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第20話-4:罠と虫

※虫が苦手な方はご注意ください。

 テーブルがミシミシと音を立て、壁からの圧力により端を崩壊させていく。

 天井を見上げた私は何か違和感を感じ、激しい振動の中、その違和感の実体を探求する。


「……プレジア!! あれじゃないか?!」


 私はプレジアに声を掛け、天井の一部を指し示す。

 体を震わせていたプレジアは、私の声で我に返り、私が指差す方へと顔を向ける。

 特に何もない、正方形の薄い石のような物体が並んだその天井は、全体が光を帯びている。

 その中の一枚だけ、ほんの僅かに他より強い光を発する箇所がある。

 私の指差す所を確認出来たプレジアは、笑みを浮かべて天井に手を伸ばした。


「あ! あれか!! じゃがしかし……と、届かんのじゃ!」

「プレジア、私の肩に!!」


 テーブルは少しずつ身を削られ、全身にまでヒビを行き渡らせており、いつ弾け飛んでもおかしくない。

 最早、一刻の猶予もない状況だ。

 私は急いでプレジアを肩に乗せ、肩の上に立ち上がらせて天井を調べてもらう。

 これで別の部屋に繋がる何かが現れなければ、私達は終わりだろう。

 生唾を飲み込み、プレジアが天井に手を触れる。

 その瞬間、振動が変化し、近付いてくる轟きが小さくなり壁は動きを静止させる。

 そして遠離とおざかる地響きと共に、暖炉の中には奥へと続く横穴が現われた。


「……危機一髪じゃったな」

「ホント、もう駄目かと思ったよ……」


 プレジアと深い溜息を吐き、その場に蹲る。

 と同時に、テーブルは負荷に耐えきれなかったのか、激しい轟音を立ててその身を崩壊させた。


「おわあ?!」

「気を付けて。破片が危ないし、先に進もう」


 いきなり足場を失い、プレジアは叫声を上げて床に尻餅をつく。

 私はプレジアを腕で掬い上げ、暖炉の中へと促した。




「……此処が終点のようじゃな」


 真っ暗な空間を匍匐前進で進むと、どうやら扉のようなもので塞がれているらしい。

 プレジアが前面を押し広げると、十畳ほどの書斎のような空間が広がっていた。

 本棚の下段に繋がっていた横穴から這い出し、私は辺りを見回す。

 屋根の高い空間は、天井まで届く梯子の付いた本棚で埋め尽くされている。

 壁の一角は簡素な机が設置され、その上部にも本棚が設置されており、本棚に入りきらなかったのか、机の上やその周辺にも本が山積みにされている。


「ふおおお!! やっと見つけたのじゃ!!」


 プレジアは目を輝かせながら手当たり次第に本を眺めていく。

 私は、膨大な量の本を見回し、眉尻を下げながら軽く溜息を吐いた。


「こんな量の本読むとか、勉強熱心だったんだね……」


 勉強嫌いな人間としては、少々身の置き所がない空間だ。

 勉強家であっただろう精霊を思い、苦笑しながら呟くと、プレジアは物凄い早さで本のページを捲り、次々と漁っていく。


 ……精霊は皆、勤勉な本好きか?


 私は言葉を噤み、大人しく周囲を物色することにした。


「……なるほど! これとこれを組み合わせおったか……! なかなかやるのう!」


 プレジアの独り言が静かな空間に響き渡る。


 ……もう何かを見つけたのか。


 私には、何がどんな内容なのかさっぱり分からないので、手伝いようがない。

 興奮して呟くプレジアを邪魔しないよう、私はゆっくりと忍び足で部屋の中を彷徨う。


「……何?! 生活魔術で集めたゴミを燃やし、そのエネルギーを生活魔術の足しにするじゃと?! 何という効率化じゃ……!!」

「何の話だよ?!」


 てっきり召喚術の調べが進んでいるのかと思えば、いつの間にかリサイクル&エコロジーの話になっており、プレジアは部屋の掃除方法で驚嘆し、本を強く握り締め、体を震わせている。

 私はプレジアを振り返り、頬を引き攣らせながら横道に逸れていることを指摘した。


「い、いや、ちゃんと召喚術に関する事例じゃぞ? 転移の発展系が召喚じゃし……」

「……はいはい。ちゃんと探そうね……ん?」


 私は呆れながらも探索を再開する。

 不意に机へ目を向けると、そこには本とは違う背表紙の物が置かれている。

 よく見ると似たような背表紙が机には溢れており、その中身には手書きと思われるミミズ文字がびっしりと書かれている。


「……プレジア。これノートみたいだけど、研究用かな?」

「ほう? どれじゃ?」


 私の声にプレジアは本を置いて机に近付き、素早くノートに目を通していく。

 数冊目に突入し、プレジアはその中身に目を見開きノートに顔を近付ける。


「!! 此れじゃ!! 召喚術の理論のようじゃ!!」

「おお!!」


 どうやら無事、目的の物を見つけたようだ。

 念の為、他のノートにも目を通すプレジアの嬉々とした表情に笑みを漏らすと、目端に暗い闇がよぎる。

 訝しんで天井に顔を向けると、そこには数匹の黒い物体が蠢いていた。

 黒い光の粒が天井に集まり、黒い物体を形成していく。

 その数は天井を覆い尽くさんとしており、部屋は闇に閉ざされ始める。


「をわあっっ?!」

「ん? 何じゃ……? ……うわああああああああっっっ!!!」


 黒い虫は拳ほどの大きさで、甲殻類の体に八本の長い足を擡げ、天井を移動している。

 その驚異に、私は思わず叫声を上げる。

 私の声にプレジアも驚きの声を上げ、訝しげに私の視線先へと顔を動かす。

 その視界に映る顔に、プレジアは毛を逆立てて悲鳴を上げ、両手を天井に掲げた。


「……は! しもうた! 魔法が発動せんのじゃった……!!」

「うわあ……最悪だあ……」


 プレジアはどうやら炎の魔法で一掃しようとしたらしいが、前の部屋と同じく、ここも魔法が発動出来ないらしい。

 ということは、これは物理攻撃で排除せねばならない、というわけで……。


「……プレジア、目当ての物だけ持って、空間移動で逃げちゃった方がいいんじゃ?」

「それが……あの虫から妨害念波が出ておるようで、使えんのじゃ……!」


 前の部屋は罠発動中、今回は虫出現中に、移動魔法すら制限されるようだ。

 この部屋に訪れた時は確かに気配がしなかった。恐らく私達がこの部屋に侵入した際に、何らかの条件下で虫が出現したのだろう。


 ……それだとここの住人は、あの虫が出現している最中、どうやって移動してるんだ? てか、虫が蠢く中で読書とかすんのか……?!


 若干混乱状態で思考を巡らせていると、虫が己の口から糸を垂らし、こちらに近付いてくる。


「……プレジア! 前の部屋に戻って術が使えるか試してきて! 通路は私が確保しておく!」

「わ、分かったのじゃ!」


 私は背中の剣を構え、プレジアを通路に逃がす。

 すると、虫が糸を動かしこちらに向かってくる。

 私は剣を振り回し、虫を床に叩き付けていった。


「……くっ!!」


 しかし、あまりの数に捌ききれる気がしない。

 しかも虫は、未だ天井で黒い魔力を結集させ、ますます数を増やしていく。

 私は額の汗を拭う暇もなく剣を振り回した。


「駄目じゃ! やはり妨害念波が向こうまで行っておるようじゃ!」

「……そっか、全部倒さないと駄目か」


 戻ってきたプレジアの声に、私は剣を振り回しながら軽く溜息を吐く。

 プレジアも背中の剣を構え応戦するが、徐々に奪われていく体力に息を切らし、悲憤の声を上げた。


「……炎の魔法さえ使えておれば、このような雑魚! 物ともせんのじゃが!!」

「……だね。出来れば増えていくのだけでも何とか出来れば……」


 天井で虫を作り上げる黒い粒も、恐らく魔力なのだろう。

 虫を作らせないよう何とか操作出来ればいいのだが、黒い魔力には防御システムの強い意志が働いているのか、こちらの命令を拒絶して上手く操作出来ない。


 ……他に魔力……そうか!!


 私は妙案を思い付き、虫に固定させていた視線をプレジアの腰にある菓子袋に向け、プレジアに言葉を投げ掛ける。


「プレジア、持ってきた菓子の魔力を使って何か出来ないかな?!」

「なるほど!! シホの菓子には魔力があったのじゃった!! ……いやしかし、魔法を使わずに魔力操作は……」

「……え?! ……魔法なんて使ってたっけ?」


 プレジアが私の案に目を輝かせて賛同するが、直ぐにその光を失い、項垂れながら言葉を紡ぐ。

 その言葉に驚愕し、私は目を瞠ってプレジアを見つめる。


 ……魔法を使わないと魔力操作出来ないとか、初耳だ。てか、私、操作に魔法、使ってたっけ?


 私が己の行動を思い返すために頭を悩ませていると、プレジアは目を輝かせて私に菓子を差し出した。


「流石シホじゃ! では、頼んだのじゃ!!」

「……分かった。やってみるけど……駄目だったらゴメン」


 私は額の汗を拭い、菓子の魔力を確認する。

 袋の菓子は今までの騒動のため、かなり細かくなっているが、作り上げた時より少し魔力の粒が増えている気がする。


 ……あれ? そういえば、魔王様に、私が見えている魔力の粒は一部じゃないか、とかいわれてたっけ……


 私が見えている魔力の粒は、どうやら割と表面の一部に限定されているらしい。

 固形の奥の方にある魔力の粒は表面の粒に邪魔され、視界に入り難く、そのために動かし辛いようだ。

 私は砕けた菓子でそれを思い出し、虫の攻撃を避けながら菓子ごと袋を揉み、菓子を細かく砕く。


 ……まずは、動かせるか試さないと。


 私は菓子に漂う魔力の粒へ軽い要望を出す。

 粒は念じた通りに動きを変え、再び浮遊し始めた。


 ……よし、いける!!


「おりゃっっ!!」


 天井目掛け、袋の中身をち撒く。

 小さく赤味を帯びた魔力の粒が輝きを放ち、部屋を取り巻いていく。


 ……その身を膨らませ、激しく動き回れ!!


 私は先生の繰り出した火の魔術からその動きを再現させ、粒に炎を起こさせる。

 跳び回り始めた粒から火花が飛び散り始め、周囲に飛び火していく。

 小さな火が重なり合い、巨大な炎を作り上げ、瞬く間に虫達は炎に包まれていった。


「おお!! 流石シホじゃ!!」


 現れた炎に、プレジアが感嘆の声を上げる。

 炎は更に勢いを増し、黒煙と異臭を撒き散らしながら本棚や天井を巻き込み、その外に虹色とも白黒ともつかない空間を露わにしていく。


「この空間に入ってはいかんぞ!! 手順を踏んで入らねば瞬時に何処ぞへと転送されてしまうのじゃ!! それよりシホ、そろそろ炎を消さんか?!」

「そ、それが……どうやって消せばいいのか……プレジア、移動魔法は?!」

「まだ生きておる虫がおるらしく……発動出来んのじゃ!!」


 私は慌てて粒に水になる手段を命じるが、粒が生じた炎は既に周囲を燃やすことでその力を失ったのか、私が炎に命じても動く気配すらない。

 プレジアも空間へ両手を翳し、懸命に移動魔法を発動しようとしているのだが、まだ虫が焼き殺し切れておらず、妨害念波が途絶えていないようだ。

 激しい煙と匂いに目も開けていられず、私とプレジアは口元を覆いながらその場にしゃがみ込んだ。


「ゴホッッ……こ、此れだけは死守せねば……ゴホッ!!」


 燃え盛る炎の海で、プレジアがやっと見つけたノートを懐に抱え、意識を失い、蹲る。


 ……ゴメン、プレジア! 私のせいで……!!


 私は己の体をプレジアの体に重ね、その身を焼かれながら炎への命令を続けた。

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