表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/8

第六話「神のスマホ」

挿絵(By みてみん)


 夏の夕暮れだった。


 ひぐらしが鳴いている。


 風は少し涼しくなっていた。


 奏綴神社の縁側に、天沼智史はぐったり座っていた。


「……伸びない」


「またか」


 隣で奏さまが麦茶を飲んでいる。


「いや、“またか”じゃないですよ」


「いつものことではないか」


「その言い方やめてもらっていいです?」


 智史はスマホを見つめる。


 新しく投稿した動画。


 再生回数、三十一。


 コメント、一件。


 しかも外国語。


「なんて書いてあるか分からない……」


「世界進出では?」


「ポジティブだなこの神様」


 奏さまはふむ、と頷く。


「登録者は?」


「増えてません」


「ほう」


「その“ほう”やめてください」


 奏さまはストローを咥えたまま空を見る。


「難しいものじゃな」


「まぁ、趣味ですからね」


「半分嘘じゃな」


「…………」


 図星だった。


 趣味だ。


 好きだからやっている。


 でも。


 少しくらいは届いてほしい。


 少しくらいは認められたい。


 そう思ってしまう。


「……まぁ」


 智史は苦笑する。


「売れたいですよ、そりゃ」


「うむ」


「でも才能ある人なんていくらでもいますし」


「うむ」


「年齢的にも微妙だし」


「うむ」


「……全部肯定しかしないですね今日」


「聞いておる」


「雑な聞き方だなぁ」


 奏さまは少し考えるように空を見た。


 そして。


「仕方ない」


「?」


 袂をごそごそし始める。


「……何してるんです?」


「む」


 次の瞬間。


 スマホが出てきた。


「なんで!?」


「何がじゃ」


「神様スマホ持ってるの!?」


「持つぞ」


「めちゃくちゃ現代適応してる!!」


 奏さまは当然みたいな顔だった。


「文明は便利じゃ」


「そこ否定しないんだ……」


 しかも最新機種だった。


「待ってください、それ俺のより新しくないです?」


「去年変えた」


「神様機種変するの!?」


「電池の減りが早かった」


「生活感あるなぁ!!」


 奏さまは慣れた手つきで画面を操作する。


「どれ、お主のチャンネルは……」


「いや待って待って待って」


「うむ、登録してやろう」


「神様の登録者増えた!?」


「ありがたく思え」


「いや普通に嬉しいな!?」


 智史は複雑な顔になった。


 人類初の“神様登録者”だった。


 奏さまは満足そうに頷く。


「うむ。これで増えた」


「一人だけですけどね!?」


「一は大事じゃ」


「まぁ、そうですけど……」


 奏さまはスマホを見つめながら言う。


「なんなら私も配信を始めようかと思っておる」


「やめてください」


「即答」


「絶対変なことになる」


「“神様系配信者”じゃ」


「"系"じゃなくて、リアル神様なんだけどなぁ……」


「ありがたい説法配信」


「コメント欄絶対カオスですよ」


 奏さまは少し考えるように頷く。


「スパチャは百十円からじゃ」


「最低額設定すな!!」


「百円では足りぬ」


「配信でもそれ言うんだ!?」


「昨今の物価高を考慮しておる」


「配信界隈に生々しい現実持ち込まないでください!」


 奏さまはふむ、と腕を組む。


「“今日のご神託:物価高”」


「世知辛いなぁ!!」


「“人類よ、節約せよ”」


「急に生活情報番組みたいになる!」


 奏さまは楽しそうだった。


 完全に遊んでいる。


「お主も付き合え」


「それはイヤ」


「何故」


「絶対疲れる」


「人気出るぞ?」


「それ俺の心が死ぬやつなんですよ」


 奏さまは少し不思議そうに首を傾げた。


「そんなものか?」


「だって奏さま絶対伸びるじゃないですか」


「当然じゃ」


「否定しないんだ」


「神なので」


「便利だなその返し……」


 智史は苦笑する。


「まぁ実際、奏さまって配信向いてそうですもんね」


「うむ」


「顔良いし」


「うむ」


「喋りうまいし」


「うむ」


「なんか悔しいな……」


 奏さまは少しだけ笑った。


「だが、私はやらぬ」


「……え?」


 風が吹く。


 夕暮れの光が、境内を赤く染めていた。


 奏さまは静かに空を見る。


「私は神じゃ」


「はい」


「芸を見守る側でよい」


「…………」


「主役は、人のものじゃろ」


 智史は少し黙った。


 ひぐらしが鳴く。


 風が吹く。


 夏の終わりみたいな空気だった。


「……奏さま」


「なんじゃ」


「時々めちゃくちゃ良いこと言いますよね」


「神なので」


「便利だなぁその返し」


 奏さまは少しだけ得意げだった。


 そして。


「続けるのじゃ」


 静かな声。


「そして届けよ」


 智史は少しだけ笑った。


「……そうですね」


 奏さまは満足そうに頷く。


「うむ。ありがたかろ」


「まぁ、ちょっとは」


「では百十円」


「最後ォ!!」


「感謝の気持ちは形にせよ」


「毎回請求に繋げるのやめてもらっていいですか!?」


 奏さまは楽しそうに笑っていた。


 その横顔を見ながら。


 智史も、少しだけ笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ