第9話 乙女の寄り道
── 私の知らない人達。
そう、赤の他人。
私の人生に全く関わりのない人達が、街の大通りを多く行き交うのを、私はさっきから眺めている。
ハーフパンツを履き健康的なふくらはぎが見え、快活に私の前を歩き行く男性。街の騒音を抑える程の土砂降り手前の雨音。気づかれないように、往来する人々の表情を観察する私。
─── 皆、自分のことばかり考えている表情に見える。
実際に、現実その通りだ。
皆、自分のことだけを考えているのが大半だ。
中には優しさや思いやりを持った人もいる。また優しさや思いやりを持っているけれど、余裕がなくて自分のことだけに精一杯な人もいる。
しかし、多くは、他人のことなど関係の無く、無関心。自分の利益になることだけにアンテナを張り、相手が自分と同じ程の物事への興味関心クオリティを求める同レベルかそれ以上かを、探り確認する会話。人の気持ちなどお構い無しの、自己を正当化、自己存在の価値の高さの同調と承認欲求だけを目的として話しかけてくる人との会話と空笑顔。そんなもので、世の中ほとんどが埋め尽くされているように感じる。
憂鬱だ ───
暗い雨雲に沈む夕刻に、さらに私のそんな気持ちが増長する。
いつものあの角ビルの一階の本屋の前。私は、傘をさして顔を隠しながら通る。
( あの人、、いるかな、、)
前田若菜がさりげなく、さしている傘の角度を上げて、こっそりと覗きながら、歩く速度を落とす
( あっ。いた!)
彼はいつものレジのところにいる。
いつも下を向いていることが多い。
今日もまた下を向いている。
そんなに下ばかり向いてたら、お客さんが来たかどうか分からないですよって、言いたくなっちゃう。
本を読んでいるんだろうか。それとも棚卸しとか仕事をしているんだろうか。
いつも仕事帰りに、彼を見れるだけで、若菜はなんか幸せな気分になっていた
──私のさっきまでのイラつきと憂鬱さが
彼の姿を見るだけで、
スっと消え、私の心の中は、温かさでいっぱいになった。
彼と話がしてみたい。
あの占い師の言葉が頭に浮かんできた
───人生は一度きりよ。
モタモタしてたら、見頃の桜も散ってくわ。綺麗に、自分の心の花を咲かせて、謳歌してね───
───若菜は、衝動的に感情が湧き上がった。
───気づいたら、本屋に入り、
レジの前に立っていた。
続く




