卒業パーティー 断罪の行方①
「アイリーシャ・ヘーリング公爵令嬢! 貴様との婚約はここに破棄する!」
カイルの怒号のような声が会場に響いたのは、パーティーが始まり、卒業生代表のスピーチをカイルが始めてまもなくだった。
(……あらまあ)
周囲が騒然となり、アイリーシャへと視線が一斉に注がれた。
こうしてこの場にどよめきが走るのは今夜で三度目だ。
一度目は第一王子の婚約者としてではなく、公爵家令嬢としてアイリーシャがジークハルトと入場したとき。
二度目は王族の入場でカイルがレイラをエスコートして現れたとき。
そして卒業スピーチにも関わらず、なぜか婚約破棄宣言をされた今。
(これは予想外だったけれど……むしろ好都合ね)
前からなんとか婚約解消できないかと模索していた中、相手から破棄してくれるなら儲けものだ。
うふっ♡喜んで、とすぐにでも承諾したいところだが、公爵令嬢という立場上、破棄の理由と責任の所在を明らかにしておく必要がある。
「……理由をお聞かせ願えますか?」
「ふんっ。貴様が一番わかっているだろう!」
「私には思い当たる節がありませんが」
不仲だったとしても、婚約者として王子妃教育もこなし、そつなく振舞ってきたつもりだ。重責になるような心当たりはない。
するとカイルがアイリーシャを睨みつけ、さらに声を上げた。
「とぼける気か! お前がレイラに数々の嫌がらせや狼藉を働いたことはわかっているぞっ!」
(……は?)
なにを言っているのか。まったくいわれのないことで責められて唖然とする。
「仰っている意味がわかりません。私はレイラ・アードラー男爵令嬢とほとんど話したこともございません」
「嘘を言うな! レイラから聞いているぞっ。レイラの身分が低いことを理由に嫌味を吐き、食堂でわざと転ばせ恥をかかせ、レイラの教科書を燃やし、挙げ句に賊を使って誘拐して危害を加えようとしたらしいではないかっ!」
まさかアイリーシャ様が……と周りの囁き声が聞こえてくる。
もしかしてこれは、断罪されそうになっているのだろうか。それも事前確認をすることなく、公の面前で。
沸々と体の中から怒りが込み上げてきた。
婚約破棄は大歓迎だが、覚えもないことで断罪されることは不本意だ。
「どれも身に覚えがありません」
真っ直ぐカイルを見返し、はっきりと告げる。
「アイリーシャ様っ。潔く罪を認めてくださいっ。私っ、私本当に怖かったんですっ……」
どこからともなく飛び出してきて、カイルの隣に走り寄ったレイラが泣きながらそう訴えた。カイルがそんなレイラを抱きしめる。カイルの腕の中でレイラが人知れずほくそ笑むのを見逃さなかった。
(なるほどね)
レイラは自分の罪が明らかになる前に、アイリーシャを貶めて、自らの悪事をなかったことにしようとしているのだ。
「可哀想なレイラ。今からあの悪女の悪事を暴いてやる」
「カイル様っ……」
レイラがカイルを抱きしめ返す。
「証拠は?」
その二人のやり取りを完全に無視して、アイリーシャは口を開いた。
「なんだと?」
カイルが眉をひそめてこちらを見た。
「私がレイラ男爵令嬢に罪を働いたという証拠はあるのですよね?」
「そ、それは……」
「まさか、確たる証拠もなく、国王陛下の御前で公爵家の令嬢である私を断罪しようと声を上げられたのですか?」
なんという浅はかな行為だろう。
軽蔑を込めた視線をカイルに向けると、カイルが羞恥に顔を赤くして叫んだ。
「うるさいっ! レイラがそう言ったのだ!」
「レイラ男爵令嬢が言ったからといって、それは証拠にはなりません」
「なにぃっ!」
今にも壇上からアイリーシャに飛びかかりそうなカイルを冷静に見やる。
あの男は一体誰なのだろう。顔は醜く歪み、荒い息を吐いて、獣のごとく本能に任せて吠えている。
好いてはいなかったが、昔のカイルは、頑固な面はあったが芯のある真面目な男だった。王族の一員としての矜持を誰よりも重んじていた。
それが今はどうだ。見る影もない。
これがカイルの本性だったのだろうか。それとも――。
「僭越ながら申し上げてもよろしいでしょうか」
ジークハルトがすっとアイリーシャの前に出た。
「ジークハルトっ! 今はお前が出る幕ではないっ」
カイルが即座に却下するが、その上から別の声が上がった。
「よい。私が許可しよう」
「父上っ……」
最壇上から様子を見ていたアーロン国王陛下だった。
アイリーシャと目を合わせると、軽く頷いた。
実は、国王陛下夫妻にはこの卒業パーティーでゲオルク・ロイスナーの断罪を行うこと、その流れでカイルとレイラの目に余る行動について報告してあった。
全てを明らかにさせるため、国王の助けが必要となる以外は、なるべく静観してほしいと頼んでいた。




