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一番の被害者は身近にいる




 賢治は俺ほどじゃないが顔がいい。

 俺がやたらめったら顔面中心にボディへ神の祝福を授かっているから本人自覚済みの霞みっぷりだが、賢治単体で見れば男前だ。

 俺は鏡に並んで映っても賢治しか目に入らないし、賢治のことは世界一格好いいと思ってる。

 だが、俺と並ぶと造形の均衡差が現れるのは事実だ。

 そんな事実に安心してしまっていたのかもしれない。慢心していたのかもしれない。

 俺だけが気づいていればいい賢治の格好良さやら人の好さやら優しさやら包容力やら筋力やら常に中立の立場を保つエアーリーディング能力やらに気づいてしまう輩が現れた。

 なんてことだ、なんたることだ。

 賢治に悪い虫が近付こうとしている。


「到底許せることじゃない」


 人参のしりしりを作りながら、俺は固く誓う。

 賢治に近寄る虫はDieあるのみ。


「賢治ぃ、もうすぐご飯できるからなぁ」

「手伝えることあるか?」

「賢治は座っててくれ、台所は俺の城、俺の支配権、何人たりとも侵すことは能わず、それは賢治貴様も例外ではない」

「うん、俺の部屋の台所なはずなんだけどな」


 流石に一般生徒の部屋の台所は狭い。

 だけど、偶には賢治の部屋にお泊りしたいじゃん? じゃん?

 自分の部屋より狭い部屋を理由に賢治と密着したいじゃん? するじゃん?


「じゃん?」

「じゃん……?」

「なんでもない」

「そ、そう……」


 賢治がどこか怯えた声を出した気がするので今すぐ抱きしめてやりたいが、俺には賢治の胃袋を満たす食物を生み出すという使命が……! 使命と賢治どっちが大事なのよって言われたら賢治のほうが断然大事に決まっているけど料理中はよそ見しちゃいけませんこれ常識な。


(さて……どう料理してやるか……)


 よそ見しちゃいけない。

 集中して……こう!


「会長、やたらと思い切りの良い包丁の音がしたけど……」

「人参が固くて」




 虫もとい対象は十代の女。十八過ぎたら女はおばさんって言われても否定できないって母さん言ってたけど、マジでおばさんって呼びかけたらぶっ殺されるんでしょう? 知ってるんだから。

 いまはデリケートな女の年齢のことじゃない。賢治に寄り付いた虫の駆除についてだ。

 事は重大だが、難度は高くない。

 幸いにも此処は男子校、相手との接触は限りなく低い。ただ、賢治の友人が何かと引き換えにSNSのアカウントを教えてしまったらしく、そちらからのアピールが鬱陶しい。

 なにが今度の休日暇? だ。暇な日があったら俺とベッドで過ごしてるわ、馬鹿め。


「賢治、賢治」

「ん?」

「ちょっと端末貸してくれ」

「うい」


 あっさりと自分の携帯端末を貸してくれる賢治に個人情報流出の恐ろしさを説くべきか迷うが、俺は教えられてもいないパスワードを無言で突破するのに忙しいのでひとまず横に置いておく。もの言いたげな賢治の顔は心のメモリーに納めておいた。

 カメラを起動させて、光源やら背景やらに気を遣って撮影するのは俺製弁当。賢治のログインしっ放しのSNSに投稿。ミッション完了。


「会長、なにしてんの」

「自作自演」

「わあ……潔いお返事」


 SNSには「恋人のめちゃうま弁当」というコメント付きで投稿してやったわ。


「賢治、明日から豪華弁当が続くから、SNSで賛美しておけよ」

「え……なにそれ……そんなんしなくても会長の飯いつも美味いよ?」

「愛してる。だが、今回は必要なことなんだ。からあげいっぱい作るから」

「分かった!」


 あー、ちょろい賢治可愛い。

 ははは、見えぬ恋人の豪華弁当攻撃を喰らうがいい。ついでに意味深な「もう寝ちまったかな」だの「早く逢いたい」だのの投稿も勝手にしておけばあっという間に……クソうぜえ恋愛脳男の出来上がりだ。

 やべえな、これ……自作自演にしてもうぜえわ。自分の端末確認してる賢治がすごく可哀想な顔してる。可愛い。

 まあいい、次だ。


「おう、鈴谷くんよう! ちょっと端末貸せや」

「なんだ、おい! 勝手になにしてるんだ!! エロ動画サイトにでもアクセスするつもりか!! そういうのは自分の端末でやれ!!」

「エロいことなら賢治とするわ」

「んもう! すぐそうやって風紀乱そうとするう!!!」


 地団駄踏む鈴谷の携帯端末奪って、賢治のアカウントに「最近あいつといちゃいちゃしすぎでうぜえ。自重しろ」と話しかけておく。よしよし、これで第三者公認だ。

 こんな感じでちくちくちくちく俺はSNS越しに横恋慕仕掛けようとしてくる憎いあんちくしょうをめった刺しにし続け、程なく相手の気配は消失した。相手のアカウントには最後「なんかうざいわ」と残されていた。その気持ち、すごく分かる。

 晴れやかな気持ちの俺とは対象的に、賢治の顔は悲惨なものだった。


「会長……俺のアカウントで二度と悪戯すんな……めっちゃいじられてるから……俺すげえいじられてるから……」

「ごめんな賢治、どうしても必要だったんだ!! 今度カツ丼作ってやるから!!」

「うん、許すわ」


 はー、今日も賢治がちょろ可愛いー!

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