試製の武器は大抵イロモノです
翌日、期待していいと言われたエルネスタ率いる魔導騎士団第一中隊の装備品を見せてもらう。陣地の広場に並べられたそれらには試製装備も含まれており、割と予想の斜め上をいっていた。
「一応、第一を冠している中隊だからね、色々と使ってくれと頼まれるの。好きに選んでもらっていいけど…… これなんかどう? “愛と平和の盾”」
「ワフィ? (何?)」
彼女がアックスに示すのは深緑に金の装飾が施された小楯だ。
相応の魔力を感じるあたり、魔装の類だ。
「グォァルァウ?『どんな効果が?』」
「ん~、確か衝撃を受けるたびに所有者の魔力が尽きるまでヒーリングライトを撒き散らすって、城付のブラックスミスがいってたよ」
無差別かよ……
それでも回復用のアーティファクトとしては価値があるな。
「あと、発動条件に聖属性魔法の資質がいるからね」
ということはアックスが持っていても無意味か…… まてよ? よく考えると、聖属性の資質があれば、初級魔法のヒーリングライトぐらい使えるだろう。
一気に価値が下がったぞ……
「そっちの蒼色の大きいコボルト君は魔法を使えるの?」
「グァ、クァルォ『いや、無理だ』」
「あー、ならこの電磁盾とかも微妙だね、雷撃の魔法を流せば盾が強力な磁力を帯びて鉄を引き付けるのだけど……」
鉄剣は引き付けられても、ミスリルやオリハルコンの武器は非対応になるらしい。まぁ、純ミスリルとか純オリハルコンの武器など見たことないから鉄混じりだろうし、結構幅広く使えそうだが…… そもそも、雷属性魔法の適性がある仲間はいない。
「グルゥ ガルォアァン (僕はこれがいいよ)」
結局、アックスが選んだのは所謂デュエルシールドの一種で、盾の下側が刃の如く尖っている縦長で横に短い取り回しの利く攻防一体の白盾だ。
一方で、ランサーは機械仕掛けの発条構造で長さが伸びる槍とショートソードのような刃が穂先となった槍を見比べていた。
「グルォウァル、ガルォアルォ クルァアルゥ…… ガォッ!!
(突撃に合わせて、穂先が伸びるのは魅力的だけど…… はッ!!)」
開けた空間で彼女は素早く突きを繰り出し、手元の機構を押し込む。
発条の止め金が外れて、槍の穂先がそこから1.5mほど飛び出した。
そこから槍を素早く引こうとするが…… 長くなりすぎて取り回しが利かない。
このバレットスピアと銘打たれた試製飛槍の欠点はそこにある。伸びきった穂先を元に戻すのは戦闘中には隙が大きすぎて不可能だ。
「ワウォアン、グルガォルァ……
(不意は突けても、その後がねぇ……)」
今度は先端の穂先がショートソードのような形状の少々短めの斬撃槍、スラッシュスピアをランサーは手に取る。
「それね、穂先に近い部分を握ると剣のように斬撃ができるの」
そう言いながらエルネスタはランサーの右手を取り、その部分を持たせてその場から下がった。
「ウォアッ!! (せぁッ!!)」
袈裟切りから横一閃の連撃を繰り出した直後に、ランサーはバックステップで距離を取りつつ、槍を前に突き出す。タイミングを合わせて柄を握る右手を緩め、後方に持ち位置をスライドさせ、左手を添えると槍の構えを取る。
さらに、勢いをつけて槍を引くと同時に左手を離し、右手の握りを緩め、柄の持ち位置を前方へとスライドさせると、再び剣戟の構えになる。
「クルァオアーン (これにしようかしら)」
どうやらランサーも決まったようだ。
「グルァ、グルゥクルァオゥ (御頭、俺はこれにするぜ)」
ちゃっかりと既に武装を漁っていたブレイザーは黒塗りのロングソードと何やら絡繰りの付いたガントレットを装備している。
「ガルゥオ?『これは?』」
「それは闇討ち仕様の黒剣と小型の弓付きガントレットね」
ブレイザーが絡繰りを動かすと籠手の一部が左右に開いて間に弦が張られる。それに専用の小型の矢をセットして飛ばすらしい。その鏃には細かい溝が幾つも刻まれていた。
「小型の弓だから威力は無いけど前提として毒矢を使用することになっているから、後でその鏃に絡む粘度の高い麻痺毒の小瓶も付けてあげるね」
…… 何というか、その選択がまさに奴の性格を表しているな。
なお、ダガーはお気に入りのユニコーンの角で作った刺突短剣を装備から外す気は無いらしく、片方の短剣のみ交換するようだ。
「ガゥッ! (えいッ!)」
ガッ
「ゥ~~♪ (~~♪)」
さっきから、何度も発条の力で刃が飛び出す仕組みの機械式短剣を木板に撃ち込んで遊んでいる。まぁ、それにするのだろうな。
さて、俺も選ぶかと思ったところ、エルネスタが自信ありげに中型の弓を持ってくる。その弓の両端には滑車が取り付けられており、複雑な弦の張り方をされていた。
「ふっふ~、リアスティーゼ王国の武器製造部門の最新作、機械弓バロックだよ。その滑車を使った物理的作用で軽く弦を引けるから、より強靭に弦を張ることで飛距離を稼いでいるの」
その形状は多少不格好にも思えるが……
「ウォアオォン ガルァン?『どれくらい飛ぶんだ?』」
「ん~、有効射程で100m以上あるって聞いたけど」
俺はその武器を手に取り、矢を番えて誰もいない森の暗闇に向けながら弦を引くが……
「ワゥ???『ん???』」
通常の弓と異なり、引き始めからいきなり強い反発がある。
「グオゥッ!ッ、オォ!? 『ぐぬぅッ!ッ、おぉ!?』」
再度、力を籠めて弓を引き直すと、反発力のピークを過ぎた瞬間にカクンとなって思わず焦ってしまう。何か言い表せない異質感があるが…… 射撃体勢の維持に必要な力が小さいのは嬉しい。
試し撃ちを済ませないと何とも言えないものの、俺の興味はその歪な弓に魅かれ、それをもらい受けることを決めた。
さらに補助武器として、俺の視線を引きつけて止まない懐かしい片手用の曲刀、シミターがあったので勿論、その装備を指定させてもらう。
なお、防具に関しては敏捷性重視のコボルトには合わない金属製の騎士鎧ばかりだったので遠慮した。
【武装変更】
通称:アックス(雄)
武器:王国兵の戦斧(交換)
武装:デュエルシールド(交換)
通称:ランサー(雌)
武器:スラッシュスピア(主:交換) 機械式短剣(補:交換)
武装:レザーアーマー
通称:ブレイザー(雄)
武器:黒剣(主:交換) 小弓付きガントレット(補:交換)
武装:レザーアーマー
通称:ダガー(雌:妹)
武器:刺突短剣(主) 機械式短剣(補:交換)
武装:レザーアーマー
通称:アーチャー(雄:俺)
武器:機械弓バロック(主:交換) シミター(補:交換)
武装:レザーアーマー
こうして武装を新調した俺たちは、エルネスタの中隊と共に6日ほどの旅程を経て王都セルクラムの門をくぐった。
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