卒業パーティー 断罪の行方⑤
カイルがあんぐりと口を開けて固まっている。
アイリーシャも突然のカミングアウトに動揺を隠せない。
(え……?)
エンドフェル帝国といえば、この大陸の大部分を所有する大国であり、レブリオ王国よりも遙かに力を持っている。幸いレブリオ王国とは友好関係を結んでいるが、なにか起きたら立場が悪くなるのは確実にレブリオ王国だ。
そういえば、エンドフェル帝国には三人の皇子がいた。第一皇子と第二皇子の後見争いが過熱しているのは知っていたが、第三皇子の噂は体が弱くて療養中ということ以外はほとんど聞いたことがなかった。そりゃそうだ。彼は十歳のときから、ずっとアイリーシャの傍にいたのだから。噂しようにも本人が帝国にいなかったらできるわけない。
(体弱いなんて、嘘っぱちじゃないの)
きっ、と隣のジークハルトを見上げると、ジークハルトが視線に気づいてアイリーシャに何食わぬ顔で笑顔を返してきた。
「ジーク……。さすがに驚いたのだけれど」
「驚かせてすみません。最近やっと情報解禁になったので」
「なんで教えてくれなかったのよ」
「事情があったんですよ。お嬢だって薄々気づいてたでしょ?」
「う……そうだけど」
確かに、ジークハルトがヘーリング家に預けられたのは、単に従者見習いとしてではなく、なにか事情があるのだろうとは思っていたが。
(こんな大きな事情だとは思わないじゃないの)
伯爵と大帝国の第三皇子とでは、立場だって権力だってかなり違う。
アイリーシャだって気軽に話せる相手ではないのだ。
「……今から敬語を使うべきかしら」
「止めてくださいよ。今さら敬語とか使われたら、こっちが落ち着かないですって」
「でも……」
「とりあえず、詳しくはまたあとで説明しますから。まずは、今夜の目的を遂行しましょう」
ジークハルトが余裕のある笑みを浮かべて、正面に向き直った。
「アーロン国王陛下。ご紹介いただきありがとうございます。私が皇族だとは知らなかったのですから、カイル殿下の先程の振る舞いは不問にいたしましょう。今は目の前の問題を明確にさせることを最優先としたいと思いますが、いかがでしょうか」
「うむ。そうだな」
アーロンが頷いた。それを確認して、ジークハルトが再び口を開いた。
「公爵令嬢を拉致しただけでもレイラ嬢の罪は重いですが、実はそれだけではありません。そのことに関しましては、アイリーシャ公爵令嬢より説明していただきます」
ジークハルトがアイリーシャに目線を送ってきた。アイリーシャはその視線に応えるように、一歩前へと進み出る。
「今回の拉致事件ですが、捕らえられた際にレイラ・アードラー男爵令嬢から睡眠薬を使用されました。さらには、暴行を受けそうになった際にも賊の男に小瓶に入った透明の液体を飲まされそうになりました。賊の男はそれを先程のレイラ嬢に頼まれて犯行に及んだ令息から渡された薬だと証言しております」
「その薬物とは?」
「睡眠薬は強力に改良されていましたが、薬師の間で流通している正規のものでした。もう一つは強い香りのする馴染みのない薬でしたので、賊から回収した物を解析いたしました。すると、ある薬草から作られておりました」
「薬草?」
「はい。今まで認知されていなかった新種のようで、名前もありません」
「そのような薬草があったのか……」
「その薬草は依存性のあるケシと幻覚や記憶障害などが起こるダチュラの特徴を合わせ持ったようなもので、おそらく変異種ではないかと」
「なるほど……それをレイラ男爵令嬢が用意したと」
「はい。しかし、透明に液体化していたことから、しかるべき施設と手順で加工、製造されていたと推測します。そうなると、レイラ男爵令嬢一人では実行は不可能かと思います」
「……協力者がいたと」
「はい。協力者……もしくは主犯が」
アイリーシャとアーロンの声だけが会場に響く中、周りの者たちは思いもよらぬ怒濤の展開に言葉を失っているようだった。
「……ほう。アイリーシャ嬢は、すでに見当がついているのかね?」
「……はい」
ふう、とひと息吐いたあと、アイリーシャは再び口を開いた。
「ゲオルク・ロイスナー宰相です」
どよめきと一緒に、会場の視線が一人の男に集まった。
群衆に混じり傍観を決め込んでいたゲオルクが、感情の読めない顔で立っている。彼の視線が鋭くアイリーシャに刺さった。
それを真正面から受け止める。
(さあ。本当の断罪の始まりよ)
アイリーシャは戦いに赴く騎士のように気持ちを震い立たせると、ぐっと両拳を握りしめた。




