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第23話-7:召喚師と召喚されし者2

 黒髪男が口元を綻ばせ、私に少しずつ近付いてくる。


「お前はどんないい表情で泣いてくれるか楽しみで堪んねえな~!」


 勝ち誇った黒髪男に私は捕縛されたまま冷笑を浮かべる。


「……この程度の金属で捕縛出来たとか思う所が浅ましいな」

「……なっ?!」


 私は体の魔力を放出し、粒に向かって金属の破壊を命じる。粒は金属を粉微塵にし、私を束縛する物は跡形もなく消え去った。


「ばッッ馬鹿なッッ?! ウーツ鋼を取り入れた金属だぞ?! そう簡単に壊れる訳が……っっ!!」

「生憎、純正オリハルコンやミスリルを使い慣れてるもんでね。どの程度の力で壊れるか、大体計算出来てんだよ!!」


 魔王様が希少金属の調理器具をくださった為、どんなに魔力を注いでも破壊されず調理が出来便利なのだが、お陰で普通の金属では気を抜くと破損してしまい、細心の注意を払わなければならなくなってしまった。

 とんだ弊害を患ってしまったかと思ったが、こんな所で役に立つとは思わなかった。

 武器を失い、愕然と体を震わせる黒髪男に掌を翳し、魔力を集中させる。


「や、止めてくれえええ!! お、俺は頼まれただけで、本気じゃ……!!」

「……じわじわと甚振って恐怖に染まった顔が見たいと言った口はどれだ?」

「ぎゃッッッ!! ギャアアアアッッッッッ!!! た、助けてくれッッッ!! オフゲイル様ッッッ!!!」


 私は己の趣味に対する反省の促しと拘束の意味を込め、魔力で黒髪男の体中の毛を毟り取る。恐らく召喚師かそこらがあっという間に細胞活性とやらで治せる程度かもしれないが、痛みを味合わせるには丁度良いくらいではないだろうか。

 男は毛を抜かれる痛みに悶絶し、周囲に助けの声を上げる。

 が、召喚師は黒髪男を一瞥し、火花を散らすオレンジ色の魔術を黒髪男に投げ付けた。


「……この見掛け倒しが!! 最早貴様に用はない!」

「うぎゃああああッッッッ……!!!」

「……なっ?!」


 黒髪男の体が、召喚師の魔術によって全身から炎を巻き上げながら黒い炭へと変化させていく。

 燻った煙と、肉や魚とは違う、独特の匂いが周囲に蔓延する。

 強烈な匂いに皆は顔を顰め、召喚師を睨み付けた。

 木炭へと変わり果てた黒髪男を見据え、コンセルさんが言葉を荒らげる。


「……な、何しやがる……!! お前の配下だろ?!」

「……使えない物は捨てる。常識だ」

「な、何と非道な……!! そこに直れ!! 成敗してくれる!!」


 怒りに剣を突き立てるコンセルさんと、焦げ茶男と剣を交えていた玲子が召喚師に向かい、剣を振り上げて走り寄る。


「おっと! お前の相手はオレだ!!」


 しかし焦げ茶男は召喚師の前に立ちはだかり、玲子の剣を己の剣で叩き落とす。

 男はその剣で弧を描くように玲子に切り上げるが、玲子は微かに左へ身を動かし、男の剣を躱すと男の胴に向かって剣を振る。

 男は上体を反らし剣を手前でやり過ごす。しかし直ぐに間合いを詰めた玲子は弧を描いて剣を振り上げ、男の脳天に振り下ろす。

 男は慌てて己の剣を掲げ玲子の攻撃を受け止めるが、剣が両手で支えられており、全身ががら空きだ。

 男の腹目掛けて玲子の蹴りが突き出された。


「……チッ! 世話の焼ける……ッ!」

「させるかっ!!」


 召喚師が玲子の足目掛けて魔術を放つ。

 しかしその術は私が放った魔術により木っ端微塵に砕かれる。

 玲子はそのまま連撃を食らわせ、焦げ茶男の意識を奪う。

 その隙にコンセルさんは召喚師の胸元目掛け、剣を振り下ろした。


「ぐっっ! ……こ、この程度……効かぬわ……!!」


 切り裂かれたローブから真っ赤な液体が滲み出し、白いローブをみるみる赤く染めていく。

 眉間の皺を深く刻みながら召喚師が傷口に手を当てると、出血を伴う傷口が赤黒い瘡蓋で塞がれていく。

 傷は塞げども怒りは収まらない。召喚師は赤く染まったローブを力いっぱい握り締め、こちらへ殺気を帯びた強い眼差しを向けた。


「……貴様ら……!! とことん邪魔をしおって……!!」

「……世界の邪魔をしてるのはアンタでしょ」


 リアレスカさんがコンセルさんを押し退け、召喚師の前に立ちはだかる。

 お互いの前に展開されるのは、膨大な魔力を秘めた魔術。


「その魔力……貰ったゴォ!!」

「次はないのじゃ!!」


 リアレスカさんへ手を伸ばし魔力を奪おうとする毛むくじゃらの男とリアレスカさんの間にプレジアが両手を広げ、仁王立ちする。


「わ、わざわざ魔力をよこすとか……頭おかしいゴォ!」

「次はないといった筈じゃ!!」


 プレジアの身構える体に魔力の粒が覆い始める。

 一粒一粒の光が一層輝きを増し、迫り来る陽炎の魔力を受け止める。

 眩い閃光がプレジアを照らし、プレジアの魔力が7色の光彩を放つ。

 7色の粒が敵の魔力を押し潰し、小さな粒へと変化させていく。


「はああッッッ!!」


 小さく砕かれた魔力は、プレジアの気合を込めた魔力の放出により跡形もなく消え失せた。

 プレジアは眉尻を上げ、したり顔で毛むくじゃらの男に視線を向ける。


「……流石精霊、といった所……ゴォ……!! けれど魔力は他からも手に入るゴォ!!」

「どうぞ、ご勝手に。って言うほどねえけどな!!」

「私も、魔力というものは皆無らしいのでな。奪えるものなら奪ってみるがいい!」


 コンセルさんと玲子が毛むくじゃらの男に向かい、剣を構えて突っ走る。

 向かい来る二人に男が慌てて手を翳し二人の魔力を奪おうとするが、玲子の魔力は本当に皆無らしく、一粒たりとも奪えない。僅かに奪われたコンセルさんは心構えのお陰か顔色一つ変えず、男に向かって真っ直ぐに突き進む。


「だりゃあああっっっ!!!」

「とおおおおおっっっ!!!」


 コンセルさんと玲子の渾身の一撃が男の左肩を切り裂く。

 しかしその剛毛が鉄壁の防御なのか皮膚がオリハルコン製なのか、というほど傷は大した深さに達せず表面を切り裂いたのみだ。

 あれほどの腕前を持つ二人でさえ大した傷を付けられないとは、一体この男は何者なのだろうか。

 その刹那、魔術合戦を繰り広げていたリアレスカさんと召喚士の魔術がお互いに放たれる。

 青白い渦を巻くリアレスカさんの莫大な大きさの魔術に、真っ赤に燃え上がり紅炎を吹き上げる召喚師の膨大な量の術がぶつかり合い、発光する。

 そのエネルギーにより、周囲に突風が吹き荒れ、皆が壁に叩き付けられる。

 硝煙のような焦げ臭い匂いと白煙が部屋を覆い、体が溶けそうな熱量に、固く目を瞑りながら絶え間を待つ。

 煙の隙間から二人の姿が現れ始める。

 双方とも服の至る所が焦げ付き、肌も煤に塗れ、お互いを睨み付けながら肩で息をしている。


「た……たかが封印師風情が生意気な……!!」

「……驕り高ぶってる召喚師にしてはやるわね……!!」


 リアレスカさんと召喚士はお互いの力が拮抗しているのを感じ、相手の隙を探るように思考を巡らす。


「儂を忘れては困るのじゃ!!」


 プレジアの両手から繰り広げられる連撃が召喚師に炸裂する。

 魔力防御効果でもあるのか、召喚師はローブの裾を持ち、どうにか攻撃に耐えているが、苦痛に顔が歪んでいる。

そ こへリアレスカさんが息を切らしながら再び巨大魔術を展開させる。


「お、お前の相手はおでだゴォ!!」

「おっと。俺らも忘れちゃ困るぜ?」


 召喚師に加勢しようと身を翻す男の周囲にコンセルさんと玲子、そして私が立ち塞がる。


「魔力のない雑魚は退くゴォ!!」


 男は丸太のような腕を振り回してコンセルさんと玲子を押し退け、私の前に歩み寄り、不敵な笑みを浮かべて両手を翳す。


「に、人間のくせに精霊以上の魔力とか……おでの餌に打って付けゴォ!」

「生憎、そう簡単に食われるほど柔じゃないんでね」


 男が掌から放った、妖艶に揺れ動く魔力が眼前に迫る。

 少女が珠から放った物とは速度も強度も全く違う事から、一度何かに封じ込めるとその威力が半減されてしまうのだろう。

 だが、私はこの力に屈している場合ではない。

 早くこいつを降参させ、魔王様を回復させるすべを吐かせなければならない。

 私を庇おうと近付くコンセルさんと玲子を手を伸ばして静止させ、私は魔力を注視する。

 魔力の粒一粒一粒に凄まじい力が篭っているのを感じる。

 だが、魔王様やプレジア達ほどではない。


 ……大人しく引っ込んでろや、この雑魚が!!


 私が眼力を込め魔力を睨み付けると、迫力負けしたのか魔力の速度が途端に遅くなる。

 私は目の力を更に強め、魔力の粒を追い詰める。


 ……ついでに、アイツのあの硬さもどうにかしたいな。


 魔力の粒へ脅迫めいた命令を念じると、私に恐れをなしたのか、魔力は男の元へと逃げ去り、男の体に纏わり付く。


「……なっっ!! に、人間如きがおでの力を?!!」

「史帆を人間如きと侮った、貴様の負けだ!!」


 玲子が無礼な発言をしつつ、地面を蹴って男に斬り掛かる。

 コンセルさんも玲子に倣い、苦笑いを浮かべながら男に剣を振り抜く。

 魔力の効果か、男の体は呆気なく切り裂かれ、大量の血液を溢れさせながら地面に倒れ込んだ。


「や、やべっっ!! 殺したら、魔王様の回復方法が……っっ!!」


 コンセルさんが男の元へ跪き、噴出す血を押さえ込みながら周囲を見回す。

 玲子は魔力を殺気と感知し、己の気迫で消し去る能力はあるが、魔力という物は全く内包していない奇妙な生き物だと召喚師に言われたそうだ。

 コンセルさんも生活魔術と少々の火魔術なら何とか出来るが、それ以上の魔術は全くと言っていいほど不可能らしい。

 頼りのプレジアとリアレスカさんは召喚師と戦闘中。

 とても手が離せる状態ではなさそうだ。


「……見よう見真似だから、上手くいく保証はないよ」


 私は男の患部に手を当て、開いた傷口が戻るよう、魔力の粒に命じ始める。

 内臓に達している傷口も、どうにか魔力の粒に細胞の活性化を促し、元の形に戻るよう念じる。

 傷口も小さくなり、出血も大分落ち着いたが、元の出血が多すぎ、プレジアのように周囲から血液を集め、体に戻すとか、そんな器用な事が出来る気がしない。

 私は掌に魔力を集め、召喚師の元へと駆け出した。


「プレジア! 毛むくじゃらの男の治療を頼む! ここは私が引き受けた!!」

「ぬ?! もう少しで追い詰められる所じゃが……致し方ないのう。美味しい所はシホに譲るとするかのう!」


 プレジアの言葉に召喚師へと目を向けると、プレジアとリアレスカさんの猛攻を受けた為か、召喚師の至る所に裂傷や擦過傷、火傷などが見受けられる。

 召喚師は負傷した腕に手を当てながら憎しみに燃え滾る瞳で私を睨み付けた。


「……貴様が……貴様が全ての元凶だ……!! お前が我に逆らわなければこのような事にならなかったものを……っっ!!」

「お前が居丈高な性格じゃなければ、こんな事にならなかったと思うけどな」

「やかましい!! 全て、滅びよッッ!!」

「……来るわ。防御を……!!」


 怒りに震えた召喚師が、負傷していない手をこちらに翳し、魔力を集め始める。

 リアレスカさんは魔力が尽きかけているのか、息荒く両手を前に翳し、光の壁を作り出すが、以前の物よりかなり小さい。

 おまけに服も魔術戦のせいかかなりボロボロで、満身創痍といった風体だ。

 私は左腰に吊り下げていた布袋からクッキーを取り出し、リアレスカさんの口に押し込んだ。

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