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第十三話:避ける人形のチョコレートケーキ

「……ってな感じで、トレーニングマシンの説明は、こんな所かな?」

「……うむ。シホがいた世界との共通点が多く、面白い考察が出来、実に興味深かった。機会があれば、他のものについても聞いてみたいものだ」

「有り難うございました! よく分からないでいると何か気持ち悪くて。私で分かるものなら、いつでも聞いてください」


 午前の授業がなくなったことで結構な時間が出来、ジムのように揃った機器が整然と並んでいる部屋があると、たまには筋トレも悪くないと思ってしまう。特に面白いのは『避ける人形』だ。


 スイッチに魔力を込めると、スタンディングサンドバッグが人型を成し、こっちの攻撃を避けるという。

 そのレベルも結構な段階があり、兵士達の訓練所では、最高難易度がコンセルさんを参考に作られているそうだ。

 何故、魔王様ランクがないのかというと、普通はコンセルさんランクですら攻撃がかすりもせず、戦意喪失してしまうらしい。

 確かに、腕に覚えのある兵士が訓練で、あまりにも人形に避けられ続けていたら、自分の存在価値について思い悩み、自信喪失してしまうのは当然だろう。……私は菓子作りがメインで、避けられて当たり前な存在だからいいが。


「シホには物足りんであろうと思い、此処の物には私のデータも入れておいた。データは記録出来るよう設定してある故、出来れば見せてもらいたい」

「オレの時のも、データ、貰えると嬉しいな!」


 二人共、何だか変な期待をしているようだ。ここは一つ、擦りもしないデータを渡し、失望してもらうとするか。

 私が画策していると、二人が片眉と口角を上げ、私の肩を叩いた。


「因みに、本気かどうかはデータから分かるんで、半端なデータを作って渡してきても、無駄だからな?」

「模擬戦を経験している。擦りもせん筈は無かろう」

「ぐはっ!! そ、そんな、ゴホッ、ことは、ゲホッ、しないでげすよお? あ! サウナとか、どうやって点けるんですか?!」


 私の表情から、考えていたことが全部漏れてしまっていたようだ。

 私は思わず気管に唾が入り、咳き込みながらその場を誤魔化し、不明な箇所の使用法を教えてもらうことにした。


 大体の使い方を、念の為にメモを取りながら尋ね歩く。

 ほぼ、魔力を込めれば何とかなる仕様だ。分かりやすくて助かった。マニュアル本とか分厚い本が一つに何冊もつく状態だと、完全にお手上げだ。流石異世界、都合がいい……もとい、チートだ。


「後は、転移魔術の部屋を作っておいたが、まだ何処にも登録しておらん。シホの意向を聞こうと思ってな」

「え? やっぱりあの魔法陣、そうなんですか?!」


 何故か、二階の片隅に魔法陣の部屋があり、不思議に思っていたのだ。

 しかし、これ以上動くことをやめて楽をしてしまうと、体型的に色々とヤバい気がする。

 それにしても何というか、使用人にここまでしてくれる雇用主がいるだろうか。


「行かれない所には行かないですし、歩いて行かれるので大丈夫です。有り難うございます」

「うむ。シホならそう言うかと思ったが、念の為にな。何処か思い付いたら、いつでも言え」

「有り難うございます!!」

「……腹部、ヤバいとか言ってたし、確かにシホちゃんは、駆け回ってる方が、らしいよな」

「な?! こ、コンセルさん?!」


 魔王様の気持ちだけ有り難くいただくと、コンセルさんが心に秘めている憂虞ゆうぐえぐるように揶揄からかう。

 焦りを感じていた私は思わず腹部や二の腕をそっと確認すると、今にも吹き出しそうなコンセルさんのすねを蹴り、大袈裟に痛がるコンセルさんの状態を魔王様に告げ口したり巫山戯ふざけながら、二人を見送った。

 だが、何だか帰り際、魔王様の表情が硬かった気がする。


 ……魔王様、大丈夫かな? 説明疲れしたのかな……。


 まさかとは思うが、チョクラを加工している匂いを察知し、我慢していた、とか有り得る気がする。

 私は今日の菓子にチョクラを使うことを決意し、素材作りを再開した。


 何とか石臼で擂り潰すように行う作業を繰り返し、やっとペースト状になってきた。

 それを半分ほど取って砂糖と全乳粉を加えて混ぜ、温かいお湯と冷水につけながら混ぜるのを繰り返す。

 それを型に注ぎ、冷やし固め、その後、冷暗所で熟成させれば、ミルクチョコレートの出来上がりだ。


 残りは布で包み、透明な液体になるまで圧搾していく工程に入る。重力魔術でかなりの荷重を掛けていく。

 人力では不可能なそれは、作業台が潰れないように押さえる力も必要で、結果的に上下から圧力が掛かることになる。

 が、透明な液体になるには、まだ時間が掛かりそうだ。


 私は今日の菓子の下拵えのために、圧搾しているペーストを魔術に掛けたまま棚へ移動させ、厨房に向かった。


 ……魔王様は、お酒の味は好きなんだよな、ザルを超えた枠で酔えないが。

 コンセルさんも菓子の時間は、皆と同じものを食べて感想を述べ合いたいだろうと思い、なるべく避けていたが、魔王様の菓子の量が増える分には、いいのではないだろうか。

 しかし、普段から呑み過ぎていたら逆効果だが、どうだったか。

 食事の時間に呑んではいるが、呑み過ぎという酒量ではない。けれども呑んでいることは確かだ。

 それなら酒の入った菓子を作らずとも、呑みたい時に呑む方がいいかもしれない。

 酒入り菓子の有無は、本人に聞いてから決めよう。


 方向性が決まり、チョクラを潰して砂糖と煮てチョコソースを作る。それを弱火で温めた生クリームに少しずつ加え、艶が出るまで混ぜ合わせてガナッシュを作り、砕いたアーモンドを混ぜる。

 ボウルで卵と砂糖を泡立ててよく混ぜ、溶かしバターを少しずつ加え混ぜ、馴染ませてから、アーモンドプードルに小麦粉とチョクラをパウダー状にしたものを篩いながら入れて混ぜ、それを焼成する。

 焼き上がった生地が冷めたら、横から包丁を入れて三枚に分け、それぞれの間にガナッシュを塗って重ねていく。

 そして全体に、澄ましバターとチョコソースに生クリーム、ココアパウダーと砂糖を熱しながら混ぜて漉した、コーティングチョコを掛けてならせば、チョコレートケーキの出来上がりだ。

 クラッシュアーモンドを脇に、スライスアーモンドを上部枠付近に重ね並べて円を描かせ、出来上がったケーキを冷蔵庫に入れて冷やしておく。


「……ついでだし、作ってみるか」


 果物を煮詰めて作ったソースを数種類取り出し、色を作っていく。

 青鈍色はブルーベリーソースをメインにオレンジソースを垂らし、青みが強いが黒っぽい、少し濁った色にする。水色はブルベリーソースをシロップで薄めて、どうにか作る。黒は色々とソースを混ぜ、緑は薄めたブルーベリーソースに皮ごと煮詰めたレモンソースとオレンジソースを少し加えてみたり、ピンクは皮を剥いて煮詰めた苺もどきのソースを使い、各色、試行錯誤を繰り返し、何とか全色作ることに成功した。


 そしてレモン汁とペクチン、水溶き片栗粉を火に掛けて混ぜていき固まってきたら、パート・ド・フリュイの出来上がりだ。

 固まりきる前に、作った色のソースを混ぜて成形して貼り付け、組み合わせていく。

 先ず、大小の丸を作り、大きい方に黒っぽいソースを混ぜて少し伸ばし、底を平たくし、上に小さい丸をくっつける。これで素体が出来た。


 目の色は、ピックの先にソースを付け、何度か刺して付けていく。パーツを素体にくっつけ、形を整える。

 形作ったゼリー全体に砂糖を塗し、ゼリー人形の完成だ。


 ……服は、全員同じ、黒で誤魔化せるので助かった。


 味見に残った色のないゼリーを囓る。レモン汁を入れたので、爽やかさのある甘いゼリーだ。

 果物のソースも混ぜて味を見、奇怪しくならないよう苦労した。

 完成した人形も冷蔵庫に入れておき、昼食まで部屋で過ごすことにする。

読んでくださり有り難うございます。

感想や評価など、頂けますと嬉しいです。

誤字脱字などのご報告もお待ちしております。


次話は10月22日(火)更新予定です。

よろしくお願いします。

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