卒業パーティー 断罪の行方②
ロベルトとへレーナにも同じことを伝えてあった。
(お父様すごい顔しているわ)
鬼の形相で怒りを必死に押さえているロベルトを横目で見る。でも一番恐ろしいのは、隣で能面のような顔で静かに佇んでいるへレーナだ。
「ありがとうございます」
ジークハルトがアーロンへと軽く一礼してから話を始めた。
「カイル殿下が挙げた、アイリーシャ様がレイラ嬢に行ったという悪行は全ていわれのないことです」
「そんなはずはないっ」
「あります。まず、食堂でレイラ嬢が転ばされたということですが、レイラ嬢にお答えいただきたい。それはレイラ嬢が編入されてから少し経ったころの話ですよね?」
「そうよ。アイリーシャ様に足を引っ掛けられて、転んでしまったのよ!」
「豪雨だったので、私も覚えています。アイリーシャ様は雨の日には食堂でお食事をされるので、確かに私も含め昼食時に食堂にいたことは事実です」
「だから言ったでしょっ。アイリーシャ様がわざと足を出したのよっ」
レイラがしてやったりという顔をして言い切った。
「しかし、あの時アイリーシャ様が珍しく食堂に現れたことで周りの注目がアイリーシャ様に集まっていました。そんな中、あなたに危害を加えることは不可能でしょう。あなたは、ご自分で転ばれたのです」
「そんなわけないでしょう⁇ それってジーク様がただ推測で言っているだけですよね? 証拠はないでしょう?」
「証拠はありません。でも、証人はいます」
ジークハルトが合図を送ると、遠巻きに見ていた集団の中から一人の令嬢がおずおずと歩み出てきた。丁寧に挨拶して顔を上げた。
「話してくださいますか?」
ジークハルトが促すと、令嬢はこくりと頷いて話し始めた。
「あの時、私は食堂で食事をしていたのですが、いつもお見かけしないアイリーシャ様がいらっしゃったので、様子をお窺いしておりました。そこにレイラ男爵令嬢が現れて、私の側にトレイを持って立っていらっしゃることに気づきました」
「レイラ嬢とアイリーシャ様の距離は近かったのですか?」
「いいえ。アイリーシャ様とレイラ嬢の間にはアイリーシャ様を一目見ようと集まってきた生徒たちがいたので、距離がありました。レイラ嬢はしばらくその人混みを抜けようとしていたように見えましたが、周りを見回してから、突然、きゃあと叫ぶと自ら倒れられたのです」
「嘘よっ」
レイラが大声を上げて証言をしている令嬢を睨んだ。令嬢が怯えたように肩を震わせた。
「大丈夫。続けて」
ジークハルトが優しく声をかけると、令嬢は再び口を開いた。
「あの時のことはよく覚えているのです。他の方はアイリーシャ様に注目していたので見ていないかもしれませんが、レイラ嬢は私の目の前で倒れられました。それで……レイラ嬢が落としてしまった食事が床に飛び散ってしまって、一部が私の制服にかかりました」
トマトソースの汚れが落ちず、かと言って制服も高級なので気軽に捨てられず、その制服はまだ取ってある、と令嬢は続けた。
すると、何人かが自分も見た、アイリーシャとレイラの間にいた、と言い出した。
(なるほど。決定的な証拠にはならないけど、私がしていないという状況証拠にはなり得るわね)
カイルもそのことに気づいたようだ。論点を素早く変えてきた。
「それはレイラの勘違いだったとしよう。しかし、勘違いで教科書が燃やされることなどなかろうっ」
「教科書が燃やされたというのはいつ、どこでですか?」
ジークハルトが尋ねると、レイラが答えた。
「授業後よ。教室に忘れたの。取りに戻ったら、燃えていて……」
「それは私も覚えている。レイラのあとを追って教室に行ったからな。レイラが燃えて使い物にならなくなった教科書を抱きしめて泣いていた」
カイルが同情の視線を腕の中のレイラに向けた。
「可哀想なことをした。私の婚約者が嫉妬深いばかりに」
(はあ? 私がいつ嫉妬したっていうのよ)
「お嬢、顔。出てますよ」
ジークハルトに耳打ちされ、慌てて令嬢モードのすました顔に戻す。
(いけないいけない。あまりの理不尽さに怒りが出てしまったわ)
「レイラ嬢。アイリーシャ様だと断言されたのはなぜですか?」
よくぞ聞いてくれたという顔で、レイラが答えた。
「私、見たのです。取りにいったときに教室から誰かが飛び出してきたのですが、アイリーシャ様でした!」
「周りには誰もいなかったのですか?」
「ええ。もうみなさん帰ったあとでした」
「教室から出てきた令嬢の顔をはっきりと見たのですか?」
「い、いえ。でも、後ろ姿は見ています。金色の髪でしたし、あれは絶対アイリーシャ様よっ」
「金色の髪のご令嬢はたくさんいらっしゃいますよ。まあ、アイリーシャ様ほどの美しい黄金の髪をお持ちの方はいらっしゃいませんが」
「ジーク、それは助けになってないわ」
「んんっ、すみません、つい」
ジークハルトは咳払いを一つすると、話を続けた。
「この件に関しても、証人がいます。ターニャ・マクミラン子爵令嬢」




