卒業パーティー 黒幕の陰謀③
アイリーシャはとりあえず前を向くと、話を続けた。
「おそらく最初は美味しいくらいの感覚だったのでしょう。でも食べ続ける内に食べたい欲が強くなり、それがレイラ嬢への好意だと錯覚するほどの依存に変わったのだと思います。その時点で判断能力はかなり衰えていたのではないでしょうか。最後は彼女……つまりはクッキーを手に入れるためならば、彼女の言うことは全て正しく、望むことは全て叶えたいと、ただそれだけを思うようになった」
この薬草は前世でいうなら覚醒剤や大麻などに近いだろう。前世ならまだ回復するための支援体制が充実しているだろうが、今世ではそんな体制などなく、一度手を出すと依存から抜け出すのはとても難しい。
先程のレイラとともに退出した令息は、判断能力がすでになく末期の状態だった。あそこまでになると、元の生活に戻れる望みは薄い。
(カイルさえ、半々というところね)
「どこまでレイラ嬢の意思で行っていたかはわかりませんが、レイラ嬢にカイル殿下を籠絡させ、婚約者の立場を奪い、最終的には殿下を傀儡にしてこの国の実権を裏から握ろうと考えたのだと思います」
なんと大胆なっ!、許しがたいことだっ、反逆罪に当たるぞっ、など周りの貴族たちから声が上がる。
今やゲオルクは、いつものすました顔は息を潜め、憎しみのこもった表情でアイリーシャを睨みつけていた。
「……ロイスナー侯爵家は、少し前に今までまったく交流のなかったマクミラン子爵家に事業支援を申し入れています。結果的には先にヘーリング家との共同事業の話が出たために実現しませんでしたが、これもマクミラン家にしかないこの薬草を手に入れるためだとすれば納得がいきます」
レイラがコーエンに近づいたのも、コーエンを思いのままにしてマクミラン子爵の情報を手に入れようとしていたのではないか。
あのマクミラン家子息誘拐事件が起きたとき、騒ぎに乗じてマクミラン家の書斎が荒らされていたと聞いたが、それもおそらくゲオルクが裏で指示していたのは確かだろう。
ただの荒らしに見せかけて、領地に関する情報を調べたのだ。騒ぎを最小限にするため、わざとなにも盗まなかった。
実行犯は当時マクミラン家に疑われずに出入りできたコーエンか、マクミラン家に使用人として忍びこませたゲオルクの手のものだろう。
まあ、コーエンがレイラに傾倒しすぎてターニャとの婚約破棄までしたのは、ゲオルクには計算外だったのかもしれない。コーエンもろとも操ってマクミラン家を自分のものにしようとしていただろうから。だから焦ってマクミラン家に支援する動きを見せたのだろうけど、それがかえってゲオルクを疑うきっかけとなってしまった。
(レイラが予想以上に自分本位で、ゲオルクの思い通りにならなかったのもあるのでしょうね)
レイラのカイルやジークハルトへの接し方から見て、彼女が本来の目的など忘れて、令息たちとの恋愛ゲームを楽しんでいたのも想像がつく。
宿屋で言い争っている声がしたというし、ゲオルクは相当苛立ちを覚えていただろう。
ずっと黙ってアイリーシャの話を聞いていたゲオルクが、突如口を開いた。
「お待ちください。随分な言われようですが、アイリーシャ嬢の話は全て憶測にすぎません。その薬草についても私はなにも知りませんでした。うちの薬屋の薬師が勝手にやったことではないですか。罪を私になすりつけようとしているだけです。レイラ嬢に関しても、彼女本人がカイル殿下を籠絡したいがために、薬師と共謀したのでは? 私はまったくの被害者です」
罪から逃れようと次々に弁明を並べ立てるゲオルクの言葉を聞き終えると、アイリーシャはゆっくりと彼へ視線を向けた。
「……その言い訳は少々苦しいかと思います、ロイスナー宰相。今ごろ……王宮騎士団がロイスナー侯爵宅へと到着し、宰相が関わった証拠となる書類を回収していると思いますので」
「っ……」
ゲオルクの顔が一気に青ざめる。
宰相の書斎にある金庫には、マクミラン家の領地に関する報告書、薬の生成方法を記した書類、そして薬草を液体化したサンプルが入っていた。サンプルはアイリーシャが一部持ち帰り、すでに分析して件の薬草であることを確認している。
つまり、ロイスナー宰相はもう「詰み」なわけだ。
「薬屋にも騎士団が向かっています。すぐに調査が始まるでしょう」
ゲオルクはがくりと床に膝をついた。呆然とした様子で視線を落としている。




