卒業パーティー 断罪の行方④
それは前世で流行っていた異世界ファンタジーの漫画やゲームでよく使われていた、ヒロインに敵対する令嬢の呼称だ。
(もしかして、レイラも転生者? でも……なんで「悪役令嬢」? 前世の創作世界の記憶と自分の記憶がごちゃ混ぜになっているのかしら)
なにを言ってるんだ? 気でも触れたのか? と周囲が囁くのも顧みず、レイラは言葉を吐き続けた。
「ウルリヒもレオナルトもルーカスもいないしっ! ジークは冷たいし! カイルルートだけはうまく行ってたからそのままでいいと思ったのに!」
レイラが拳を床に叩きつけて叫んだ。
「私はヒロインなのよっ‼」
ううっ、と泣き伏せるレイラの様子を、カイルが隣で呆然と眺めている。
「カイルよ」
アーロン国王陛下の低い声が会場に響いた。
会場内が沈黙に包まれる。
「ち、父上……」
「お前のアイリーシャ嬢に対する愚行、かなり前から把握しておった」
カイルが驚きとも恐怖ともつかぬ表情で顔を引き攣らせた。
「無論、レイラ男爵令嬢の目に余る行動もな。しかし、ヘーリング家からの申し入れもあり、なによりお前が自ら過ちに気づき、改めることを願って静観しておったのだ」
「そんな……だが俺は……レイラが……」
カイルがかろうじて声を絞り出すが、アーロンは息子に冷たい視線を投げかけ告げた。
「このような結果となり、残念だ」
突き放すような一言に、カイルががっくりと膝を落とした。
「それでは、これで殿下のアイリーシャ様に対する断罪は事実無根ということでよろしいでしょうか」
ジークハルトがアーロンへと確認を取る。
「うむ。アイリーシャ嬢、この度の息子の愚行、申し訳なかった。カイルの処遇についてはこちらに任せてほしい」
「承知いたしました。お詫びもありがたくお受けいたします」
アイリーシャは軽くお辞儀をして、アーロンの謝罪を受け入れた。
「さて、レイラ・アードラー男爵令嬢。そなたのアイリーシャ嬢への狼藉は未遂に終わったとはいえ、許されるものではない。そなたを拘束し、しかるべき罰を受けてもらう」
地下牢へ、とアーロンが指示をすると、控えていた王宮騎士団がレイラを拘束した。
「は、放してっ! 私は悪くないっ! こんなの間違ってるっ。嫌っ、カイル、カイル様、助けて!」
「レ、レイラ……」
放心状態の令息とともに騎士団に抱えられるように場をあとにするレイラを、カイルが悲愴な表情で見送る。
「父上っ、どうか、レイラに寛大な処置をっ」
「……カイルよ。レイラ・アードラー男爵令嬢は他にも重大な罪を犯している疑いがある。それを明らかにするまでは罪状の最終判断はできん」
「他にも……?」
「あれだけ人目を憚らずレイラ嬢と一緒にいて気づきもしないとは。本当におめでたいですね」
(ちょっ、ジークっ。また毒舌が出てるわっ)
案の定、先程まで戦意喪失していたカイルが怒りに満ちた顔でジークハルトに食ってかかってきた。
「なんだとぉ‼ ジークハルト! たかが伯爵のくせに王子の私に対してなんという不敬だっ」
「カイル。不敬なのはお前のほうだ」
アーロンがカイルを窘める。
「な、なぜですかっ、父上!」
「……彼は伯爵の爵位も持っているが、隣国エンドフェル帝国第三皇子でもおられる」
今夜一番の大きなざわめきが起こった。みな一斉に驚きの声を上げる。




