第29話 雨水percussion
しとしとと、降る雨
雨水が落ちて、地面に打つ音が、まるで曲の始まりのpercussionのように繰り返しては、鳴っていた。
オフィスビルの1階に入っているコンビニの入口前の床のタイルに落ちる雨粒達。
蕾 ( あいにくの雨だけど、こんなにワクワクする気持ち、なんか久しぶりだな、今日はどれだけ楽しい一日になるんだろう。)
蕾は嬉しい気持ちを押さえられずにいた。蕾はコンビニのガラス窓に映る自分の姿を見た。
淡い水色の生地に白の小花のお気に入りの肩出しマキシマムワンビース、一張羅ん。
気合を入れて、コーディネートしてきたから、そこに映る私は、自分で言うのもなんだが、かなり、可愛く見えた。
本当に私だろうか、なかなかいけてる。
ずっとガラス窓を覗き込んでたら、通行人や信号を待つ人に、「自分好きなやつ」と思われたら嫌だと思い、蕾は目線を手に持つ携帯の画面へ移動した。
─ 遅れる、ごめん、あと少しで着く ─
LINEを見て、雨の日は遅くなるものだと「大丈夫だよ。気をつけてきてね、待ってるよ」と、蕾は郡山に、そう返信した。
郡山とは、高校時代からの友だ。
出会いは、それは今でも忘れない、教室で、私が消しゴムを忘れて、困っていたところ、隣の席の郡山が、ひょこっと顔を私の方に向けると、『どうぞ』と消しゴムをスっと貸してくれたのが始まりだった。
郡山の性格は大人しくいつも冷静で、友達はいるが、グループの輪の中にはあまり入るタイプではなかった。下校時間になると、郡山は、いつも一人でフラッと、猫のように帰り、気づいたら、知らぬ間に、教室からいなくなっていた。
気が合った私たちは、消しゴムを借りた時以来、家族の話、学業や就職の話、将来の話、色々した。バイトしてる話も聞かせてくれて、その内、お互いの恋愛の話までもするようになった。片方が悩み事があると、「大したことは無い」ともう片方が元気づけて、支え合っていた。
そして、蕾は、郡山から言われると、『本当にこんなことは大したことでは無い』という気持ちになってきて、転んじゃうこともあるけど、『きっと大丈夫だ。順調に進める』と不思議に勇気が湧いてきたり、前向きな気持ちにいつもなれていた。
卒業して、お互い社会人になっても交流は続いていた。
ラーメン屋に一緒に行った時に、蕾はラーメンができるまで携帯をいじっていた。遊園地のイルミネーションが綺麗、観覧車もリニューアルされると話題の情報が目に入ってきて、蕾は、携帯の画面を郡山に見せて、「ここ綺麗じゃない?観覧車も乗りたい!行ってみたいなぁ~」と言ってみた。
郡山が「それじぁ、行っちゃいますか」と即okの返事が来たので、蕾はラーメン屋のカウンター席で、周りの客からチラ見されるほど、キャッキャとはしゃいだのは、十日前のことだった。
今月に入ってから、ずっとスッキリしない天気が続いていたが、やっぱり遊園地に行く日も雨がぱらついていた。
買ったばかりのおろしたての白色の細いストラップサンダルを、履いていくのを楽しみにしていたのに、急遽、雨靴に変更した。
だけど、よくよく考えたら、良かったかもしれない。広い遊園地内を沢山歩くのに、新しい靴なんて履いてったら、靴擦れで私のかかとは、悲惨なことになっていたと思う。
蕾はそんなことを思いながら、
足元の雨靴の先のアスファルトの大きなタイルの十字の溝に溜まる雨を、傘の先でなぞって何往復もしながら、早く来ないかなぁと郡山のことを待っていた。
何人もの通行者が、私の横を通り過ぎていった。
雨がしとしと、降っていた。
色とりどりの傘が、私の前を通り過ぎていった。
色とりどりの傘の中から、郡山の声がした。
郡山「 豊島?」
私は、郡山がいると思われるその声の方を、探した。
透明のビニール傘が私の方に近づいてきて、ビニール傘越しに、雨粒のベールに覆われた郡山が現れた。
蕾「おぅ。」
郡山「 待った?ごめんな。雨でバスが遅延してた」
蕾「 ううん 大丈夫だよ。私もいまさっき来たばかりだよ。」
郡山「ごめんな。」
蕾「大丈夫だよ。」
郡山「.....その猫の柄の傘かわいいじゃん。」
蕾「 んっ? あっ、これ? ありがとう。
この前、雑貨屋さんに売ってて一目惚れして買った。」
郡山「 猫が傘の中で、雨宿りしてるみたいだな。」
郡山が蕾にそう言うから、蕾がその猫の飼い主のような言い草で、こう返した。
「うちの子、雨の日なのに、一緒に外に出かけたいって言うんだよ。猫は雨が嫌いなのにねぇ。」
郡山が笑った。
雨音の|morbido e sostenuto《モルビド エ ソステヌート 》なリズムと共に、二人にまったりした時間が流れた。
郡山「 それにしても、あいにくの雨だねぇ」
蕾「うん」
郡山「んなぁー、、、やっぱ予定通り行く?」
蕾「行きたい!!」
郡山「ジェットコースターとか、雨で乗れないかもよん」
蕾「うん。いいよ。観覧車に乗れれば、それでいいかな」
郡山「満足度低(笑)」
今度は二人で笑った。
私達が遊園地に着いた頃には、ラッキーなことに雨は少量になってきていた。
もう傘もいらなさそうだが、「二人で一つの傘に入って仲良く歩こう」と郡山が言うので、蕾はそうすることにした。
蕾は自分の傘を閉じて、雨に濡れないように素早く、まるでお祭りで売ってるスーパーボールのように、軽く飛び跳ねる感じで、郡山の傘の元に入った。
すると郡山と距離が近くなった途端に、蕾は自分の心臓の音が大きめに聞こえ初めてきたのが、分かった。
蕾 ( あれ?なに?
動悸?
嫌々、至って私は、健康体だし、動悸や息切れなんて、この歳でしたことがない。
もしかして、、 わたし、、 緊張してる?!
嫌々、それはない!! 絶対に違う!!笑 )
続く




