はその場から立ち上がった。
まだ腕は痛むが、今使役しないとネズミたちがまた起きかねない。そうなれば、今度こそ俺はやられてしまうだろう。
正直、もう少し考えてから勝負を挑めばよかった。60以上の手足があり、知っていればこんなにも腕は負傷しなかっただろうし、なんなら勝負を挑まなかったかもしれない。もう少し、情報収集する癖を付けなきゃかもしれない。
先ほどまで戦っていた場所に戻ると、そこには気絶しているネズミの山が三個出来ていた。始めて見た時、大体十数倍かと思ったが、普通にそれ以上いるかもしれない。
それに若干顔を引き連りつつも、俺はその山に使役を掛けた。
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
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『使役に成功しました。カニバ・ラッドが使役モンスターになります』
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条件を満たしました。魂技【使役】のレベルが上がりました。
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またも膨大な数の声が響くが、俺はそれを無視して自身に鑑定の魔眼を発動させる。
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本名:ケルニス
年齢:5歳
Lv.21
〔能力値〕
魔力 2.012/3.741
攻撃 1.787(+723)
魔攻 1.156
防御 800
魔防 800
速度 501
《獲得魂技》
【魔王Lv.5】
【使役Lv.3(+723)】
【空間魔法Lv1】
【魔眼Lv.1】
【黒魔法Lv.1】
《技能》
〔武〕
【風圧剣Lv.1】【身体硬化Lv.1】
《加護》
【魔神の加護】
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723……。大体12倍かエグいなおい。
で、魂技【使役】がLv.3に上がったか。何が出来るようになったのかね。
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【使役Lv.3】飢餓無効
空腹と口渇の状態にならなくなり、栄養不足になることがなくなる。
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えっ……。
……マジ? 強くね?
これから使役する魔物たちの餌を気にしなくていいってことか? それに、栄養不足にならないってのも凄い。身体を作る上で栄養バランスってのは大事だしな。
……でもこれ、俺には効果無いんだよな。そこが惜しい。
驚くのもそこそこにして、俺はラット将軍に向き直る。
「ラット将軍。正直に答えてくれ。これだけ数が増えて、お前一匹で統制がとれるか?」
「……正直、難シイデス」
まあ、そうだよな。俺から見れば65匹の時ですら多いと感じたくらいだし。
「分かった。なら、加護をやるから今日中に七名選出しておいてくれるか? それから、お前たちはなるべくここを拠点にしてくれ。移動する場合は俺に連絡をな」
「分カリマシタ。アア、ソレト武器ヤ鎧ハコチラニ用意シテアリマスノデ。ドウゾ」
「あ、ああ。ありがとう」
気が利くなぁコイツ。
俺は大量に置かれている武器、鎧の山の前に立つ。武器の種類としては7割が剣。その他が槍や弓、杖などが散乱している。鎧は嵩張る分胸当てが多い印象だ。取り敢えず損傷の有無は無視して、魂技【空間魔法Lv.1】の収納空間の中に突っ込む。
「ギリギリ入ったか」
魂技【空間魔法Lv.1】の収納空間に仕舞える物の量は魔力量に比例する。今の収納空間は9割が埋まってしまっている。
「それじゃ、俺は行く。また後で会おう」
「ハイ。デハ、マタ」
俺はその場から踵を返した。
そういえば、あの二人は何を話しているだろうか。総力戦ということで、二人の近くに配置したカニバ・ラットも呼んでしまったため、現状二人の様子が分からない。
まあ、結果的に離れてから一時間も経ってないし、特に変わりはないだろう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。




