第15話 勝手に失恋中
若菜「あぁーーぁ.... 」
蕾「大丈夫?」
二人は高校時代の友人で、二人は社会人。仕事帰りに待ち合わせて、今夜は居酒屋さんで、お酒を楽しみながら、話している。
店内は、仕事帰りのサラリーマンや若い男女のグループで、ほぼ満席状態だった。店内は賑わっている。蕾と若菜は、カウンター近くの四人席に、二人で座っている。
蕾が、やみつき塩キャベツを箸で摘むと口にほおりこんだ。迎え合わせに座る若菜は、なんとなく表情が暗い。
蕾「 若菜、 とりあえず食べなよ。ねっ。話聞くから。」
若菜は、仕事帰りに本屋を覗くのが、もうすっかり習慣になっていた。ところが最近、覗くといつも、この前の白兎が、彼とレジに一緒にいて、二人で仲良く話している。ここ三日間、連続で、二人のなかよしこよしを、目撃して、元気が出ないでいる。
蕾「 ただの仕事仲間でしょ?」
若菜「 そうかなぁ。。でもすごい仲良しだよ。きっと違うよ。。
この前のあの雨の日、私が店内を覗いてたら、その女の子に声をかけられて、『毎日ここを通る度に彼のことを見てるでしょ?』って言われたの。その子、私の行動、分かってたんだよ。」
蕾「げっ! マジで!? なんか怖っ。。 そんな外の通行者の様子を観察してるなんて.... その子、仕事ちゃんとしてるのかな?とか思っちゃう。」
若菜「そうだよね.. 私も少し驚いちゃって.....
あー、あの子もあの人のこと好きなんだって、その時、私直感で分かったんだ。
もしかしたら、もう付き合ってるかもしれない。彼のこと、下の名前で呼んでたし。」
若菜がやみつきキャベツを、力の入らない手で箸を持ち、ゆっくりと摘むと、食べた。一口では食べきれずに、箸の先にはまだ、残りのキャベツが残ったまま、手が止まっている。
蕾「 諦めちゃうの?」
若菜「 う〜....ん、諦めたくないけど....... もうこれ以上、傷つきたくもない.... 二人の仲も知りたくないかも......」
若菜が残りのキャベツを口に入れる。
蕾は、生ビールをクイッと飲む。
そしてジョッキをテーブルに戻す。
蕾「でももしかしたら、ただの仕事仲間かもよ。
わからないじゃない、そんなの。
好きなら、また彼に会いに本屋に行くべきよ。」
蕾が若菜の恋の応援をする
蕾「若菜の気持ちを彼に伝えてみたらどうかな? 若菜が倒れちゃったら、私、ガシッと支えるからさ。」
アセロラサワーのグラスから水滴が伝わって、テーブルが濡れている。若菜が紙ナフキンでそれを拭きながら、うつむいて話す
若菜「でもさ..... 私さ...... もしさ...... 断られたらさ..........、もう私、立ち直れないよ。
毎日さ....、通勤路の途中に、彼がいて、見れるだけで幸せだったことも、終わっちゃうんだよ。。」
蕾「...........」
二人の会話が止まり、
賑わい続ける店内に、二人だけ静かな空間ができる。
若菜はとことん自分の心の声を蕾に吐き出して、蕾は若菜にしっかり寄り添っている。学生時代からしてきた二人の形だ。
若菜がアセロラサワーを一口飲むと
二人の静寂を優しく破った。
若菜「蕾の方はどうなの、、? 郡山君と。」
蕾「 私は....... ほら、郡山とはそういう恋愛関係とかじゃなくて、親友だから、、。」
若菜が座った目で、蕾をじっとみつめる。
ほろ酔いの若菜の頬は、shu umemuraのチークのほんのり甘めの色合いに、さらに赤みが増し、可愛らしかった。 蕾は、自分の心の中を覗かれているようで、親友と言えども、気恥しい気持ちになってきた。
本当のところ、自分でもよく分からないのだ。
郡山と一緒にいると楽しいし、悩み相談もしたり、元気をもらえる。でも、郡山の彼女になりたいとか、キスしたいとか、そういう気持ちは、自分の心を隅々まで、サーチライトで探しても、見当たらないのだ。
だから、若菜に嘘は付いていない。
本当の気持ちを言っている。
さっきまで饒舌だった蕾が、黙り込んでしまい、さっきまでの恋愛応援隊長のいきおいがなくなっていき、また二人の間に沈黙が流れた。
店員さんが、小鉢を二つ運んできた。
蕾「あれ?頼んでないですけど..」
店員さん「大将から。お二人にどうぞと。」
蕾「え? いいんですか。。?」
店員「大将が、なんとなく元気のなさそうなお二人を見て、若い可愛いお客さんに、元気になってもらいたいって、これでも食べて頑張れと。」
若菜「え~~、、、!嬉しい! 泣いちゃいそう。大将ありがとう!」
若菜が大将の振る舞いに感動して、カウンターにいる大将に直接お礼を言う。少し声が大きめなもんだから、周りの客たちが、一瞬、若菜に注目した。
大将がニッコリ笑顔で応える
店員「他のお客様の分はないので、私も私もと、他のお客様から言われちゃうと困るので、内緒でお願いします。汗)」
店員がペコペコと二、三回頭を下げる。
蕾「あっ、そうですよね、ありがとうございます(汗) 」
蕾と若菜の間に、少しだけ、温かい空気が戻ってきた
続く




