9 ツェイン・リンフェル
(やった~! ルディン様ゲット! さすが女官長!)
心の中で大喜びしつつも、表情に出さないよう頭を下げ続けていたセルネイアだったが、「巫女姫殿!」と声をかけられ、顔を上げた。
「ツェイン様」
ニコニコと笑顔で近づいてくる、第二王子で王太子のツェイン・リンフェル。
茶色い髪に、茶色い瞳、優しげな印象の顔。おっとりとした口調で穏やかで、ルディンと双子とは思えない弟王子だ。
(育った環境の違いなんだろうな。身長も、ツェイン様の方が高いし……あ!)
ツェインの後ろにアッセンがついてきているのに気づき、緊張する。
(まずいわ、わたしが彼のやったことを知っているって悟られないようにしないと)
気を引き締めながら、ツェインに向かって正式なお辞儀をする。
「久しぶりだね。今日はカリナ殿は一緒じゃないんだね」
「はい。カリナはルディン様の看病のため、奥の殿に残してきました」
「そういえば彼女は、医学の知識があったね。……君が兄上を救ってくれたと聞いて感謝していたんだよ。禊を行っているところにちょうど兄上が行くなんて……神のお導きだろうか」
「わたくしもそう思います。きっとこれは、神のお導きです。陛下のお許しも頂けてよかったです」
「そうだね。私も兄上が奥の殿で静養するのは賛成だよ。……ねえさっき、兄上は呪われた存在じゃないと言っていたよね?」
なにやら期待に満ちた様子で尋ねられ、セルネイアは慌ててしまう。
「それは……申し訳ございません、あれはあくまでもわたくしの考えでして……」
「謝ることないよ! 巫女姫の考えは神の意志とも言えるんじゃないかな?」
「ツェイン様、神託とは別でございますよ。セルネイア様の考えは、あくまでもセルネイア様の考え。王家の伝統を変えるようなものではございません」
アリアノールがきっぱりと否定すると、ツェインはシュンとする。
「……そうか……私はね、兄上が王位を継ぐ方がいいんじゃないかって思っているんだよ。何度も国を救った兄上こそが王になるべきだと……」
突然の言葉に驚くセルネイアに、アリアノールが何も聞かなかったかのように「そろそろ奥の殿に戻りませんと」と言う。
「あ、ええ、そうね。ではツェイン様、わたくしはこれで失礼いたします」
そう言いながらチラリと見たアッセンは、わずかにだが眉間に皺を寄せ、腹を立てているように見えた。
(なるほど、そういう理由でルディン様が邪魔なのね、この人は)
なんとなく状況を把握する。
「巫女姫殿、近いうちに兄上のお見舞いに行ってもいいかな?」
「もちろんです。ルディン様がお話しできるようになりましたらお知らせいたします」
「それだけではなく、毎日状況を知らせるようにしていただけますかな?」
ギョッとして振り返ると、間近で自分を見下している宰相、ロベルト・ジェイナルの姿があった。
(うわ、びっくり! なんでこんな近くにいるのよ! 近寄り過ぎよ!)
そう憤慨しながらも、セルネイアはクッと口の端を上げて笑顔をつくった。
「そのようにいたします」
「それから、殿下を奥の殿から出さないように。いいですな?」
「ええ、そのように」
ニコニコニコニコ。
貼り付けたような笑顔で接するセルネイアに宰相は何か言いたげだったが、ツェインがいるからか「では」と去って行った。
(わたしが平民出なのが気に入らないのか、若いのが気に入らないのか……いっつも嫌味な事言ってくるのよね、あの人。大っ嫌い!)
そう思いながらも、ルディンのことが心配なので奥の殿に戻ることにする。
「ではツェイン様、失礼いたします」
「ああ、また」
親しげに手を振るツェインにお辞儀をし、セルネイアは中の殿を後にした。
ツェインは姿も性格もルディンとは似ていません。




