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三つの書状

王都セルクラムは北のラピス海へと続くクレイア川の河口部に位置し、河川を跨ぐように街並みが築かれている。河口部には港があるため円環としては閉じていないが王都全域をぐるりと防壁と弓兵用の塔が覆う。それらの手前には堀が張り巡らされ、クレイア川の上流から引かれた水が流れていた。


また、王都内部の水路にも河川から水が引き込まれており、堤防や風車を利用した排水施設のようなものも見受けられる。


(…… 王都になるべくしてなったという事か。ここには命を繋ぐ水源、交易の要たる港、外縁部には人口を養えるだけの広大な耕作地、すべてが揃っている)


目立たないように周囲を魔導騎士たちが囲む中、外套のフードを深く被りながらも俺は王都セルクラムの街並みを眺める。


流血病の影響で外出を控える市民も多いため、王都の人混みは抑えられているのだろう。だが、それでも多くの人々が日々の暮らしを営み、その経済を回していた。


隣を歩くブレイザーも深くフードを被りながら、辺りの様子を注意深く窺う。


(…………… 人族の集落はこんなにデカいのか、厄介じゃねぇか)


その表情を見るに、改めて人族に脅威を感じているようだ。そして、ブレイザーとは対照的に物怖じしない我が妹はくるくるまわる水車を発見して目を輝かせている。


「ワプッ (わぷッ……)」


思わず何かを言いそうになった妹の口をランサーが押さえ、人差し指を口に当てて静かにするようにジェスチャーを送る。事前にエルネスタたちと話し合って、目立たないように入城する手筈になっていたためだ。


ゴメン・ワスレテタヨゥ


てへっという感じで、妹はランサーにハンドサインを送る。


まぁ、極力目立たないようにしているが、王城まで続く広めの通りを移動しているために限界があった。


「魔導騎士たちは目立つからね~」


そう、そもそもエルネスタの第一中隊が目立つのだ! それに加えて俺達が身を隠すために纏っている魔導騎士の外套も無駄にこだわりのある意匠をしている。


深紅の外套に金の刺繍でリアスティーゼ王国の紋章があしらわれていた…… 魔導騎士の外套を纏ったコボルトたちとか、そりゃ気になるだろう。


「なぁ、あれって……」

「……… まさか?」


俺たちに気付いた一部の人々からヒソヒソと声が聞こえるが、放っておいても征嵐の魔女や魔導騎士達に正面から何かを言えるわけでもないので気にしないでおこう。


そう割り切ったところで、頭上を何かの影が過る。


(何だ?)


「クルック~♪」

「おかえりなさい、ハク」


バサバサッ


真っ白い鳩が緩やかに降下してエルネスタの肩に留まった。


『…… そいつは?』


白い鳩を眺めつつ、声を出さずにミスリルの仮面を経由してエルネスタに念話を送る。


「ん?あぁ、ハクのことだね、見ての通り使い魔だよ。君が色々と条件を付けたから、その準備をしてもらえるように伝文を運んでもらっていたの」


「クルッ!」


肩に留まった白い鳩の下に彼女が手を差し出すと、そこにぴょんと飛び移る。


「フェリアス公から聖域認定の書状をもらうように義父へお願いをしたの、後は王都の司祭枢機卿の聖域指定の書状もね……」


『それは直ぐに揃うのか?』


「ん~、都市ウォーレンのフェリアス公へ王の書状を持たせた義父の黒鷹が送られたとして、返事の早馬がもう着いている頃かしら? 司祭枢機卿は王都の大聖堂にいるから、もう話はついていると思うけど……」


どうにもはっきりしない言い方だな……


『俺が交わした誓約は交渉結果を確認し、こちらの提示条件で王が誓いを立てた場合に黒雨の討伐へ協力することだ。もし、状況が異なるならエルネスタとの誓約は消滅するが……』


「うぅ、状況的に不可能じゃない条件だから応じたわけだしね。それでも無理なら、私の読みが浅かったということで潔く諦めるよ」


“誓約書”は誓いを立てた者の意識を利用して、僅かでも反したと認識した瞬間に身体的ペナルティを与える魔法が刻まれた魔導書だ。


だが、何らかの理由により誓約自体が無効であると一点の曇りもなく認識できた場合、魂に刻まれた誓約の魔法は消滅する。


さて、どうなることやら……


……………

………


昼の日差しが射す謁見の間にて、宮廷魔導士長が王に報告をおこなっていた。


「アレクシウス王、今朝方にフェリアス公からの書状が届きました」

「……それは私の意を汲んでくれたものかな?」


「はい、聖域に指定する旨の書状をいただいております。ただし、直接生活に影響を及ぼすヴィエル村の住民たちのみ例外的に森への立ち入りを認める付帯事項付きですが……」


アレクシウスは金糸の髪をかき揚げて少しだけ思案顔になり、さらには相好を崩す。


「ふふっ、元々冒険者以外は近隣の住民しか立ち入らない魔物たちの棲む森だ。つまり、聖域になってもその付帯事項があれば、そこに暮らす者にとっては何も変わらないな」


「…… 妥当なところでしょうな」

「ふむ、その付帯事項について司祭枢機卿はどう思うだろう?」


各国に一名だけ存在する司祭枢機卿は管轄区の一部を聖域指定する教皇代理権を持っている。ゆえにその付帯事項について、枢機卿の物言いがつけば話は進まない。


最初の流血病患者の発生から既に2週間が経つ。流血病の末期となるのは3週間が目安であるが、現状でも体力のない子供や老人を中心に早くも病死者が出始めていた。


その状況での時間的損失は避けたいところだ。


「…… 先ほど確認を済ませましたが、黒雨のアルヴェスタ討伐が成るならば構わないそうです。その際には自身の協力があった事を忘れないようにと念を押されました」


「ふむ、彼は次の教皇でも目指しているのかな?」

「かもしれませんな…… ともかく枢機卿殿からも聖域指定に関する書状を預かりました」


謁見の間に司祭枢機卿の聖域指定書、領主の聖域認定書が集まり、最後に国王の聖域認定書が添えられ、イーステリアの森中部を聖域とするための書状が揃った。


「あとは件の銀色のコボルトが付帯事項を認めるかどうか…… そこが問題だな」


「彼のコボルトたちはヴィエル村を野盗どもから救っておりますので、大丈夫かと思いますが……」


言葉を濁した宮廷魔導士にちょっとだけ嬉しそうにアレクシウスは言う。


「仕方ないな、それを含めて私が銀色のコボルトに会おう」

「………… 単なる好奇心だけではないのですな」


「…… 勿論だ」


こうしてアレクシウス王が風変わりな銀色のコボルトを迎えることは確定したのだった……

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

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