第32話 入口ゲート
目の前の観覧車が爆発した。
観覧車のゴンドラの破片や窓ガラスの破片が、パラパラと上空から風に乗って落ち広がっているのが見えていた。
キャアァァァーーー!!!!!
爆発を目撃した人達の叫び声とどよめきが、園内から聞こえてきていた。
観覧車の少し離れたところには
観覧車を囲むように人だかりが出来て、
皆、心配そうに上を見上げていた。
本間「皆さん!落下物がありますので、急いで、観覧車から離れてください!」
本間が、観覧車を見上げている人達に緊迫した状況なのだと伝えるために声をかけ続けた。このままでは、二次被害もあるかもしれないと本間は人々に避難を促した。まだ爆発が仕掛けられているかもしれないというのに、野次馬の人だかりは、現代の平和ボケの日本をよく表していた。
「他のゴンドラに乗ってる人達いるんだもんね、不安だよね。早く助けてあげて欲しい。」
「うん。本当」
「子供と奥さんが乗ってるんです....俺はここで待っていたから....」
色々と
話し声も聞こえてきていた。
本間が対応を続けていた。
「みなさん落ち着いてください。観覧車から離れて! 二次被害が起きる可能性も大きいです。ケガしないように、離れてください!」
本間が、すぐに県警に連絡した。
「本間です。こちら市内、ワンダーパークの観覧車爆発。負傷者まだ不明。至急応援お願いします」
沙織が心配そうな顔をしていた。
「本間さん.....」
本間「 沙織さん大丈夫ですよ、すぐ爆発処理班や救急隊来ますから!」
沙織「 うん、パパにも連絡するわ。」
本間「 はい、もうきっと、刑事課にも連絡がいっていますよ。柳林さんもすぐ来ますよ。」
皆が不安そうに避難している中、
回転ティーカップの近くに、赤鼻のピエロが 立っていて、ずっと観覧車をみつめていた。落ち着いた様子で、おどけたような動きをしていた。
ピエロは大きな赤鼻でよく口元が見えなかったが、気味悪く、笑っているようにも見えた。
しかし、誰もそのピエロに違和感を感じることはなかった。
館内アナウンスが流れた。
「皆様、落ち着いてください。只今、対応しておりますので、観覧車にはお近づきにならないように、お願い致します。」
爆発したゴンドラには、幸いにも誰も乗っていなかった。爆発犯の仕業か、整備不足の機械不良だったのか、まだわからなかった。これから取り調べや検証が待っていた。
。
サイレンの音が聞こえてきた。
遊園地の駐車場に何台ものパトカー、消防車、救急隊が到着した。
特殊部隊SATや爆発処理班も到着した。
辺りは騒然としていた。
園の係員と相談しながら、警官達は、他のゴンドラの乗客の救出を始めた。
爆発があったため、通常運転で再稼働させるのは危険と判断された。
停止している乗車口の1番近いゴンドラに、ロープを付けて皆で引っぱりながら、ゴンドラを下の位置まで移動させ始めた。それを一つ一つ引っ張りずらしながら、救出していくと言った方法だった。
何人もの従業員で引っ張り動かすのだが、かなりの力仕事だった。まだ爆発が仕掛けられている可能性もあった。現場は、迅速な救出とゴンドラ内の捜査が求められていた。
そして、また一台のパトカーが、園内の駐車場に到着した。
車の扉が開くと、
一人の中年刑事が、
ひょいっとブルゾンを羽織った。
中年刑事は、遠くに見える観覧車と上がっている白煙をみつめた。
「また、事件が、おいでなすったなぁ...」
そう言うと、その中年刑事は、遊園地の入口ゲートの方へ、背中を少し丸めた格好で、向かっていった。
入口ゲートでは、警察官が何人か立っていて、来園客が無事に遊園地から出て行けるように、誘導していた。
その中に森野がいた。
森野が、中年刑事に気づくと、駆け寄り挨拶をした。
森野「柳林さん、お疲れ様です。」
柳林「森野、おつかれさん」
森野「爆発処理班が少し前に到着してます。今回の爆発で幸いにも死傷者は出ていませんが.... 犯人はまだこの中に.....」
柳林「そうだな。まだ、犯人、園内にいる可能性高い。爆発したところや困っている人々の様子を見たいという心理があるだろうからな。」
森野「はい。現在、園を出る前に、ゲートで、事情を説明しまして、来園客の名前と住所を記入してもらうよう、協力してもらっています。」
柳林「ご苦労さん。そいじゃぁ.... 案内してくれ。あの観覧車のとこまで。」
森野「はい。」
中年刑事は、人様のお邪魔にならないように、意識して生きてきたのか、少し申し訳なさそうに背中を丸めた姿勢をしている事があった。生きてるだけで、誰かの迷惑になってるんじゃないかと。
この刑事は、今まで、いくつもの事件と向き合ってきた。
人の憎しみや悲しみと、対面せずにはいられない場面もあったが、任務をこなし、一人でも多くの犠牲者とその家族、苦しんでいる人を助ける、そして罪人を更生させる道を作るのが、オイラの使命だと、今までやってきた。
また向き合わなけりゃならないのかいと、いくつもの事件を越えてきた者だけが持つ、静かな重みと覚悟を背中に滲ませながら、中年刑事は、入口ゲートをくぐって行った。
新たな犯人との戦いが始まった。
「おっとぉっ!汗」
園内の地面の段差につまづき、
ベテラン中年刑事が転びそうになった。
柳林善次郎 五十四歳
段差に気をつけたいお年頃だ。
続く




