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第23話-8:召喚師と召喚されし者と精霊王

 緊迫した空気の中、突然口の中に物を放り込まれ、リアレスカさんは大きく目を見開き、私を見つめながら激しく瞬きをする。

 しかし口に入れたクッキーにより魔力の上昇を感じたのか、リアレスカさんは即座に事態を理解し、クッキーを飲み込み私の布袋に手を伸ばす。


「……ちょっとバター……ギュールが強くて好みじゃないかもだけど、今回は我慢して」

「……確かに……けど、もう二~三個ちょうだい。大分力が戻ってきたわ」

「……貴様ら!! 何をしている?! その魔力上昇値……!! 魔力超回復薬でも使っているのか?!!」


 己の口にも一個、リアレスカさんに二個クッキーを渡し、口に入れながら魔力を集中させていると、召喚師も魔力が限界値まで下がっているのか、悔しそうに私の手元へ視線を送る。


「わっっ我にもよこせッッッ!!!」

「おわっ?!」


 突然現れた旋風に、私の右腰に下げていた布袋が奪われ、召喚師の手元へと運んでいく。


「……ちょっっ!! 敵のくせに狡い事してんじゃないわよ!!」

「泥棒か!! 泥棒に成り下がったか!! 召喚師やめてコソドロとでも名乗れ!!」

「やかましい!! これで我にも力が……っ!!」


 リアレスカさんと私の罵倒にも屈せず、召喚師は布袋を開け、中身のスコーンを一気に貪り食う。

 私は全てのスコーンが召喚師の口の中へ入った事を確かめ、嘲笑を浮かべつつスコーンに覆っていた魔力を開放した。


「……なっっ!! ち、力が……! 力が抜け……!」

「……え? どういう事?!」


 僅かに残っていた魔力すらも失い、召喚師はその場に倒れ込む。

 その様子をリアレスカさんは口元に手を当て、愕然とした表情で眺めている。

 実は、右腰に下げていた布袋は、何かの役に立つかと思い持ってきた、魔力を吸い取る失敗スコーンだ。

 一つ一つを膨大な魔力で覆わないと持っている私の魔力を奪われる為、かなり手間取る上に役に立つかも分からなかったので持っていくか大分迷ったのだが、こうも上手く活用出来るとは思わなかった。

 魔力を失った事で指一つ動かせなくなった召喚師の元にしゃがみ込み、胸倉を掴んで魔王様の回復方法を尋ねる。


「……わ……我は……知らぬ……! 第八大陸……魔王に……何か出来る力など……」

「……とすると、やっぱりあの毛むくじゃらの男ね」


 リアレスカさんと私は召喚師を放置し、男の元へと歩み寄る。

 プレジアの力によってすっかり血の気を取り戻した男は、コンセルさんに剣を突き付けられて尚、頑なに口を割ろうとせず、顔を背けて黙り込んでいた。

 私は男の顎を掴み、眼の中を食い入る様に見つめながら、手の甲で軽く頬を叩く。


「……いい加減喋らないと、爪を一枚ずつ剥がしていこうか? それとも鼻を塞いで大量の水を飲ませ、腹を殴って吐き出させるのを繰り返すほうが好みか? 私としては逆さ吊りにして急落下を繰り返すのも面白いと思うけど?」

「……史帆……発想が恐ろしすぎるぞ……」


 全員が私の提案にドン引きしているが、それを気にしている余裕はない。

 男も私に懇願するように瞳を潤ませている。


「……その辺にしといてくんないかな? まだそいつには利用価値があるんだよね」

「……マリンジ様ゴォ!!」


 不意に背後から声が掛かる。

 銀色の、襟足の長いショートヘアに金と黒の刺繍が入った白い詰め襟を着た中性的な少年風の者――マリンジさんだ。

 何故か敵対している筈の男はマリンジさんの姿に安堵の息を漏らす。

 マリンジさんはゆっくりと部屋の中へ進んでいくと、足元に転がっている召喚師に向かって魔力を放出させた。

 召喚師は瞬く間に青白い炎に燃やし尽くされ、骨すらも残っていない。


「……ま、どうせ殺さなくても、召喚のし過ぎでもう寿命だったし、どうでも良かったんだけど、足元にあると邪魔だしね。まあ、召喚術はそっちの人が奪っちゃったし、最早召喚師でもないけど」

「……召喚のし過ぎで……寿命?」


 マリンジさんの言葉に違和感を感じ、私は即座に聞き返す。

 私を喚び出した召喚師は、顔こそ見えなかったが、肌艶といい声色といい、若いと言ってもいいくらいの年代だったと思われた。

 今回会った召喚師の声は嗄れ、肌も皺に塗れていたが、病気か何かのせいではなかったのだろうか。

 私が周囲を見回すと、コンセルさんもプレジアも、困惑した表情で露骨に顔を反らす。

 そんな周囲の様子にマリンジさんは腹を抱え、大声を上げて笑い出した。


「何? 君だけ何も聞いてないの? 可哀想に。召喚術ってね、寿命を捧げて行使出来る術なんだよ。本人も知らなかったみたいなのが滑稽だよね! あんなに老けこんじゃってさ!」

「……そういうお主も、儂が調べとった資料で知ったくせに、偉そうじゃのう!!」

「五月蠅いな! 誰からの情報なんてどうでもいいじゃないか!」


 訝しげな表情でマリンジさんに近付き、的を射た発言をするプレジアに、マリンジさんは眉を顰め、追い払うように手を動かす。

 しかし、召喚術が寿命を削って行われる術ならば、危険を犯して召喚師から術を奪うような真似をしなくても良かったのではないだろうか。

 私が口元に手を当て考え込んでいると、その内容を把握したのか、コンセルさんがそっと私の肩を叩き、言葉を紡ぐ。


「……召喚師には、まだ四~五回は術を使える寿命があったからな。術を奪わなければ、どんな能力者が召喚されるか分からなかった……リアレスカさんには非道い事を強いたとは思っているよ」

「……生憎、アタシは妖精族の血が強くて地人族より寿命が長いのよ。一回や二回の召喚術じゃ大した変化はないわ」


 コンセルさんとリアレスカさんが私を慰めるように頭を撫でる。

 玲子は話が全く通じず、腕を組んで首を傾げていたが、本懐を思い出したらしく、毛むくじゃらの男を蹴飛ばし、見下しながら言葉を投げ付けた。


「で。魔王様とやらを回復させる方法は何だ? 言わねば指一本ずつ削ぎ落とすぞ」

「ボクが作った魔法だもの、こいつが知ってる訳ないでしょ。てか、いい加減ボクの部下苛めんの、やめてくんない?」

「……マリンジ様……先程から何を仰っているのですか?」


 この館へ現れた時からどうにも態度がおかしいマリンジさんに、コンセルさんは腰に戻した剣の柄に手を掛けながら眉根を寄せる。

 そんなコンセルさんにマリンジさんは人好きのするいい笑顔を見せ、爽やかな声色で言い放った。


「ああ、うん。ボク、人間見捨てる事にしたんだ」


 その場にいた全員が目を剥き、マリンジさんに視線を向ける。

 突然の出来事に放心状態となっていたプレジアは頭を振り、マリンジさんに顔を近付け言及する。


「何を言っとる?! 儂等精霊は人間に頼られんと生きてゆけん!! そのくらい分かっておろう?!」

「そのくらい、君じゃあるまいし考えてるに決まってるだろ。ちゃんと代替の生き物を生産してるトコさ。かなり従順だし、人間みたいに面倒は起こさないし、凄く楽だよ」

「……まさか……生命錬金術師を攫ったのですか……?!」


 コンセルさんが険しい表情でマリンジさんに咎めるような視線を投げる。

 マリンジさんはコンセルさんを一瞥し、毛むくじゃらの男を抱き起こしながら言葉を続けた。


「……大体さ、人間なんて自分の事ばっかでさ、義務も果たさず権利ばかり要求するし。こんな腐った連中に生かされてたのかと思うと反吐が出るんだよね。……特に異世界人! それに肩入れする連中も!」


 マリンジさんは憎しみの篭った視線を私に向ける。

 その殺気につい私も視線を返し、火花を散らしてしまうが、コンセルさんがマリンジさんと私の間に入り、マリンジさんへ更に疑問をぶつける。


「……その男も、異世界人だと聞いてましたが?」

「それがね、元々こいつはこの世界の魔物でさ。召喚術で異世界の物と合体して人間に近い能力とあの力を手に入れたって訳さ。……召喚師が知ってたかは知らないけど。……何時だったかな? 初めて会った時に痛め付けてやったらすっかりボクをボスだと思っちゃってね。こいつの能力は不愉快極まりないけど、コツさえ掴めば魔力を奪われないし、ボクの命令は絶対だし、手駒として上手く使えそうだしね……問題は君だよ」


 厭悪に満ちた視線からコンセルさんが私を庇い、私の前に立ちはだかる。

 私からすれば玲子の力のほうが精霊にとって、よっぽど危険極まりないと思うのだが、何故私なのだろうか。

 コンセルさんの背中越しに、マリンジさんの恨みがましい声が聞こえてくる。


「……サジェスもサジェスだよ……!! こんな異世界人に肩入れするから自分が魔法被っちゃうんだ……!! 庇わなければ死んでたのはこいつなのに!!」


 やはり狙いは私だったのか。

 あの時私が魔王様に助けを求めなければ魔王様は何事もなく日々を暮らしていけただろう。自責の念に駆られる私の頭に、コンセルさんとプレジア、それにリアレスカさんと玲子の手が載せられる。


「……それで……その魔法の解除方法は……?」

「勿論、ボクなら可能だ。けど、それには交換条件がある」


 マリンジさんが毛むくじゃらの男を抱え、宙に浮かぶ。

 逃げ出すのかと思い手を伸ばそうとするが、体が動かない。

 コンセルさん達もいつの間にかマリンジさんに魔法を掛けられたのか、体が動かせず、顔を苦痛に歪めている。


「異世界人、キミ、死んで」

「なっっ?!」


 真っ直ぐに私を見据えるマリンジさんに、みんなの顔面が蒼白し、マリンジさんと私の顔を交互に見つめる。

 マリンジさんは柔らかい笑みを浮かべ、私に諭すように呟いた。


「キミが死んだら、サジェスを治してあげる。なるべくならサジェスが死んじゃう前に実行して欲しいけど……でも……」


 マリンジさんは軽い溜め息を吐き、柔らかな笑みを凍り付かせて空を仰ぐ。


「……異世界人に肩入れするサジェスは見限りだしてるけどね」


 突如冷たさが走ったマリンジさんの瞳に、背筋に冷たい物が流れていく。

 マリンジさんは目の前に立ちはだかっていたコンセルさんの肩を押し退け、宙に浮きながら飛び立っていった。

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