6 セルネイア ②
……そう。
これが現在のわたしの状況。
国の大事である厄災や戦については信憑性を高めるために、禊をし、神殿に入り、祈祷をし、神託を賜り、また禊をする、という流れを守ってはいるけれど、実は普段からけっこう神様と話しができる。わたし、かなり凄い!
『確かに素晴らしい力をもっておるが、まだ小娘ゆえ信じてもらえないこともあろう。今はしっかりと伝統を守り、誠実な対応をするように。そうでなければせっかくの我の言葉も……』
「かしこまりましたー、ちゃんと謙虚に……ん? どうかしました?」
『一大事じゃ! よいか、これからここに傷を負った男がやってくるから必ず救うように! その者はおぬしと同じく、リンフェル王国の行く末に深く関わっている者じゃ!』
そう言ってマールジューランの声は消え、直後、目の前に血まみれの少年が現れたのだった。
「……巫女か」
わたしを見てそう言った、短い黒髪の少年。
なんだかちょっと怖いけど、マールジューランが重要人物って言ってたからどうにかしなくちゃ……でも、誰だろう。
「俺は神に救われるような人間じゃない。俺は王家の呪いを受けた『闇王子』だ」
ん? 王家の呪いを受けた闇王子?
「もしかして、第一王子のルディン様、ですか?」
「ああ、そうだ。西の塔に閉じ込められている、呪われた『闇王子』さ」
ちょっと! うちの国の王子様!
少年じゃなくわたしより一歳上の、ものっっすごく強い人!
わっ! 倒れちゃった!
慌てて水を手ですくって持っていったらどうにか飲んでくれたんだけど、わたし、聞いてないわよ? わたしの神託で戦には勝ったはず。いつも先頭で戦ってくれる闇王子様も無事だと思ってたのに、なんなのこの状況! 味方はどこよ! 護衛騎士はいないの?
混乱して焦っていると、後ろの茂みがガサガサと鳴って騎士が姿を現した。
よかった! うちの騎士! と思ったら「うちの騎士に命を狙われてんだ」って、なんなのそれ!
もー必死になってその騎士(ツェイン様の側近とか言ってたわね)からルディン様を守って『闇王子様になにかあったらマールジューランに怒られる! いや、それどころか、リンフェル王国の危機だよ!』と思って、具合が悪くなるのを覚悟で腕の傷を治してあげたのに、
「俺は、呪われた闇王子だ。いずれ国に害をもたらす存在だぞ? 味方にまで命を狙われるようなこんな奴、死んだ方がよかったんだ。放っておけばよかったのに」
なんてグチグチ言い出すから、思いっきりデコピンしてやった。
そしてむかついたからあれこれ文句を言ったら、闇王子様は目を大きく見開いて、ポカンと口を開けてわたしを見ていた。びっくりした猫みたいでかわいい!
……さっき湖で見た時は目つき悪いと思ったけど……青みがかって見える黒い瞳が綺麗。
黒髪短髪で小柄なのに強いなんて、なんかよくわかんないけど、わたしの好きなタイプって気がするわ。
……大変、恥ずかしくなってきちゃった。なんせわたしは一位巫女姫。男性とはあまり接することがないのよ。
恥ずかしいから目の上に手を乗せて視界を塞ぎ、
「わたしがお守りしますから、安心して眠って下さい」
そう言ったら、そのままおとなしく眠ってくれた。
……そうだよね……誰も信じられないし、自暴自棄にもなっちゃうよね。
普段は西の塔に閉じ込められていて、戦が起きたときだけ外に出されて。
ひどい話だよね。
城に帰ったら、陛下にルディン様を奥の殿で静養させるって伝えなきゃ。
……なんて言えばいいんだろう。
正直に『マールジューランがそうおっしゃいました』って言うのがいいよね、信じてもらえなさそうだけど……でも……本当だもん……大切な人だから……絶対……。
突然襲ってきた眠気と戦いながら、わたしはこれからの事を考え……いつの間にか眠ってしまっていた。
さあ、セルネイアは闇王子を守れるか!




