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第十二話:シーニュなシュー・スュエドワのトレーニングルーム

 昼食後、私は厨房の調理台の前に立ち、今日の菓子を作り始めた。

 作っておいたサブレ生地をやや薄めに伸ばし、正方形に切っていく。

 シュー生地を太った滴形に絞っていき、その上へサブレ生地を載せて焼き、その他に、細い金型か絞り出し袋を斜めに丸めて尖った先を切り、S字の上部を尖らせるように絞り、その尖りを残るように少し生地を足して頭を作り、白鳥の首と頭を作って焼いていく。


 生クリームに砂糖を加えて泡立て、掻き混ぜて滑らかにしておいたヨーグルトを加えて混ぜて合わせてヨーグルトクリームを作り、他にカスタードクリームも作る。

 焼き上がった生地は丸めの滴型を上から三分の一辺りを切り、切り取った上部を半分に切っておく。

 下部のシュー生地へカスタードをやや少なめに、それを隠すようにヨーグルトクリームを絞り入れる。


 半分に切った上部を羽根のように斜に置き、首をクリームに差し込む。

 半分には白いアイシングを、もう半分はチョクラをチョコソースにしてシュー生地に塗る。白鳥のくちばしは黄色かった気がするので、そこを避けてシュー生地のままにしておく。

 黒鳥の嘴は赤いが、こだわると色々面倒なので、ここまでにしておこう。

 そこへ粉糖を振り掛ければ、シーニュなシュー・スュエドワの完成だ。白と黒の二色で、白鳥と黒鳥だ。


 白鳥を意味するシーニュには、カスタードとホイップを入れるようだ。

 だが折角ヨーグルトが出来たので、連日ではあるが味わい方が異なるし、いいだろう。

 ということで、サブレ生地のついたヨーグルトクリーム入りのシュー・スュエドワにしてみた。シュー・スエドワと発音する、所謂いわゆるクッキーシューだ。


 シュー生地の菓子は、驚くほどに色々あり、特別な日に作られる物も多い。

 それほど洋菓子とは切っても切れない存在だということだろう。


 折角なのでクローシュで隠し、ティートローリーで食堂まで運ぶ。

 テーブルの中央付近まで運び、トローリーの上でクローシュを持ち上げ中を見せると、皆から歓声が沸き上がった。

 皿に取り分けて差し出すと、恐らく部屋で過ごした感想が聞きたいのだろう。魔王様は仄かに染まった頬で私へ視線を向け、咳払いをする。


「本当に素敵な部屋を有り難うございました! ああいう、何処かの部屋と密かに繋がってたりする、スタイリッシュモダンな部屋にずっと憧れてて、ファムルと鬼ごっこまでしちゃいました! 間取り図を見てたら、あそこまで楽しめませんでしたし、本当に感謝しかありません!」


 私が興奮気味に気に入っている状態を伝えると、魔王様は悦に入った表情で甘いチョクラドリンクをすする。


「うむ、それは何よりだ。また欲しいものがあれば、気兼ねなく言うといい」

「これ以上望んだら、罰が当たりそうで怖いですよ!」


 そこまで気に入ると思っていなかったのか、私が思わず部屋の内装や構造などへの感動を告げると、魔王様が嬉しそうに私へ微笑み掛け、傾聴してくれる。


「おーい、シホちゃーん! 会話が弾んでるのに悪いけど、早くその菓子が食いたいなー!」

「ああ! ゴメン! コンセルさんも有り難うね!」


 この後、先生と私は授業がある。菓子が食べられず授業になると、先生の機嫌を損ねて地獄の時間と化してしまう。

 コンセルさんが訴えてくれたのはそのためだろう。実に気が利く人だ。……あ、だから魔王様の側近なのか。

 私はコンセルさんにも部屋の礼を伝え、菓子を配って席に着いた。


「これは……クウー? 首の曲がり方といい、そっくりだな!」

「こんなに可愛らしい形だと、崩すのが勿体ないですね!」

「……うむ。シホは、味もであるが、見栄えすらも上手くなっていくな。料理長が目標とするだけはある」


 目の前に揃う白と黒の鳥形をした菓子に、コンセルさんが白鳥であるクウーという名を上げる。

 一目で分かってもらえたことは元世界ではなかったので、私も器用になった、ということか。

 先生も嬉しいことをいってくれるが、菓子は食べてこそだ。思いっきりかじり付いてほしい。

 魔王様の言葉は、そこまで言うとお世辞にしても過剰すぎるが、上達したことに対する比喩的な褒め言葉として受け取っておこう。

 躊躇ためらう三人に率先し、シュー・スュエドワに齧り付く。


 ザクッとしたサブレ生地とサクッとしたシュー生地の歯応えが、アイシングと共に口の中でほどけていく。

 爽やかさのあるヨーグルトクリームとコクのあるカスタードクリームが口の中で混ざり合い、滑らかな口溶けで甘味を残しながら消えていく。

 私に続き、皆も菓子に齧り付き、感嘆の溜息を吐いていた。



 翌日、朝食を終え、厨房で生地の作り置きを作る。

 パイ生地、タルト生地、クッキー生地など、どの生地もあっという間になくなり、どれだけ菓子を作っているのかを痛感する。

 これで成長していなかったら逆に凄いだろう。

 すると厨房へ、魔王様とコンセルさんが訪れた。


「トレーニングルームの説明をしようと思ったんだけど、今、平気かな?」

「あ、うん……丁度、作り置き用の生地が、作り終わってしまったところだよ……」

「どういう意味だ?」


 生地を密閉して冷蔵庫に仕舞う作業に入っていた私は、コンセルさんの問いに遠回しな返答をすると、その意味を理解した魔王様が怪訝な表情で私に問いただす。


 ……使うかどうかはともかく、使い方が分からないのは気持ち悪いし、お願いするか。


 私は笑顔を作って感謝の言葉を述べ、有り難く使い方を教わることにした。


 三人で新しい部屋へとおもむく。まだ散らかっていない状態で良かった。

 ドアを開け、ロフトの階段で二階へ行き、トレーニングルームの戸を開く。


 ……この、外からも、下の洗面所からも往き来出来るのがツボなんだよなー! キッチンも寝室から行けるよう、寝室内に階段部屋があるのが結構助かるし!


 思わずニヤけそうになる顔に力を入れ、トレーニングルーム内にある、よく分からない器具を一つ一つ確かめる。


「この、床の色が違う場所は、色が違う場所が後ろに進むんで、その場でランニングが出来る魔道具なんだ。手摺にメーターも付いてるだろ? 速度調整や床の角度が変わって、坂道ダッシュも出来る、結構優れモンだ!」

「やっぱり! 何か丁度、人一人走るのにいい幅だけど、床の色が違うのと手摺だけで、どうやるかは分からなかったんだ!」

「ほう? よく分かったな」


 元世界にも、トレッドミル、ルームランナーという名前もあるランニングマシンが、回転するロールの上を走り、機械の前方にある装置で、そのロールに傾斜や回転速度を調節出来る機能があったことを説明する。

 その話に、魔王様とコンセルさんが感嘆して耳をそばだてた。


 他にも、自転車漕ぎのようなフィットネスバイクや、クロストレーナーというハンドルと連動して腕と足を前後に動かす物、階段の上り下りをする効果があるステップマシン、ステアクライマーといった器具など、上げればキリがないほどに多い。


 肩を鍛えるショルダープレスや上腕三頭筋に効くトライセップスエクステンション。上腕三頭筋にはバイセップスカール。

 上半身全体用のチェストプレスや下半身全体に効くレッグプレスに、尻や太股を鍛えるヒップスラストといったストレングスマシン等、色々と調整出来る機能付ウェイトスタックマシンや、負荷の増減が可能なプレートロードマシンがあると説明する。


 ……使えるような場所に行ったことはないが、中学生の時は興味があったので、知識だけは無駄にある。

 因みに私は自重じじゅうトレーニングと、持っている家具や雑誌類などを使い、負荷を加えてアレンジしてやっていたが。

 中学生でハマった筋トレだが、高校生になってからは菓子作り中心の生活に変わって、時々気紛れにやる程度だ。……菓子は、色々とカロリーがヤバいし、特に腹筋とスクワットは欠かせない。……あ、現状、腹がヤバいままだ……。


「やはり、シホの元世界と此方こちらでは、方向性が似ているものが多く見受けられる。何か意味があるのであろうか……?」

「世界を作る神様が沢山いて、偶々たまたま、同じ神様が作った世界だったり、とか?」

「ッッ!! やはり時折垣間見せる、シホの洞察力は凄まじいな……!」


 私としては冗談のつもりで言ったのだが、魔王様から、皮肉なのか何だかよく分からない賞賛のお言葉をたまわってしまう。

 その話題から、魔王様が暫し黙考する。コンセルさんと思わず顔を見合わせるが、魔王様が我に返るのを待つことにし、説明が再開された。

読んでくださり有り難うございます。

感想や評価など、頂けますと嬉しいです。

誤字脱字などのご報告もお待ちしております。


次話は10月18日(金)更新予定です。

よろしくお願いします。

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