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家族会議

「以上が報告になります」


 マリアが先日起きた、アイリーシャ拉致事件の後処理の報告をし終えると、先に報告を受けていたアイリーシャとジークハルト以外のヘーリング家の面々が、大きなため息をついてソファにもたれた。


 ヘーリング家の執務室には、両親とアイリーシャ、執事のセバスチャンとマリア、それにジークハルトが揃っていた。クリスティアンも同席したがったが、まだ幼いという理由で家族会議の参加を却下された。


「では、今回の件は、アードラー男爵令嬢が計画したことだと?」

「はい、旦那様。アードラー男爵令嬢様に頼まれたと協力者から証言が取れました」


 ジークハルトがマリアに代わって答えた。


 事件後、ヘーリング家によって捕縛した賊たちを取り調べたが、あまり有力な情報は得られなかった。そこで、アイリーシャが無事だったことは内密にした上で、ジークハルトとヘーリング家騎士団が、髭面の男がアイリーシャの髪束と引き換えに残りの報酬を受け取る予定だった場所に張り込みをし、現れた男を捕まえた。


 男は日頃レイラと懇意にしていた令息の一人だった。

 最初、男は頑なに口を割らなかったが、なにも知らなかった男の両親から強く叱責を受けると、事の深刻さに気がついたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。

 そこで、レイラに頼まれてアイリーシャを拉致する計画を立てたことを白状したのだ。


 ただし、証言だけで確たる証拠があるわけでもない。その男が勝手にやったことだと突っぱねられればそれ以上追及できないだろう。


 それにしても、アイリーシャが何事もなかったかのように登校してきたときの、レイラの反応は愉快だった。まるで幽霊でも見たかのような青ざめた顔をして失神してしまったのだ。きっと今もいつ自分の悪行が公にならないかと、びくびくしているだろう。


「それで、アードラー男爵令嬢を探ったら、宰相との繋がりが出てきたと?」


 続けてロベルトが確認すると、マリアが頷いて肯定した。


「はい。以前よりレイラ様について調べておりましたが、定期的にロイスナー宰相と密会しており、繋がりがあることは確かです」

「あのゲオルクがねえ」


 へレーナが呟いた。


「確かに昔から女性関係は派手だったけれど、そんな自分の子どもでもおかしくない年頃の娘にも手を出すかしら」

「断定はできませんが、レイラ様とはそのような関係ではなさそうです」

「あら、そうなの?」

「はい。アイリーシャお嬢様の指示でその後も何度か探っているのですが、密会といってもいつも短い間だけで、話し声は聞こえるそうですが、行為に及んだような様子はなく、出てきた際に着衣の乱れもないそうです」

「じゃあ、一体どんな繋がりがあるのかしらね」

「それに関しては、お母様。少し考えがあって、今調べてもらっています」


 アイリーシャが会話に割って入った。ここ数ヶ月、レイラとゲオルクが定期的に会っていることは把握していた。最初は男女の仲を疑ったが、マリアの報告通り、そんな甘い空気は感じられなかったという。恋仲でないならば、なにか他にレイラでなくてはならない事情があるのではないか。


 独身で浮名を流し続けるゲオルク。平民から男爵令嬢となったレイラ。マクミラン家に関するなにかに興味があり、それにレイラを利用した。しかもレイラはコーエンだけでなく、カイルや他の令息とも懇意にしている。

 そこまで考えて、ある可能性に思い当たった。


「まだ確証はないので、はっきりしたらご報告しますわね」

「……わかったわ。それで、今回の件にゲオルクは関係しているのかしら?」


 空気がピリッと緊張感を増した。もしゲオルクがアイリーシャの拉致事件を裏で指示していたとなると、ヘーリング家としても黙っていられない。


 すると、マリアが軽く頭を振った。


「いえ。今回のお嬢様の件に関してはロイスナー宰相が関わっているという証拠は掴めませんでした」

「私は今回の件はレイラ嬢の単独での犯行だと思っています」とアイリーシャも続いた。


「そう。じゃあ、ゲオルクが絡んでいるのは別件ということね?」

「はい」


 そこでアイリーシャは、ゲオルクがマクミラン家に強く興味を示していることを、マリアやターニャからの情報を含めて話した。


「なるほど。しかし、マクミラン家は領地も家格も突出しておらんし、一体どこに宰相は目をつけたのだろうな」


 ロベルトが考えるような仕草をした。


「……実は、それも一つ思い当たる可能性があります」

「そうなのか?」

「はい……」


 アイリーシャがその可能性について語ると、ロベルトもへレーナも驚愕の声を上げた。


「まさかっ……」

「もしそれが事実だとすれば、重罪だぞ」

「……そうですね。なので、調査も判断も慎重にしなければなりませんわ。今のまま全て状況証拠だけで問い詰めたとしてもかわされるでしょう」

「……宰相を探るつもりか?」


 ロベルトがじっとアイリーシャを見つめた。真っ直ぐに見つめ返す。


「はい」

「そうか……。私たちにできることはあるかい?」

「そうですね。できたら、今回の拉致の件はこのまましばらく内密にしていただきたく思います」

「しかし……」


 そこで、ジークハルトが口を開いた。


「賊とあの令息の証言だけではレイラ嬢を断罪するには弱いです。さらなる証拠が必要かと。宰相を探ることで、宰相の目的に加えてそれも掴めるかもしれません。そのためにも、今はレイラ嬢を泳がせておくのがよいかと」

「ふむ……そうだな」

「大丈夫です。アイリーシャ様を傷つけた報いは必ず受けてもらいますから」


 ジークハルトが含みのある静かな笑みを浮かべた。そこに深い闇を見た気がして、アイリーシャたちはこれ以上の追究はしまいと閉口したのだった。


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