颯太の記憶②
あれから色々あった。人助けに精を出すようになって、ジークハルトにも出会って、こうして颯太とも再会できた。そこでふと疑問に思う。
「ねえ。ジークは私が飛鳥だと気づいていたの?」
「……はい。というより、飛鳥を探してここまで辿り着いた感じです」
「え、そうなの?」
「はい。俺が転生したのなら、飛鳥も同じ世界に転生していてもおかしくないと思いました。だから、探してみようと。時間はかかりましたけどね」
「よく見つけられたわね」
「お嬢はもともと目立ってましたから」
「私が?」
「噂になってたの知りません? レブリオ王国には優秀で可愛らしい公爵令嬢がいると」
「そんなの知らなかったわ」
「まあ、旦那様たちのガードが堅かったでしょうから」
「……それは想像がつくわね」
アイリーシャの知らぬところで、アイリーシャに近づく輩を、ロベルトたちが片っ端から弾いていたとしても不思議ではない。
「でもどうやって飛鳥だとわかったの?」
「『真紅の影姫』ですよ」
ジークハルトが口角を上げた。
「俺が八歳ぐらいのとき、『真紅の影姫』の名が広がり始めたんです。正体を明かさず人助けをしている小柄な女性がいると。みんなさすがに子どもだとは思わなかったんでしょうけど」
そこでジークハルトは、飛鳥が世直し番組が大好きだったことを覚えており、忍びを思わせる装束に身を包んでいるという目撃証言から、「真紅の影姫」は飛鳥ではないかと疑った。
そこから「真紅の影姫」が現れそうな屋敷などを張り続け、ようやく飛鳥を見つけたのは探し始めて一年ほど経ったころだった。
「それから、伝手を辿って従者見習いとしてヘーリング家に預かってもらいました。お嬢が前世の記憶はあるけど飛鳥の最期の記憶が曖昧そうだったので、なら黙ってようかと」
颯太も飛鳥と同じ忍者の里の末裔の一人だ。飛鳥以上に優秀だった颯太だったからこそ、一年ほどで見つけられたのだと思う。
「なんだ。だとしたら、最初からジークは忍術は完璧だったってことじゃないの」
やけに習得が早いなと思っていたが、すでに身につけていたということか。
「まあ、そうなりますね」
「なによ。じゃあ、修行は無駄だったってこと? わざとできないフリしてたの?」
「そこは、すみません。怪しまれないようにと思って。それに修行は復習にも鍛錬にもなるので無駄じゃなかったですし」
「もう」
むくれてその辺りにあったクッションをジークハルトに投げつけた。
それをあっさりと手で受けて、ジークハルトが再び謝罪を口にする。
「すみませんって。許してくださいよ。そうしてでも、ここにいたかったんですよ」
「……ねえ、敬語止めない? 颯太だと思うと、変な感じだわ」
「それはできません。俺は今、アイリーシャ様の従者なんで」
「でも……」
「お嬢、颯太と飛鳥は前世の人間ですよ。あくまで記憶にすぎません」
そう静かに諭されて、口を閉じた。
ジークハルトの言うとおりだ。アイリーシャたちはもう新しい人生を生きている。颯太と飛鳥の関係性はすでに過去のことなのだ。
「……わかったわ」
ジークハルトがふっと笑顔を見せて立ち上がった。アイリーシャの座るソファへと近づいて、アイリーシャの投げたクッションを元の位置に戻した。
「……ジーク」
「はい」
ジークハルトを見上げる。ジークハルトの海色の瞳を真っ直ぐに見つめて、言い忘れていた大切なことを告げた。
「助けてくれてありがとう」
「……はい」
ジークハルトの右手が伸びてくる。いつものように、アイリーシャの頭を優しくぽんぽんとするために。




