第14話 バックの底
まだ夕方になっていないのに、視界は暗めだった。信号待ちになり、本間はハンドルを握る力を緩めると、フロントガラス越しに厚い雨雲で覆われた空へ目線を向けた。左折ウインカーの音だけが、メトロノームがリズムを刻むように、車内に鳴っていた。
すると、やはりか と雨を予想できていた灰色の空から、ぽつりぽつりと、フロントガラスに、雨粒が一滴、二滴と落ちてきた。みるみるうちに、フロントガラスは、雨粒でいっぱいになった。本間はワイパーをかけた。
助手席に座る柳林は、さっきからじーっと何か考え事をしている様子だ。本間は、なんとなく停滞している空気を、動かしてみようと、独り言のように呟いた。
本間「やぁ~~.... また降ってきちゃいました。
ここのところ雨の日多いなぁ~.....」
柳林の反応をうかがう本間
柳林の反応がなく、やはりまだ何かを考えている様子だった。信号が青に変わると、本間はギアーをドライブへ入れ、進み、左折した
柳林が口を開いた
柳林「 なっ、本間。あのフローラのオーナー、落ち込んでいたな。気持ちが元気になるには、時間が解決してくれるだろう。その時をゆっくり待つしかない。。。 」
本間 ( あぁ、柳林さん、しのさんの事考えてたんだ。。)
本間 「 そうですね....」
柳林「本間、 そぃで、あっちの方は進んでるか?」
本間 ( あっちの方....? おぉ... あぁ、あのことか!)
本間「 あっ、はい.. 今度の日曜日、沙織さんとまた出かけることになりまして、遊園地へ。報告遅れました(汗)」
柳林「 本間、その話じゃない、、、、。音瀬愛美香のバックの中にあった下着の話だ。」
本間「あっ、、あれぇ? そ、そっちでしたか。。す、すみません。今、調査中です。」
柳林と本間が、音瀬愛美香のことで、フローラに聞き込みに行った帰りの車中、話をしている。音瀬愛美香のバックに映画の半券が残っていたのだが、他に、着替え用の下着もみつかっていた。何か殺人の手がかりになるかもしれないと、下着の指紋鑑定、体液鑑定、などを調べている最中だ。
音瀬が亡くなった時に着用していた下着は、とても可愛く女子も男子も好みそうな、それは今にもヨダレが出てきてしまいそうな、スィーティーなデザインだったのだが、そのバックに入っていた下着のデザインは、それとは対照的に、とてもシンプルで、しかし生地自体は安っぽくはなく、高品質なそんな下着だった。
本間「犯人の指紋などが出てくるといいのですが..」
柳林達が乗るパトカーは、いつもの防波堤沿いの道路を走っていてた。もうすぐ署に着く。
本間の携帯電話が鳴る
本間「ぅあ~.. 今運転中ですから、出れませんよ~。 誰からだろう..」
柳林「鑑識からもう結果が出たのかもしれないな.... 」
本間「はい! そうだといいですねぇ....」
本間が赤信号になると、携帯のディスプレイをチラッと見た。そこには電話してきた相手の名前が載っていた。
─── 森野───
本間「 鑑識じゃなかったです.. 森野からです.....」
柳林「ほぅか。。 今回はどんな子なのかね?」
この柳林が言う『どんな子』と言うのは、森野の最近の担当、猫探しの『猫』の事だ。
本間「先日、依頼者と買い猫について話し、探すルートなどの打ち合わせをして、確か1週間前から捜索開始しています。」
柳林「また一人で困ってるのかもしれん。本間、一旦車を停めて、森野に電話してやろう」
本間「そうですね。」
本間は、走らせていた道路沿いの少し先にあるコンビニの駐車場に停めることにした。
本間が森野に電話をする。電話が繋がると、聞き取りやすい、いつもの森野の声が聞こえたきた。
本間「森野、本間だ。お疲れ様。」
森野「本間さん、お疲れ様です。忙しいところ折り返しのお電話ありがとうございます。捜査依頼の黒白色のぶち柄の猫ですが、、飼い主は、花丸デパート沿いの陸橋道路付近の住まいということで、今その辺を捜索してます。」
本間「わかった。報告か。困ったことはないか?」
森野「はい。ありがとうございます。これから捜索なので、まだ、、。でもまた困ったことが出てきたら、お力添えのほど、お願いします!」
本間「あぁ。いつでも、また電話してきてください。横で、柳林さんも、頑張れよと言っているよ。」
森野「ありがとうございます~。柳林さぁ~~ん。」
携帯電話から漏れ聞こえてくる嬉しそうな裏声の森野の声に、柳林は、目尻にしわを作って微笑んでいる。
続く




