表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/114

第12話後編:敵襲のシガル大群とキャラメリゼ

 城の外に出ると、無数の白い竹のような奇妙な物体が根っこを駆使し、城の方へと進んでくる。

 竹の中央辺りには目玉が二つ、側面から飛び出しており、その直ぐ下の節を開閉させることで奇声を発し、前進していた。


「プギャアアア!!!」


 シガルが声を上げて己の体をくねらせ、側にいた人間を薙ぎ払う。

 弧を描くその動きはしなやかで、その動きを駆使しながら敵からの攻撃をも器用に躱している。


「とああああっっ!!」

「うおりゃああああっっ!!」


 聞き慣れた声に目を向けると、シロップおじさんや少年が己の手にしている武器でシガルの身を切り裂いている。

 切り裂かれたシガルは目玉と口を失い、その場に倒れたまま動かなくなった。

 なかなか手慣れた剣捌きだが、シガルの柔軟な動きは見切れないようで、何度か空振りをしている。


「……ぐっ!!」


 不意に少年から鈍い音と共に息を詰まらせたような声が聞こえる。

 シガルの攻撃を受けてしまったのか、空に浮かんだ少年は体を捩らせ地面に叩き付けられた。


「少年!」


 私はシガルを剣で払い除けながら少年の元に駆け寄る。

 唇から微かに血が出ているが、骨や内臓に異常はなさそうだ。

 少年は己の剣で身を起こし、戦闘態勢を取り直した。


「……シャムシールか、随分いい武器持ってんじゃねーか……」

「そうなんだ? ファムルに借りたんだけど、ちょっと使い辛いかな」


 湾曲した片刃の刀身は、木刀や竹刀など真っ直ぐな武器を見慣れた日本人の私には些か使い難い。

 日本刀でちょっと湾曲しているものもあるが、少なくとも私はあまりお目に掛かれる機会がなかった。

 切ろうと思う感覚より若干先にくる手応えが、何とも違和感を感じて肝を冷やす。

 迫り来るシガルを切り裂きながら会話する私に、少年は開いた口を閉じようともせず、私を凝視していた。


「……全然使い辛そうに見えねーよ……寧ろ誂えたかのように使い熟してんじゃねーか……」

「それより少年、一体何でシガルが迫ってくるんだ?」

「少年じゃねえ! スアンピだっつってんだろぉが!! ……この大陸の端にあるシガル畑から逃げ出してきたらしいぜ……ッ! 魔王様はシガル食いだからな、余所から買い取ってたんじゃ間に合わねえ……!」


 少年……スアンピがシガルを斬り倒しながら喚き、私に説明をする。

 何でも大陸の端にある大きな建物では、日夜シガルが栽培、加工されているそうだ。

 本来なら春に収穫出来るシガルは、建物の中で区分して魔力で季節を違えさせ、年中収穫可能にしているらしい。

 最近でこそ、城の住人も砂糖を食べる機会が増えたが、今までの殆どは魔王様のためだけに作られていたようだ。

 そこで、一つの考えが私の脳に浮かぶ。


 唯でさえ動き回れるのだし、シガルが自分達を食らう者を退治しようと考えた、ということもあるんでは……?


 シガルを倒しながらスアンピにその旨を話すと、スアンピも顎に手を置き、暫し思案に暮れる。


 ……考えるのはいいが、手を休めるな?!


「……なくは、ない、かもな……」

「……そうなると、私も同罪かな」


 魔王様が砂糖を貪り食う手助けを一番しているのは、菓子を作っている私ではないだろうか。

 私が砂糖を使うことにより、魔王城での砂糖消費量は今までの比じゃないとも聞いている。


「それはあるかもしんね……うを?!」


 少年との会話を聞いていたのか、余所に攻撃を向けていたシガル達が一斉にこちらを向き、突進してくる。

 その様子にスアンピは、両手で剣を抱えて後退りをする。

 しかしその後方にも既にシガル達が集まっており、シガルの攻撃がスアンピに襲い掛かる。

 私はスアンピの体を左腕で後退させ、右手に握った剣でシガルの攻撃を払い除けた。

 その反動を使い円を描いて次に攻撃してきたシガルの体を両断し、そのまま回し蹴りで迫り来るシガルを蹴り倒す。


 ……やはり慣れない武器よりは無手の方が攻撃が当てやすいな。


 しかしシガルの体は結構硬い。

 無手では渾身の一撃を入れないとシガルの意識を奪うまでには至らず、直ぐ復活してしまう。


「き、キリねーよシホ!! 俺、生活魔術以外はまだ魔術使えねーんだよ……!」

「……そうか! 術なら或いは……『我らが力よ、その小さき力で風を起こせ』!」


 スアンピの言葉に私は微風魔術を放つ。

 そよそよと小さな風が辺りを漂い、髪を数本動かしている。


「そんなちっちゃいんじゃ無理だろーが!!」

「……分かってるよ!」


 風を作る光の粒に集中し、粒を素早く動かしてみる。

 粒と粒の感覚が大きくなり、その風は徐々に大きさを増すが、まだまだ力が足りない。

 この光の粒がもっと多ければ……!


「……少ないなら、増やせばいい……!」


 私は光の一粒に集中し、その粒を分断するよう意識する。

 光の粒は上手く分裂し、その数を増していく。

 増えていく光の粒を大きく動かし、周囲を旋回させる。

 風の動きはつむじ風から竜巻へと拡大し始めた。


「……う、うわわわ……っっ!!」

「しっかり私に捕まってろ!!」


 体を風に巻き込まれそうになる少年の体を掴み、己の体へと引き寄せる。

 竜巻に周囲のシガルを飲み込ませ、そのまま上昇させ、上空で風を消し去る。

 シガルはそのまま落下して地面に叩き付けられ、目玉と口を失い、動きを制止させた。

 周囲のシガルは一掃出来たが、遠くからシガルがドンドンと押し寄せ、キリがない。


「……スゲーな、シホちゃん! ……そこまでやると思わなかったな!」


 遠くから、シガルを斬り倒しながらコンセルさんが歩み寄ってくる。


「けど、正直キリがなくて面倒臭いよ。然も狙われてるっぽいし」

「確かに狙われてるよな。……どうしたんだ? 何かあったのか?」


 私は近寄ってくるシガルを斬り付けながら軽く溜息を吐き、スアンピと話していた憶測を、コンセルさんにもしてみる。

 コンセルさんは振り返りもせずに、近寄ってくるシガルを小さな動きで切り裂きつつ、軽く目を瞠って私に笑みを向けた。


「……なるほど。そのくらいの知恵はあるかもな。……けど、そろそろ終了するぞ」

「へ? 何で……」

「シホ! これで防げ!」


 突如、遥か上空から魔王様の声が聞こえる。

 その声のする方角へ顔を動かすと、赤みを帯びた金属の輝きを放つボウルが、私目掛けて飛んできた。

 ずっしりと重量感のあるそれは安定性がありそうで、ハンドミキサーを使う時に重宝しそうだ。


 ……って、これで攻撃をどう防げと?!


「それはオリハルコン製だ! 殆どの攻撃はそれで防げる!」


 なるほど、オリハルコン製ならボウルでも攻撃を受け止められる……って!!

 あのファンタジーの王道、伝説的金属で有名なオリハルコンか!?

 そんなものでボウルを作って、菓子を何処に向かわせるつもりなんだ、魔王様は?!

 ボウルを手に思案に暮れていると、魔王様がいた上空から目映い光が放たれる。

 魔王様を包む光は次第に大きくなり、その周囲を稲光のようなものが発生している。

 と同時に稲光が、凄まじい音を立てて地面に落下する。

 地面を這うように広がる稲光は着実にシガルだけを襲い、その力でシガルを昏倒させた。


「……何だ、この力……チート過ぎだろ……」

「……チート? よく分からないけど魔王様は無詠唱でここまでの威力が出せるから凄いよな」


 私が驚きのあまりに思わず呟くと、コンセルさんは魔王様への讃美に満ちた微笑みで上空を見上げたまま返事を返してくる。

 少年は偉大すぎる力の前に腰を抜かし、私の足元に縋り付いていた。


「……無事だったか。いや、シホには愚問だったな」

「……どういう意味でしょうか?」


 魔王様がゆっくりと上空から下りてくる。

 魔王様までも、コンセルさんのように何やら誤解している節がある。

 その辺は、きっちり話し合いをしなければならないだろう。

 私の視線に何やら魔王様は心許なさそうに眉尻を下げ、辺りを窺っている。


「……魔王様を睨んでますが、何か?」

「……いや、すまない。無事で良かった」


 漸くまともな言葉を聞けた私は、魔王様に満面の笑みを向けた。


「助けて下さって有り難うございます」

「ん? ん、ああ……仕事で少々疲れたな、何か甘い物を食したい」


 そういえば魔王様は、仕事で出掛けてたんだった。

 帰って早々、魔術ぶっ放すとか、それは疲れもするだろう。


「分かりました。直ぐに何か菓子を作りますよ」


 私は城に戻る途中でシロップおじさんを捕まえ、厨房で余ったパンを譲ってもらう。

 それを一センチ角くらいに切っておき、鍋に砂糖と水を入れて弱火で煮詰める。

 切った食パンと粗く刻んだナッツ、アーモンドを加えて茶色く色付くまで混ぜ、バターを加えて更に混ぜる。

 それを皿に載せ、少し渇かしたら、ナッツと食パンのキャラメリゼの完成だ。

 ちなみに飴色玉葱のことも、オニオン・キャラメリゼというらしい。

 砂糖を使うかというより、火で煮詰めた色を表す言葉なのだろうか。


「もうすぐ夕飯らしいので、ちょっとだけですよ」

「固いことをいうな!」


 器に盛ったキャラメリゼを口に入れた魔王様が頬を染め上げながら溜息を吐く。


 シガル事件は、シガルの大量生産により討伐が間に合わず、建物内の人々を昏倒させたシガルが自分の仲間を食い荒らす者を倒すべく、城に乗り込んできたそうだ。

 結局、魔王様の魔力により、全てのシガルの知能を封印することで暴走はなくなったらしい。

 もしかして知恵があるから食べ辛くて、砂糖があまり普及しないのだろうか。

 しかし、知恵があるから駄目、ないから良い、という考えもおかしいしな……

 不意に魔王様に視線を動かすと、魔王様は気にする風もなく悦に入った表情でキャラメリゼを口に運んでいる。


 ……うん、考えたら負けだ。


 私はキャラメリゼを摘み、口に放り込んだ。


「……生き返った気分だな」

「確かに運動後の甘い物は格別ですよね!」

「運動って……俺、結構マジで戦ってたのに……あ、コレ美味ッ! どうやって作るんだ?!」

「またスアンピ君は! 自分で見て盗まなきゃ、でしょ?!」

「はい、ファムル様! ……シホ、見て盗むから直ぐ作れ!!」

「……これ、スアンピ!! すみませんね、シホさん……ほお、ギュールが入ってるんですね。これはいいツマミになりますね!」


 食堂では、魔王様とコンセルさん、スアンピとファムルにシロップおじさんが、キャラメリゼを摘んでいる。

 その手の伸びるスピードの早さに魔王様が面食らいながら、皿に伸ばされる腕とキャラメリゼを交互に眺めている。


「ちょ……ちょっとは躊躇え?! これはシホが私のためにわざわざ作ってくれた菓子だぞ?!」

「まあまあ、もうすぐ夕飯ですし。みんなでちょっとずつ食べましょうや」

「賛成!!」


 魔王様の抗議を私が宥めるように反論すると、皆が私に賛同して手を挙げる。

 その様子に魔王様は項垂れ、そのまま無言でキャラメリゼを貪り食い始めた。


「しかし、何か足りない気がすんだけど……シホちゃん、分かる?」

「は? 何で私が…………っ!!」


 コンセルさんの言葉に私がキャラメリゼを口に運びながら何気なく答えていると、食堂の扉から異様な空気が漂い始める。


「……楽 し そ う で す ね ……」


 ピンク色の長い髪を揺らし、顔の上半分が闇で覆われており、口元だけにこやかな笑みを浮かべる、女性の姿が現れた。


 ……せ、先生のこと忘れてたああああっっっ!!


「……何時戻ってくるか、何時戻ってくるかと思いながらシガル討伐にも出られず、只管ひたすらシホさんの部屋で待っていた私に何という仕打ちでしょうか……ねえ、シホさん?」

「す、すすすみみまままませせんんっっっ!!」

「す、すいません先生、俺がシホちゃんにシガル討伐をお願いしてしまって……」

「そうですね、コンセル様も同罪です。……そして……」


 私を庇うコンセルさんをもあっさりと同罪にした先生は、魔王様へと視線を動かす。


「……わ、私は仕事で出ていただけで、何も……」

「……菓子作りを頼みましたよね……シホさんの勉強時間は魔王様が決めたはずですのに……」

「いや…………す、すまない……」


 魔王様は謝罪を述べ、先生から視線を反らす。

 先生の髪が何故か横に広がり、幾つもの髪束は、蛇か何かのようにクネクネと動いている。

 闇で覆われた顔の上部は瞳の部分だけ緑色の光を放ち、笑みを浮かべた口元は何故か徐々に口角が上がり、鋭い三日月形を模していた。


「……そして……菓子を全部食べちゃった皆さんも同罪だと、私は思うんです……美味しかったですか、菓子……美味しかったですよねえ……」

「っっひいいいいいい!!」


 皿の中は、既に空っぽだ……

 もしや、これが砂糖の禁断症状?! とか冗談いってる場合ではない!

 扉の前に先生が立ち塞がっており、逃げることが出来ない。

 皆が逃げ出そうとその場から立ち上がり、あちらこちらを窺っている。


「……さあ……どうやってお仕置きしましょうか……?」

「か! 菓子なら同じのを作ってきましょうか?!」

「……え?」


 先生の髪の広がりが少し落ち着きを取り戻す。


 ……もしかして一番の原因は、菓子を食べる時に呼んでもらえなかったから、とか?


「……これなら結構直ぐに出来るんであまりお待たせしないかと……おじさん、パン……ブレンのあまりってまだありますか?」

「は、はい!! 足りなければ今すぐ夕飯の分をお焼きします!」


 シロップおじさんも先生の気迫に怖じ気づいたのか、夕飯のパンを差し出すつもりのようだ。


 ……そこまでしなくても、ナッツはまだあるし大丈夫だと思うんだが。


 先生も、怒りが収まったのか顔の上部に掛かっていた闇が消え、いつもの優しい笑顔を取り戻していた。


「まあ! 本当に良いんですか?! いってみるもんですねえ!」

「即行で作ってきます!!」


 空いてる席に座り両手を合わせて破顔する先生を見、私とシロップおじさんは慌てて厨房の奥に駆けていった。

 この時の先生の様子は、シガル襲来よりも大きな事件として城の記録に残された……かどうかは、定かではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ