使い道はそれぞれに
天幕は四人用の物が二張り用意されており、体躯のデカいアックスと長身痩躯のブレイザーで一張り、俺とダガー(妹)とランサーでもう一つを使うことにした。
天幕の中は事前に灯されていたカンテラの明りで照らされている。油は…… 匂い的にナタネだな、集落でも植物由来の油を作ったらルクア村への売り物になるか?
「失礼します、夕食を持ってきました」
「ガゥ 『あぁ』」
浅黒い肌の騎士グレンが天幕の入り口から食事の乗ったトレーを差し入れる。その後ろにも二人の従者が同じものを持って控えていた。
そのグレンが腰に吊るした獲物は砂漠の国では一般的な両手持ちの曲刀シャムシールだ。なお、片手持ちの曲刀はシミターと呼ばれる。
(懐かしい形状の武器じゃねぇか…… しかし、中東出身の者がこちら側の国で騎士というのは珍しいな、改宗したのか?)
そこで俺は軽く首を左右に振る。
(ま、人の事情に首を突っ込んでも仕方ない。ちょっと郷愁を誘われただけだ…… あれからどのくらいの時間が経っているのすら分からないが、故郷に一度戻ってみるのもいいのかもな)
「どうかしたのか、弓兵殿?」
「グァ、ガルゥオ…… クルァアン
『いや、何でもない…… いただこう』」
その中東出身と思しきグレンからトレーを受け取り、それを奥に座るダガーに渡す。
「クアォン、キュアン (ありがと、兄ちゃん)」
さらに後ろに控えていた従者たちからもトレーを受け取り、それをランサーに回し、最後に俺も受け取る。
「では、失礼します。何かあれば言ってください」
それだけ言うと、どこか故郷の風を感じさせる騎士は去っていった。
「キュア~ン♪ (うまうま♪)」
視線を戻せば、早くも妹がモフモフの狐しっぽを揺らしながら干し肉に齧りついている。やはり肉からいくのは習性というやつか……
などと思いつつ、俺は硬いパンを手で千切り、豆のスープに浸して少々柔らかくしてから口に放り込む。
「キュウ? (んぅ?) 」
それを見ていた妹も俺を真似る。
そのやり取りは俺たちが幼体だった頃から今も変わらない。
「クルゥ キュア―ンッ!(さらにおいしいよぅ!)」
「クゥ、クゥアルオォン (あら、結構いけるわね)」
ランサーもその食べ方をするようだ。
「…… 邪魔するよッ!」
との言葉と共に天幕へ銀髪碧眼の魔導士が入ってくる。
その手には俺たちと同じトレーが握られていた。
どうやら一緒に飯を食う気らしく、俺の隣に腰を下ろす。
「ガルォウア『どうした?』」
「ん~、多分、私の第一印象は最悪だろうから、一緒にご飯を食べて仲良くなろうとか?」
「…… ウォアオォ『…… 好きにしろ』」
彼女を一瞥しつつ、先程のやり取りについて再考する。
(仮にエルネスタに礼節を以って頼まれていたとしたら…… 恐らく断っていたな、2例目以降の流血病のパンデミックで人以外は感染例がないとしても、もしものリスクが高すぎる)
そうなれば、結局は力尽くになるんだろうな。
だが、様々な要素が絡んでいたとしても、その状況下で最善と思える判断をするのは自身でしかあり得ない。
さっきも力の弱い群れの一部を切り捨てて逃げ出すこともできただろうが、それをせずに協力を誓約し、破った際の対価には視力を提示した。
(あの場で群れから犠牲を出すのは俺の性分に合わないからな……)
全ての生命は例外なく死んで大地に還るだろう? 終着点が同じならば、その過程である生き様が全ての価値を決める。故に己自身をあまり曲げたくはないのだ。
それに命は後生大事にするだけが使い道ではあるまい。
と、考えるのは俺が元傭兵だからだろうか?
食い詰めて傭兵となったにしては、知らずのうちに染まっていたものだな。
食事を取りながらも、無言で思索に耽る俺をミスリルの仮面越しにエルネスタはじーっと見つめる。
「…… 君が思った以上に人らしさを持っているから、自分のやり方に罪悪感が残ってね。困ったことに割り切れない部分があるの。そっちはどうなのさ?」
あざとい上目遣いでこちらを見上げてくるエルネスタを眺めつつ、口に含んだ干し肉を飲み込んでから応じる。
「グルァオオゥ ガォオウ。ガルァオ ウォルグ グァオルァアン
『やるからには尽力する。でなければ斃れる時に無念が残るだけだ』」
「…… 君、男前だね、もし人だったら惚れそうだよ」
暫し、彼女は食事の手を止めて何かを考えた後にわしゃわしゃと自分の頭を掻く。
「うぅ~、余計に心苦しくなるじゃないか…… 供与する武装はとっておきのを出すよ。うちの中隊はリアスティーゼ王国の最精鋭だからその装備品は期待してもいいよ?」
「グウォン ガルォウン『あてにさせてもらう』」
「クァウ グルァ、グルゥガォオオン? (ところでボス、何の話をしているの?)」
「ガゥ、グルゥアオ グォガルァ クルゥオ
『あぁ、何でも良い武装があるらしいぞ』」
「ウォアン グルゥガゥ クルァオン? (これより良い槍もあるのかしら?)」
ランサーは小首を傾げて、立てかけてあるバラックの鍛えた鉄槍を眺める。品質のあまり良くないゴブリンスピアで苦労をした彼女は武装に拘りを見せる傾向があった。
その様子を横目に、この件で仲間たちを無理に付き合わせる事もできないと考える。そもそも、誓約を交わしているのは俺だけだからな。
その辺も踏まえて、色々と考えることは多そうだ……
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