卒業パーティー 黒幕の陰謀①
困惑や好奇が入り混じった空気の中、唐突にそして強制的に渦中の人物となったゲオルクは、アイリーシャの告発に大きな声を上げて笑い出した。
「ははは! なにを言い出すかと思えば。アイリーシャ公爵令嬢、どうしてそこで私の名前が出てくるのか理解できません。レイラ・アードラー男爵令嬢とは直接会ったことも、話したこともありませんが」
「本当に?」
「ええ。我がロイスナー侯爵家はアードラー男爵家と交流もありませんし、王宮で顔を合わせたこともありません。カイル殿下がレイラ男爵令嬢と懇意だったことも今夜知りました」
すらすらとさも真実のように語るゲオルクには余裕さえ見える。しかし、油断していたゲオルクは内心気が気ではないだろう。
「宰相は下町へはよくお出かけになられますか?」
「……いや、それほどでは。下町の様子を偵察に行くぐらいです。一年に……一度ぐらいです」
「あら、それはおかしいですね。下町の宿屋の主人が、宰相は最近、月に一度ほど宿屋を利用されていると言ってましたが」
「人間違いじゃないでしょうか。飲食はともかく、私が下町の宿屋に宿泊することなどありませんから」
「宿泊以外にも利用できるのではないですか? 例えば……どなたかとの密会など」
「……なにが言いたいのですか」
「宿屋の主人は、宰相が若いご令嬢と二人で利用していたと」
「…………」
ゲオルクがなにも言わずに黙った。
「ご令嬢の特徴も確認しましたが、レイラ男爵令嬢と酷似しておりました」
「……そうだとしても、そのご令嬢がレイラ男爵令嬢だと断定は難しいでしょう。なにより、私とレイラ男爵令嬢がそんな場所で会う理由がない」
「ありますよ」
「……どういう理由が?」
「『テレーザ』という女性をご存知ですか?」
その名前を出したとたん、ゲオルクの瞳に一瞬の動揺が走ったのを見逃さなかった。
「さあ……存じ上げませんが」
「その女性は、レイラ男爵令嬢の実の母親です」
レイラがアードラー家に養子として迎え入れられたことは、周知の事実だ。
「そうでしたか。しかし、私になんの関係が?」
「あら、彼女は下町で生活する前、ロイスナー侯爵家でメイドとして働いていたそうですよ。知らなかったのですか?」
「ああ、そうだったんですか。うちは使用人だけで百人近くいますから、一人一人の名前まで把握していませんよ」
(私はうちの使用人たちは全員覚えてるけど)
「そうですか。ならばご存知ないかもしれませんが、テレーザさんはもともと隣国の伯爵家のご令嬢だったそうですね」
「それは……そうですか。雇う際に身元確認はするのですが、伯爵家の者を雇ったという報告は聞いていませんね」
ゲオルクが軽く目を開いて驚いた表情を見せた。彼は本当にこのことは知らなかったのだろう。
「彼女はどうやら勘当同然で家を出てレブリオ王国へ渡って来たらしいので、身分を偽っていたかもしれません」
「なるほど」
「実は、彼女のお姉様にお話を聞くことができたんです。テレーザさんがお亡くなりになる少し前に、テレーザさんから連絡があったらしくてお会いになられたとか」
「…………」
じっとゲオルクを見据えてアイリーシャは続けた。
「その際にテレーザさんが話してくれたそうです。王都でメイドをしていたときに、勤めていた屋敷の侯爵様に辱めを受け、レイラ嬢を身ごもったと」
周囲から驚きの声が漏れた。先程よりも無遠慮な視線がゲオルクに注がれるが、ゲオルクは落ち着いた様子を崩さない。
「ちょっと待ってください。もしかして、その侯爵が私だとでも? テレーザという女性が勤めていたのが我が家だけとは限らないでしょう。その前、もしくはあとにどこかに勤めていたかもしれません。だいたい、私には身に覚えもないことだ」
「テレーザさんの過去の経歴を調べましたが、彼女がメイドとして勤めたのはロイスナー侯爵家だけです。彼女はレイラ嬢を身ごもったあとすぐにメイドを辞め、下町で平民として暮らしています」
「その女性が嘘を言っているかもしれない。他の男との子を私の子だと偽って吹聴していた可能性だってある。どちらにせよ、なんの証拠もない」
ゲオルクが馬鹿馬鹿しいといわんばかりに、わざとらしくため息をついた。
「そうですね。これだけだと発言の真偽を巡る不毛な議論になりかねませんね。ですがロイスナー宰相。テレーザさんはお姉様にある物を託していたそうです。『もしいつか侯爵の罪を暴くために必要なら渡してほしい』と」
「……ある物?」
「はい。テレーザさんが襲われて抵抗した際に、相手のカフスボタンを引きちぎったらしく、それをずっと隠し持っていたようです」
「カフスボタン」と聞いて、ゲオルクがはっとした顔をした。
「カフスボタンには家紋と持ち主のイニシャルが刻まれていました。家紋はロイスナー侯爵家のもの、そしてイニシャルはG・R。ロイスナー侯爵家の中でこの条件に当てはまるのは、ロイスナー宰相、あなただけです」




