卒業パーティー 断罪の行方 ③
ジークハルトが名を挙げると、人垣の中からターニャが進み出た。自然な動きで完璧なお辞儀をした。
「ターニャ嬢はあの日、アイリーシャ様と一緒に過ごされていたとか」
「はい。その通りでございます。あの日は、定期試験最終日でしたので覚えております。アイリーシャ様と私は試験後、王城におりました」
「王城へはどのような理由で?」
「王妃殿下よりお茶会の招待を受けておりました。それで、授業後すぐにアイリーシャ様と同じ馬車で王城へ向かいました。試験を終えてその足で向かいましたので、アイリーシャ様がお一人になる時間もありませんでした」
ターニャの証言に、レイラが顔を強張らせた。
「それに関しては、私が保証いたします」
グレーテル王妃が声を上げた。にこりと笑顔を浮かべる。
「アイリーシャ公爵令嬢とターニャ子爵令嬢は、私と日が暮れる時間までともに過ごしています」
王妃陛下がそう断言するならば、覆すことは誰にもできない。
ターニャが真っ直ぐにレイラを見て再び口を開いた。
「アイリーシャ様は学園の課題だけでなく、王子妃教育、家業の公務などもこなされています。毎日ご多忙であるアイリーシャ様がほとんど面識もない男爵令嬢への嫌がらせなどに気を配るお時間はないと思います。これは、まったくの冤罪です」
「なっ……」
「レイラのような格下の令嬢にかまけている暇はない」と暗に言われ、レイラが怒りを露わにした。
(嫌味だとは気づけたのね。そこまでお馬鹿さんではなかったみたい)
それにしても、と横目でジークハルトを盗み見る。
当事者はアイリーシャのはずなのに、まるで蚊帳の外にいるようだ。知らぬところでどんどんと事が進んでいくような感覚。ジークハルトなど、最初からこうなることはわかっていたのではないかと疑いたくなるくらい冷静な対応だ。そう、タイミングがよすぎるぐらいに。
「黙れ黙れっ! レイラを侮辱するのは許さんっ! そんな小さな罪はどうでもいいっ! レイラをさらって危害を加えようとした件は許されんぞっ」
カイルが怒りを露わに叫んだ。
「その件ですが……レイラ嬢。本当にアイリーシャ様があなたをさらって危害を加えようとしたと?」
「そ、そうよっ。ガーデンパーティーで知らない男たちにさらわれたのよっ」
レイラがジークハルトの問いかけにはっきりと答えた。
「そうですか……。では、あなたはご自分がさらわれたと仰るのですね」
「さっきからそう言ってるでしょう!」
「これを見てもそう言えますか?」
ジークハルトが手を上げて合図をすると、ヘーリング家騎士団の騎士が一人の男を連れてきた。
「あ、あなたっ」
レイラがその男の顔を見て真っ青になる。
その男は、レイラに依頼されアイリーシャの拉致を実行した令息だった。男はレイラを見るなり、身を震わせてレイラに訴えた。
「レ、レイラっ。頼むっ。あれをくれっ! もう気が狂いそうだっ」
「な、なにを言っているの? なんのことだか……」
レイラが顔を強張らせる。
「彼は……レイラ嬢に依頼をされて、先日のガーデンパーティーでアイリーシャ様を拉致し、賊に暴行を加えさせ、隣国へ売り飛ばそうとしていました」
ジークハルトの言葉に、会場がざわざわと波打った。なんてことを、と悲鳴に近い声を上げる令嬢もいた。
「う、嘘よっ。そんなことっ」
レイラが慌てて否定するが、それにかぶせるように男が叫ぶ。
「レイラっ。ほらっ、アイリーシャをさらったぞっ。あの女の髪も手に入れたっ。だから、早くあれを!」
(……もう正気じゃないわね。私をさらう計画が成功したと思い込んでいるんだわ)
レイラからあれを受け取りたいばかりに。
男は目を血走らせ、レイラを凝視している。
「そんな人、私は知らないわっ。私を貶めるために、アイリーシャ様が仕組んだのよっ」
「……庭園でアイリーシャ様が拉致された際、ガゼボに案内した給仕も捕らえています。彼はアードラー男爵家の使用人でした。当日は給仕に化け、まずレイラ嬢の名を使いカイル殿下を呼び出して庭園から遠ざけました。そのあと、『カイル殿下が呼んでいる』とアイリーシャ様に伝え、ガゼボまで案内するようレイラ嬢から命じられたそうです」
「っつ……」
レイラがその場に崩れ落ちた。ジークハルトがため息交じりに続ける。
「アイリーシャ様を襲った賊も捕縛しています。レイラ嬢。いい加減認めたらどうですか? あなたのずさんな計画はすでに破綻している。あなたは、アイリーシャ様を貶めるために懇意だった令息を利用し、カイル殿下の婚約者の座を奪おうとした」
「……してよ」
レイラがきっとアイリーシャを睨みつけた。
「どうしてよっ! あんたは悪役令嬢でしょっ! なんでうまくいかないのっ。ここは私のための世界なのよ!」
(「悪役令嬢」って……)
その懐かしい言葉の響きにアイリーシャは目を見開いた。




