第22話 薄い色のついた味気ないもの
私は、美人では無い。
私は昔から地味で、陽キャなグループの人に話しかけられたらマゴマゴしてしまうし、もちろんグループの中心になんかになったこともない。いるかいないかわからない影の薄い存在で、人に気づかれないことも頻繁にあり、「あっ、いたんだ。」なんて言われるのは慣れっ子だった。
若菜が、自分の部屋で、さっきから、ぽーっと部屋のカレンダーをみつめている。
若菜「一年も半分終わるんだなぁ。社会人になると時間が経つのが早いなぁ。」
若菜が、唇の荒れを確かめるような、人差し指で唇に触れ、左右に動かす仕草をしている
───私は紅茶が好き。例えば、お気に入りのティーパックをカップに入れ、お湯を注ぐと香りが広がる。
美味しく、その一杯を飲み終える。
行儀が悪く、みすぼらしく、恥ずかしいのだが、その同じパックで二杯目の紅茶を入れる。
そして、飲み終わると、もう無理だよなと思いながらも、三杯目のお湯を入れてみる。すると、薄い色のついた味気ないお湯ができあがる。
つまり、それが、わたしだ。
平々凡々に日々が過ぎていけば、それだけで充分幸せだと思っているそんな私は、人生が虹色に見えてしまうほどの少女漫画のようなキラキラした恋愛など、もちろんしたことはない。これまで色恋沙汰に縁はなかった。
稀に、自分の好きなタイプの男性が自分の目の前に現れる。私がどんな男性がタイプかと言うと、性格ではなく、見た目重視。面食いである。
一目惚れしやすい。
一旦恋に落ちると、意中の彼から声をかけられただけで、私の心臓が、バクバクと騒ぎ出す。緊張してしまう。
私は片思いの彼に自分のことを好きになってもらいたくて、会話をしようと近づくのだが、すぐに、またドキドキが始まり、手汗はかくし、いつも挙動不審になってしまう。
それでも私なりに頑張って、彼の目を見て会話しようと努力する。壊れたロボットのように。カクカクと手足や首を動かしながら。
そして私の恋愛物語の流れとしては、毎回同じパターンで、自分の気持ちは告げられぬまま、彼とたまに会い、一緒に話をしたり笑ったり、それだけで、幸せ、このままでも良いと感じて、時が流れ過ぎていく。
たまに彼と会える日が待ちどおしく、手帳には会える日にハートシールを貼り、毎日、彼のことばかり考えて、恋しかった。
───そんな恋愛ばかりしていた
そんな私に、最近、好きな人ができた。
やっぱり今回も毎日毎日、彼のことが頭から離れることはなく、ときめいては、モヤモヤし、日々を過ごしている。
この恋も始めは遠くから見てるだけで嬉しくてそれで満足だった。それ以上は望まなかったし、それでよかった。
なのに........
もし彼と話ができるようになったら、
どんなに嬉しいんだろう
笑い合えるようになったら、
どんなに楽しいんだろう
と言う気持ちが
私の心の中に生まれるようになってきた。
あの茶色い瞳も、
色白な綺麗な華奢な指も、
独り占め出来たら、
どんなに幸せだろう
と思うようになった。
毎夜、考えると、苦しくなり、恋しくなった。
彼とカップルになる妄想をしては、自分の部屋でひとりでニヤニヤして気持ち良い気分になり、そして、冷静にふと現実に戻ると、ニヤついてる自分が非常に気持ち悪く、また彼を夜中想っては、恋しい苦しい気持ちになるという繰り返しだった。
今日もまた雨だ。
ここのところまったく雨の日が多い。若菜は、また仕事帰りにいつもの通勤路のコースを歩き、あの本屋の曲がり角まで来て、立ち止まった。
──────私の唇。
私の唇は、まだ誰にもキスして貰えてない。
可哀想な唇。
もし好きな人とキスしたら、
どんな味がするのだろうか。
いつかその味がわかる日が来るといいな。
私の唇。もう少し待っていてね───
続く




